画家 田中恵子のブログ

画家 田中恵子の鎌倉七里ガ浜のアトリエから

今さら聞けない「絵の具って何?」その2

2017年08月13日 | テンペラと油彩「絵画古典技法」

今さら聞けない「絵の具って何?」その2
~テンペラと油彩 絵画古典技法 4 ~

前回は、絵の具の「顔料」(色の粉)のお話でした。
今回は、絵の具のもう一つの要素、
「接着成分」についてです。

写真の左下は前回ご紹介した「顔料」(色の粉)です。
それ以外の4種類が、絵の具の「接着成分」です。
これら絵の具の「接着成分」のことを「転色剤」と言います。

全ての絵の具は「顔料」と「転色剤」で出来ています。

右上が「アクリル メデューム」です。
「顔料」と「アクリル メデューム」を混ぜると「アクリル絵の具」になります。
アクリル絵の具の「転色剤」は「アクリル」ということです。

写真にはありませんが「アラビアゴム」も画材店で販売されていますが、
水彩絵の具の「転色剤」は「アラビアゴム」です。

右から2番目が「リンシードオイル」です。
「顔料」と「リンシードオイル」を混ぜると「油絵具」になります。
「油絵具」の「転色剤」は「リンシードオイル」などの乾性油です。

手前の誰が見てもわかる「卵」は、「テンペラ絵の具」の「転色剤」です。
「顔料」と「卵」を混ぜると「テンペラ絵の具」ができます。

考え方は簡単ですね。

上段左が「膠(ニカワ)」です。
日本画では「岩絵の具」をニカワ水で溶いたもので描きます。
ニカワ水は常温で凝固するので、湯煎にかけながら作業します。

これで皆さん、相当な「絵の具通」になれたと思います。
そこで次回は、少し詳しい話へ・・・。

 

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今さら聞けない「絵の具って何?」その1

2017年07月29日 | テンペラと油彩「絵画古典技法」

今さら聞けない「絵の具って何?」その1
~テンペラと油彩 絵画古典技法 3 ~

今回は、古典技法の難しいお話ではありません。
絵画一般の知ってて得する、やさしいお話の始まりです。

皆さん、小学校から中学高校まで、授業で絵を描いてましたよね。
現在、絵を描くのが趣味の方も、「絵の具って何?」と尋ねられて、
きちんと答えられる方は少ないのではないでしょうか?

すべての絵の具は、色の粉と画面に接着するもので出来ています。
色の粉を西洋絵画では「顔料(がんりょう)」と言います。
今回は、この「顔料」についてです。

絵を描いている方なら誰でも知っているこの画材メーカーにも、
この様なビンに入った「顔料」が商品のラインナップとして揃っています。
大きめの画材店や、小さな画材店でも専門的なものを扱っているところなら、
置いているところがあります。
中身は色の「粉」です。
鉱物である場合が多いですが、近年は化学的に作られたものも多くなっています。

古い時代から使われていた、希少で高価なものには、
ラピスラズリ(瑠璃)の砕いたものがあります。
ラピスラズリは天然石ビーズなどで、現在とても人気ですよね。
ラピスラズリのブレスレットやネックレスをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
現在は化学的に作られた比較的安価で耐久性のある青色の顔料が出ていますので、
ラピスラズリィの粉を使う人はあまりいないと思いますが、
何百年間も、最も貴重な青色「顔料」として使われてきました。

「なぜキリストと聖母マリアの衣が青いのか?」
その理由が、「青色顔料のラピスラズリが高価だったから、尊い方々の衣に使った。」というのは、
ちょっと面白い理由だと思いませんか?

写真の2列目の「顔料」はほとんどが「土」です。

「バーントシェンナ」はイタリアのシエナの赤土を焼いたもので、赤褐色の顔料です。
「テールベルトグリーン」は「緑土」です。
奥は代表的な白色顔料「酸化チタン」と「鉛白」です。
酸化チタンは、私がいつも油彩とテンペラの混合技法で描く時に、
テンペラ絵の具の白を作るために使用しているので、大きな容器で購入しています。

私は西欧絵画の古典技法が専門なので、洋画の「顔料」について書きましたが、
日本画の色の粉についても触れておきます。
日本画では色の粉を「岩絵具」と言います。
希少な鉱物である場合が多く、貴石、半貴石などを焼成したものが使われます。
興味のある方は調べてみてくださいね。

では次回は、画面との接着の役割を果たす物質についてのお話です。

 

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「テンペラとは?」西欧絵画古典技法と私の技法について

2017年02月19日 | テンペラと油彩「絵画古典技法」

「洋梨の肖像」15×15cm

「テンペラとは?」

西欧絵画古典技法と私の技法について

この1ページを読むだけで、絵画技法の根本が全てわかる!

 

全ての絵の具の原料は、顔料と呼ばれる色の粉です。

その顔料を油で溶いたものが、油絵具、卵で溶いたものが、テンペラ絵の具です。

 

ルネサンス時代に油絵具が発明されましたが、それまでは、テンペラ絵の具が主流でした。

ボッティチェリの「春」や「ヴィーナスの誕生」はテンペラ絵の具による作品です。

ルネサンス時代の作品で油彩となっているものも、実はテンペラを併用している場合もある様です。

 

テンペラは不透明で速乾性、油絵具は透明で乾きが遅い特徴があり、

併用することによって、 より自由な表現が可能になります。

当然、当時の多くの画家が併用したと思われます。

当時の油絵具は自作、またはお弟子さんが師匠独自の調合で作ったわけですから、

今の油絵具と違って、乾きの比較的早い、緻密な描写も可能な調合であったと思われます。

レオナルド・ダ・ヴィンチは油彩を好んだようですね。

 

19世紀の産業革命により、油絵具は工業生産されるようになりました。

テンペラ絵の具は今でも画家が毎回自分で作ります。

私は白のみテンペラ絵の具を使用し、着色は市販の油絵の具を使用しています。

油絵具の油や、テンペラ絵の具の卵は、画面への接着の役割をしていて、転色剤と呼ばれます。

水彩絵の具の転色剤はアラビアゴム、アクリル絵の具の転色剤はアクリル樹脂です。

 

日本画では岩絵の具と言って日本独自の色の粉を使っています。

希少で高価なものも多く、転色剤は膠(にかわ)です。

 

西洋の顔料で特に高価だったのはラピスラズリー(青)で、

当時、金より高価でした。(現在もですよね? )

 

フレスコ画は壁画に使われるため、転色剤を使わずに描きます。

それは漆喰の壁が漆喰の機能を失わないため、また剥離を防ぐためです。

漆喰は湿度が高いと湿度を吸い、湿度が低いと湿度を放出します。

漆喰を部分的に塗り、水で溶いた顔料で、漆喰部分が乾かないうちに描き、

乾くと漆喰と顔料が一体になります。

部分的に計画的に描いていきます。

最終的にテンペラで加筆することもあったようです。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチはフレスコ画の表現力に満足できず(たぶん)、

湿気の多い場所の壁面に、油絵具で描いてしまったため、

「最期の晩餐」は完成して10年以内に剥離が始まったとか・・・。

修復を重ねて現在に至っています。

 

私が、なぜテンペラと油彩を使用し、

下地から古典技法に近い方法を用いているかというと、

その伝統的な技法こそが、私が描きたいものを描きたいように描ける唯一の技法であり、

実際に500年の時を超える堅牢さを持っているからです。

 

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