土筆島を出て、東の方へ歩みを進めた。
候補者を捜し回る日々を続けたが、結局は実家付近まで来てしまった。
「また帰ってきたの……?」
不満そうに、コトミがオレに言ってきた。コトミは、いろいろな場所に行きたいのだろう。なので、ここに来ると、行き飽きたのか機嫌が悪くなる。
「お前も分かってだろう。簡単に対戦相手と巡り会えないことくらい」
監視しているだけのコトミには、オレの苦労は分かるまい……。
「あたしは、パスクさんともっと遠くへ行きたい……」
「悪いが、オレは幼女に興味はない」
「……そ、そ、そういう意味じゃないもん!」
憂さ晴らしにちょっとからかってみたら、コトミの頬が面白いように赤くなった。
「じゃあ、どういう意味だよ?」
「パスクさんには、関係ないもん!」
赤くなっていた頬が今度は膨らませて、目線をこちらから逸らした。
「風呂でも入って、疲れを癒やすか……」
実家に立ち寄っても良かったのだが、すぐにも浸かりたいと思い、山奥に入った。
気分転換をしたかったのだ。ホオンとの戦いで『あの名前』を出されると思わなかった。
名前を口にするだけでも、苛立ってしまう。
まず会うことはないだろうから、忘れるのが手っ取り早い。
「単純な人は楽だな……」
隣を歩くコトミが横やりを入れてきた。
「なんだと! オレの苦労も知らずに言うな」
「あたしだって、大変なの! パスクさんには分からないだもん!」
どうも今日のコトミは、様子がおかしい。
オレ以上に不機嫌なコトミを連れて湯治場がある付近まで来たが、人気を感じた。
こんな山奥へ滅多に人は来ない。警戒しながら、奥へ進んだ。
「やっぱりな……。誰かいる」
「候補者?」
「可能性はあるな……」
比較的新しい足跡を見つけた。こんな山奥、誰かに追われて身を潜めようと考えない限り、来るはずがない。
更に奥の方へ進むと、湯治場付近に人影が見えた。
「また、先客がいる」
オレ専用に作ったのに、またもや誰かに使われてしまっていた。
湯治場の上からまわり、尾根伝いに降りていった。やはり、湯船に誰かが入っている。その男は、体つきもよく、その横には剣らしきものが光っていた。この状況下で、たった一人で剣を持ち歩くのはせいぜい候補者くらいだから、間違いないだろう。
ここで不意打ちをかけても面白いのだが、タトリーニの時は取り逃がした。
「コトミ、ちょっと面白いことをするからみててくれ」
「何をするの?」
不思議そうにこちらを見るコトミに、思わず語った。
「タトリーニみたいなこともあるからな。こんな時のために仕掛けた罠がある」
ミタチアとの戦いを終えた後、思い付いたことがあった。煙幕で相手の気力を奪うのは、面白いアイディアだと思った。けど、真似るのはさすがに芸がない。そこで、万が一湯船に誰が入ってきたら使おうと思っていた罠がある。
罠を発動させる縄の位置を確認した。これで準備良し。
「お前、ここでなにしている」
湯船にどっぷりと浸かる男に向かって話しかけた。
「人探しをしている……。疲れたところに、ちょうど風呂があったげえ」
この男は、オレよりも少し若い印象を受けた。
「人探し? 物騒なものを持ち歩いて、誰を探しているんだ?」
分かっているが、知らないフリをして聞いてみた。
「ああ、対戦相手を探しているんだげえ」
「そんな奴は、ここにはいないんだよ!」
愛剣を振り抜くと、罠を発動させる縄を切った。
「うおおおぉぉぉ!!」
縄に繋がれていた浴槽は、山の斜面を勢いよく滑り降りていった。やはり、水の重さもあるから、スピードは予想以上に出ているだろう。
これで、不要な戦いも避けられる。
「コトミ、オレの勝ちで良いんだろ?」
「……そんなわけ、ないじゃない」
あまりにもそれは卑怯だろう……と言わんばかりの冷たい視線で、オレを見る。
だよな……。反撃不可まで追い込んでいないし、降参宣言も聞いていない。
愛剣を鞘には仕舞わずに、浴槽が付けた跡を追いながら、山を下っていった。
≪ 第50話-[目次]-第52話 ≫
