歌川広重「名所江戸百景・山下町日比谷外さくら田、永代橋佃しま」~写真と短歌で綴る世界文化紀行
2023-10-23 06:56:28
歌川広重は、葛飾北斎と並んで、徳川時代の浮世絵版画を代表する画家である。その名声はヨーロッパにまで及び、いわゆるジャポニズム・ブームを呼んだほどだ。広重の風景版画としては、東海道五十三次のシリーズや、木曽街道六十九次のシリーズが有名である。名所江戸百景と題した大きなシリーズものは、安政三年(1856)から同五年(1858)にかけて刊行した。広重最晩年の作品で、死の直前まで描き続けられた。名所江戸百景とうたっているとおり、江戸の府内、府外合わせて119の風景を描いており、名所といわれるようなところはほとんどすべて網羅されている。写真のなかった当時、風景版画は人々にとっては身近な名所案内であり、また芸術鑑賞ともなった。
広重の絵の特徴は、独特の構図と、豊かな色彩感覚にある。広重は遠近感の表現がうまく、手前のものを巨大微細に描く一方、遠景を非常に小さく描くことで、その間にある空間を、遠近感をもって人々に認識させた。色彩については、ヒロシゲブルーという言葉があるように、独特の青の表現が特徴である。このブログでは、歌川広重の「名所江戸百景」119点のすべてについて、描かれた場所の解説とか、絵そのものの鑑賞をしたいと思う。
「山下町日比谷外さくら田、永代橋佃しま」
「上弦の月の頃あい薄明り 江戸の風物白魚の漁」
外桜田とは、日比谷門から半蔵門にかけての内堀の外側一帯をさしていった。今日でいえば、国会や裁判所を始め、日本の中枢機能が集中しているところ。徳川時代には、大名や大身の旗本の屋敷が集まっていた。山下町とはいま帝国ホテルの立っているあたり。そこから桜田門方向を眺めたのが、この図柄だ。鴨の浮かんでいる堀の先に見えるのは、肥前佐賀藩の上屋敷。その遥か背後に雪をかぶった富士が見える。手前には羽子板がのぞいているが、その上部には追羽根が空中を遊んでいるのが見える。また、ところどころにタコがあがっている。一番手前のタコは、奴ダコだ。
永代橋は日本橋の箱崎と深川の佐賀町を結ぶ橋で、元禄十一年に完成した。隅田川の最下流にあり、いまでも(勝鬨橋をのぞけば)隅田川第一橋梁ということになっている。また、佃島は永代橋の先にあった干潟を埋め立ててできた人口島。摂津の佃村から呼び寄せられた漁民が住み着いた。彼らはこの島を、故郷の村にちなんで佃島と呼んだのである。これは、永代橋の下から佃島方面を望んだ景色。舟が見えるのは白魚漁の舟。白魚漁は夜間にかがり火をたき、寄って来た白魚を四手網を使ってかき集めた。上弦の月の頃合い、薄明かりの下で漁船の一団が漁に励み、左手前の漁船からはかがり火が掲げられている。佃島周辺の白魚漁は江戸の風物となった。歌舞伎「三人吉三」にも、「月も朧に白魚の、かがりも霞む春の空」とあるが、この絵は、その台詞どおりの眺めを描いているわけである。
参照
https://j-art.hix05.com/33.2.hiroshige/edo002.yamashita.html
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