重度脳性まひの受験生、定員割れでも不合格に 神戸の定時制高校
夜間定時制の神戸市立楠高校(同市兵庫区)で今年3月、2018年度入試の受験者が定員を下回っていたのにもかかわらず、中学3年生で受けた重度脳性まひの男性(16)が不合格となった。兵庫県内の公立高校入試のうち、定員割れで唯一の不合格だった。「障害が理由だったのではないか」と訴える本人や両親に対し、「本校の教育に足る能力と適性を備えているかどうか、総合的に判断した結果」とする学校側。話し合いは平行線のままだ。(鈴木久仁子)
男性は、うなずくことで「はい」、首を振ることで「いいえ」の意思表示はできるが、話すことはできない。日常生活の全てに介助が必要で、車いすを使う。チューブで栄養剤を胃に注入する「胃ろう」の手術を受けているため、地元の小中学校では看護師が配置されたが、いつも多くの友達に囲まれてきた。
マラソンの練習では誰かが歩行器を押し、男性は長縄跳びもドッジボールも特別ルールで輪に入った。小中とも親の付き添いなしで修学旅行に参加した。
母親は「本人は人が言っていることはほぼ分かっている」とし、「地域の学校で友達や先生と触れ合い、心身とも大きく成長した。学校が大好きだった。複数の学校を見学したが、どこより楠高校に行きたいという本人の意思表示もあり、目指すことになった」と志望動機を代弁する。
受験で学校側は、読み上げや代筆、文字の拡大、別室、時間延長など「特別な措置をして万全を期した」とする。本人も解答が可能な選択問題に臨んだが、結果は不合格。定員割れで再募集の学力検査も不合格となった。
現在、定時制高校には働きながら学ぶ生徒ばかりでなく、不登校経験者、高齢者、外国人など、さまざまな立場の生徒が通学する。障害者手帳所持者も数多く通う。両親は合否判定に納得がいかず、学校側に試験結果の開示を請求。話し合いが持たれた。試験結果も踏まえ「障害が理由では」と尋ねると、校長は「入学者選抜要綱にのっとり、判定した結果」と強調した。
16年施行の障害者差別解消法は、障害を理由とした差別的な扱いを禁じている。11月7日には、男性と母親が神戸市障害福祉課に相談し、法に抵触していないかどうかについて市教育委員会に聞き取りするよう求めた。
神戸新聞社の取材に、市教委は「定員内不合格だったので、合否判定について校長から報告を受けた。協議の結果、学校側の判断は妥当だ」としている。
◇中学までの支援継続を 落合俊郎・大和大教授
国連障害者権利委員会は2020年春、障害者権利条約が日本できちんと守られているかどうか、審査に来ることを予定している。国連がゴールとして求めるのは、フル・インクルージョン(あらゆる障害のある児童生徒を通常学級の中で教育する方法)。大変なゴールだ。現在、日本でもインクルージョンは行われているが、幼児教育から小中高と年齢が上がるにつれ、特別支援教育制度に移行する傾向にある。
この男性がこれまで多くの支援を受けながら、中学まで在学できたのなら、定時制高校でもできないか。他の生徒にも、障害のある人の状況や支援方法を知ることができて有意義だし、多くの知識やスキルを持った先生もいる。高校には、これまで築いてきた中学校教育までの流れを継続できる、新たなチャレンジを期待したい。その経験は多くの関係者の誇りにつながると思う。(談)
【おちあい・としろう】広島大名誉教授。専門は教育学。特別支援教育制度、重複障害のある児童生徒の教育などを研究。
(https://www.kobe-np.co.jp/news/kyouiku/201811/0011850245.shtmlより)
「この男性がこれまで多くの支援を受けながら、中学まで在学できたのなら、定時制高校でもできないか。」との指摘に対してコメントします。
高校は小中学と違い、義務教育ではありません。
「できる」ようにするためには、様々な配慮が必要です。
配慮を行なうには手間と時間が必要ですから、看護師や教師の追加配置等が必要です。
それを行なうのが果たして合理的なのか、やるなら財源は……
色々、一筋縄ではいかないと思いますよ。
最もいけないのは、人員を増やさずに、現場の教師に「配慮しなさい」と丸投げすることです。
教育委員会は、それをしなかった。
保護者の方は納得していないようですが、私には、教育委員会の判断を批判することはできません。
