「それくらいで、やられるか!」
テオが振り抜いた剣はオレを直撃……することはなかった。
「そんな取り乱して振ったもんなんて、当たらねえよ!」
体力が僅かでも、狙うべくポイントを突くくらいのことはできる。テオの剣を振り払うと、宙を舞いながら遙か遠くの地面に突き刺さった。
「降参か? 今だったら受け付けるぞ」
救ってくれたカエルを拾い上げて、テオの顔に目掛けて投げるフリをしてみた。
「うおぉぉぉ……!」
それを見るなり逃げだし、自分の剣を拾って遠くに行ってしまった。本当にカエルが苦手なんだ……。
「君のお陰で助かったよ……」
勝利をもたらしたカエルをそっと大事に抱えて、よろけながらも起き上がった。連れて行きたかったが、お互いそうもいかないだろうと、池のそばに帰すことにした。
「長生きしてもらわないとな……」
近くの池に帰してやろうと、疎らに自生している木々を沿うように平原を進んだ。しかし、今朝からずっと気になっていた存在が跡をつけてきた。
「なあ、今のはオレの勝ちでいいんだろ?」
「もちろーん」
木の上に隠れている人影に話しかけると、元気よく降りてきて答えてきた。
「やっぱりお前か。ところでオレは今、どれくらいの順位なんだ?」
「それは、あたしも知らない。あくまで上に報告するだけだもん」
「冷たい監視員だな……」
「そういうルールなの」
「だったら、オレが話しかけたら出てくるな。そして答えるな。お前くらいだよ、真っ向から応じる監視員って」
「だって。暇なんだもん……」
小さな手で大きな欠伸顔を隠したが、眠そうなのがよく分かる。そして、可愛らしい童顔が台無しだ。人が必死の思いで戦っているところを、退屈そうに見ていたのか。
「仕事しろよ……」
どうもコトミはオレの担当監視員の一人らしく、唯一なぜか話しかけてくる。他の候補者にも聞いたが、担当監視員の顔すら見たことがないと異口同音だった。当然オレも彼女以外は見たことがない。
コトミは現在21歳。なぜはっきり分かっているかというと、数年前にこの仕事に就いたばかりの頃に近寄ってきたので、冗談半分で子供扱いをしてみたらブチ切れて言ったからだ。
「早く交代の時間にならないかな……。眠くって……」
また欠伸を繰り返す。眠気覚ましのつもりか細身の体を小刻みに動かし、そのたびにミルキーベージュのショートヘアが左右に動き回る。
「それなら。眠気覚ましに、これを……」
恩人をコトミに手渡してみた。
「い……やあああぁぁぁ!」
恩人を無礼にも放り捨てたので、残り僅かな体力を振り絞って、地面すれすれの所で手中に収めた。
「オレの大事な恩人を……!」
「だって! 気持ち悪いんだもん……」
触った感触が気に入らないのか、引きつった表情で頻りに右手を擦っていた。
「あたし、帰る!」
「監視の仕事は?」
バレきっているが、隠れるところを探していたコトミは立ち止まり、振り返った。
「別に。報復で言うつもりじゃないですけど……」
その先をなかなか言い出さなかったが、やっと切り出した。
「……実際、あたしは順位を知らないです。けど、パスクさん。今回こそがんばらないと、まずいんじゃないかな……? 参謀総長が気にしていましたよ」
「マジか……」
その単語を聞くなり、血の気の引いた顔を歪めた。それを言い残すと彼女は木の上へと去っていった。といっても交代まで近くにいるのだろう。
参謀総長か……。この選考会を取り仕切り、最終判断を下す人物。今回決めないと、候補すら落とされる可能性もあるな……。
≪ 第17話-[目次]-第19話 ≫
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テオが振り抜いた剣はオレを直撃……することはなかった。
「そんな取り乱して振ったもんなんて、当たらねえよ!」
体力が僅かでも、狙うべくポイントを突くくらいのことはできる。テオの剣を振り払うと、宙を舞いながら遙か遠くの地面に突き刺さった。
「降参か? 今だったら受け付けるぞ」
救ってくれたカエルを拾い上げて、テオの顔に目掛けて投げるフリをしてみた。
「うおぉぉぉ……!」
それを見るなり逃げだし、自分の剣を拾って遠くに行ってしまった。本当にカエルが苦手なんだ……。
「君のお陰で助かったよ……」
勝利をもたらしたカエルをそっと大事に抱えて、よろけながらも起き上がった。連れて行きたかったが、お互いそうもいかないだろうと、池のそばに帰すことにした。
「長生きしてもらわないとな……」
近くの池に帰してやろうと、疎らに自生している木々を沿うように平原を進んだ。しかし、今朝からずっと気になっていた存在が跡をつけてきた。
「なあ、今のはオレの勝ちでいいんだろ?」
「もちろーん」
木の上に隠れている人影に話しかけると、元気よく降りてきて答えてきた。
「やっぱりお前か。ところでオレは今、どれくらいの順位なんだ?」
「それは、あたしも知らない。あくまで上に報告するだけだもん」
「冷たい監視員だな……」
「そういうルールなの」
「だったら、オレが話しかけたら出てくるな。そして答えるな。お前くらいだよ、真っ向から応じる監視員って」
「だって。暇なんだもん……」
小さな手で大きな欠伸顔を隠したが、眠そうなのがよく分かる。そして、可愛らしい童顔が台無しだ。人が必死の思いで戦っているところを、退屈そうに見ていたのか。
「仕事しろよ……」
どうもコトミはオレの担当監視員の一人らしく、唯一なぜか話しかけてくる。他の候補者にも聞いたが、担当監視員の顔すら見たことがないと異口同音だった。当然オレも彼女以外は見たことがない。
コトミは現在21歳。なぜはっきり分かっているかというと、数年前にこの仕事に就いたばかりの頃に近寄ってきたので、冗談半分で子供扱いをしてみたらブチ切れて言ったからだ。
「早く交代の時間にならないかな……。眠くって……」
また欠伸を繰り返す。眠気覚ましのつもりか細身の体を小刻みに動かし、そのたびにミルキーベージュのショートヘアが左右に動き回る。
「それなら。眠気覚ましに、これを……」
恩人をコトミに手渡してみた。
「い……やあああぁぁぁ!」
恩人を無礼にも放り捨てたので、残り僅かな体力を振り絞って、地面すれすれの所で手中に収めた。
「オレの大事な恩人を……!」
「だって! 気持ち悪いんだもん……」
触った感触が気に入らないのか、引きつった表情で頻りに右手を擦っていた。
「あたし、帰る!」
「監視の仕事は?」
バレきっているが、隠れるところを探していたコトミは立ち止まり、振り返った。
「別に。報復で言うつもりじゃないですけど……」
その先をなかなか言い出さなかったが、やっと切り出した。
「……実際、あたしは順位を知らないです。けど、パスクさん。今回こそがんばらないと、まずいんじゃないかな……? 参謀総長が気にしていましたよ」
「マジか……」
その単語を聞くなり、血の気の引いた顔を歪めた。それを言い残すと彼女は木の上へと去っていった。といっても交代まで近くにいるのだろう。
参謀総長か……。この選考会を取り仕切り、最終判断を下す人物。今回決めないと、候補すら落とされる可能性もあるな……。
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