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候補者を捜し回る日々を続けたが、結局は実家付近まで来てしまった。
「また帰ってきたの……?」
不満そうに、コトミがオレに言ってきた。コトミは、いろいろな場所に行きたいのだろう。なので、ここに来ると、行き飽きたのか機嫌が悪くなる。
「お前も分かってだろう。簡単に対戦相手と巡り会えないことくらい」
監視しているだけのコトミには、オレの苦労は分かるまい……。
「あたしは、パスクさんともっと遠くへ行きたい……」
「悪いが、オレは幼女に興味はない」
「……そ、そ、そういう意味じゃないもん!」
憂さ晴らしにちょっとからかってみたら、コトミの頬が面白いように赤くなった。
「じゃあ、どういう意味だよ?」
「パスクさんには、関係ないもん!」
赤くなっていた頬が今度は膨らませて、目線をこちらから逸らした。
「風呂でも入って、疲れを癒やすか……」
実家に立ち寄っても良かったのだが、すぐにも浸かりたいと思い、山奥に入った。
気分転換をしたかったのだ。ホオンとの戦いで『あの名前』を出されると思わなかった。
名前を口にするだけでも、苛立ってしまう。
まず会うことはないだろうから、忘れるのが手っ取り早い。
「単純な人は楽だな……」
隣を歩くコトミが横やりを入れてきた。
「なんだと! オレの苦労も知らずに言うな」
「あたしだって、大変なの! パスクさんには分からないだもん!」
どうも今日のコトミは、様子がおかしい。
オレ以上に不機嫌なコトミを連れて湯治場がある付近まで来たが、人気を感じた。
こんな山奥へ滅多に人は来ない。警戒しながら、奥へ進んだ。
「やっぱりな……。誰かいる」
「候補者?」
「可能性はあるな……」
比較的新しい足跡を見つけた。こんな山奥、誰かに追われて身を潜めようと考えない限り、来るはずがない。
更に奥の方へ進むと、湯治場付近に人影が見えた。
「また、先客がいる」
オレ専用に作ったのに、またもや誰かに使われてしまっていた。
湯治場の上からまわり、尾根伝いに降りていった。やはり、湯船に誰かが入っている。その男は、体つきもよく、その横には剣らしきものが光っていた。この状況下で、たった一人で剣を持ち歩くのはせいぜい候補者くらいだから、間違いないだろう。
ここで不意打ちをかけても面白いのだが、タトリーニの時は取り逃がした。
「コトミ、ちょっと面白いことをするからみててくれ」
「何をするの?」
不思議そうにこちらを見るコトミに、思わず語った。
「タトリーニみたいなこともあるからな。こんな時のために仕掛けた罠がある」
ミタチアとの戦いを終えた後、思い付いたことがあった。煙幕で相手の気力を奪うのは、面白いアイディアだと思った。けど、真似るのはさすがに芸がない。そこで、万が一湯船に誰が入ってきたら使おうと思っていた罠がある。
罠を発動させる縄の位置を確認した。これで準備良し。
「お前、ここでなにしている」
湯船にどっぷりと浸かる男に向かって話しかけた。
「人探しをしている……。疲れたところに、ちょうど風呂があったげえ」
この男は、オレよりも少し若い印象を受けた。
「人探し? 物騒なものを持ち歩いて、誰を探しているんだ?」
分かっているが、知らないフリをして聞いてみた。
「ああ、対戦相手を探しているんだげえ」
「そんな奴は、ここにはいないんだよ!」
愛剣を振り抜くと、罠を発動させる縄を切った。
「うおおおぉぉぉ!!」
縄に繋がれていた浴槽は、山の斜面を勢いよく滑り降りていった。やはり、水の重さもあるから、スピードは予想以上に出ているだろう。
これで、不要な戦いも避けられる。
「コトミ、オレの勝ちで良いんだろ?」
「……そんなわけ、ないじゃない」
あまりにもそれは卑怯だろう……と言わんばかりの冷たい視線で、オレを見る。
だよな……。反撃不可まで追い込んでいないし、降参宣言も聞いていない。
愛剣を鞘には仕舞わずに、浴槽が付けた跡を追いながら、山を下っていった。
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