夜間定時制の神戸市立楠高校(同市兵庫区)で今年3月、2018年度入試の受験者が定員を下回っていたのにもかかわらず、中学3年生で受けた重度脳性まひの男性(16)が不合格となった。兵庫県内の公立高校入試のうち、定員割れで唯一の不合格だった。「障害が理由だったのではないか」と訴える本人や両親に対し、「本校の教育に足る能力と適性を備えているかどうか、総合的に判断した結果」とする学校側。話し合いは平行線のままだ。(鈴木久仁子)
男性は、うなずくことで「はい」、首を振ることで「いいえ」の意思表示はできるが、話すことはできない。日常生活の全てに介助が必要で、車いすを使う。チューブで栄養剤を胃に注入する「胃ろう」の手術を受けているため、地元の小中学校では看護師が配置されたが、いつも多くの友達に囲まれてきた。
マラソンの練習では誰かが歩行器を押し、男性は長縄跳びもドッジボールも特別ルールで輪に入った。小中とも親の付き添いなしで修学旅行に参加した。
母親は「本人は人が言っていることはほぼ分かっている」とし、「地域の学校で友達や先生と触れ合い、心身とも大きく成長した。学校が大好きだった。複数の学校を見学したが、どこより楠高校に行きたいという本人の意思表示もあり、目指すことになった」と志望動機を代弁する。
受験で学校側は、読み上げや代筆、文字の拡大、別室、時間延長など「特別な措置をして万全を期した」とする。本人も解答が可能な選択問題に臨んだが、結果は不合格。定員割れで再募集の学力検査も不合格となった。
現在、定時制高校には働きながら学ぶ生徒ばかりでなく、不登校経験者、高齢者、外国人など、さまざまな立場の生徒が通学する。障害者手帳所持者も数多く通う。両親は合否判定に納得がいかず、学校側に試験結果の開示を請求。話し合いが持たれた。試験結果も踏まえ「障害が理由では」と尋ねると、校長は「入学者選抜要綱にのっとり、判定した結果」と強調した。
16年施行の障害者差別解消法は、障害を理由とした差別的な扱いを禁じている。11月7日には、男性と母親が神戸市障害福祉課に相談し、法に抵触していないかどうかについて市教育委員会に聞き取りするよう求めた。
神戸新聞社の取材に、市教委は「定員内不合格だったので、合否判定について校長から報告を受けた。協議の結果、学校側の判断は妥当だ」としている。
◇中学までの支援継続を 落合俊郎・大和大教授
国連障害者権利委員会は2020年春、障害者権利条約が日本できちんと守られているかどうか、審査に来ることを予定している。国連がゴールとして求めるのは、フル・インクルージョン(あらゆる障害のある児童生徒を通常学級の中で教育する方法)。大変なゴールだ。現在、日本でもインクルージョンは行われているが、幼児教育から小中高と年齢が上がるにつれ、特別支援教育制度に移行する傾向にある。
この男性がこれまで多くの支援を受けながら、中学まで在学できたのなら、定時制高校でもできないか。他の生徒にも、障害のある人の状況や支援方法を知ることができて有意義だし、多くの知識やスキルを持った先生もいる。高校には、これまで築いてきた中学校教育までの流れを継続できる、新たなチャレンジを期待したい。その経験は多くの関係者の誇りにつながると思う。(談)
【おちあい・としろう】広島大名誉教授。専門は教育学。特別支援教育制度、重複障害のある児童生徒の教育などを研究。
(https://www.kobe-np.co.jp/news/kyouiku/201811/0011850245.shtmlより)
「この男性がこれまで多くの支援を受けながら、中学まで在学できたのなら、定時制高校でもできないか。」との指摘に対してコメントします。
高校は小中学と違い、義務教育ではありません。
「できる」ようにするためには、様々な配慮が必要です。
配慮を行なうには手間と時間が必要ですから、看護師や教師の追加配置等が必要です。
それを行なうのが果たして合理的なのか、やるなら財源は……
色々、一筋縄ではいかないと思いますよ。
最もいけないのは、人員を増やさずに、現場の教師に「配慮しなさい」と丸投げすることです。
教育委員会は、それをしなかった。
保護者の方は納得していないようですが、私には、教育委員会の判断を批判することはできません。