葛飾北斎の「富嶽36景」は先週6月2日金曜日で終了致しました。しかしながら研究を続けていますと「富嶽36景」は実際に46景あったことが分かりました。そこで46景全て掲載したいと思います。
北斎の傑作「富嶽三十六景」は、なぜ46図もあるの?
「富嶽三十六景」は1831年~1833年頃に西村屋与八が版元の「西村永寿堂」から出版されました。北斎芸術の頂点と言われるこの傑作は、北斎72才の時です。
はじめに36図が摺られ、その後10図の追加があり三十六景といいながら、全46図でシリーズは完結しました。
江戸の庶民たちは北斎の版画を、いつか行きたい富士への憧れ、楽しかった旅の思い出、または純粋な信仰心など様々な理由で求めたのではないでしょうか。
はじめに摺られた36図は表富士、後からの10図は裏富士と呼ばれています。
表富士はベロ藍といわれたプルシャンブルーの輪郭線、裏富士は墨で輪郭線を引きました。
46枚の内訳は、藍摺り10図、藍の輪郭線26図、墨の輪郭線10図ということになります。
37「東海道金谷ノ不二」
静岡県島田市東町
「金谷宿人足で賑わう渡河地点 不二眺める暇や余裕なく」
金谷宿は、東海道の宿場であり、大井川の渡河地点でした。大井川には、橋がなく、川越人足を雇って越えなければなりませんでした。川はまるで海のように波が打ち寄せています。そんな中、旅人を肩車で、籠や大きな荷物を輦台(れんだい:江戸時代,人を乗せて
川を渡るのに用いた道具)で渡る川越人足たち。人足への料金は川の水量によって異なっていたようです。宿の旗、長持ち、風呂敷には版元西村屋永寿堂を示す山に巴紋や「永」「寿」の文字が確認されます。
38「遠江山中」
静岡県西部
「富士山は雲一つない青空で たき火が昇る景色龍のごとし」
遠江国(静岡県)の山中で、巨大な材木が対角線に配され、支える柱の三角の間から富士を望む、という北斎ならではの構図です。材木の上に乗って懸命に鋸を挽く男、あるいは材木の下から背をそらせ、大鋸を挽く男。その下では、鋸の目立てをする男。その男に子供を背負った女が弁当を届けに来ました。そんな風景の中で、膝小僧を抱えた子供が見守っているたき火から黒煙が舞い上がっていきました。まるで龍が富士を巻き付け襲い掛かっているようです。空は、雲一つない青空です。
39「東海道吉田」
愛知県豊橋市
「吉田宿富士の展望売り物に 窓枠眺める一幅の絵画」
富士の眺望を売り物にした「不二見茶屋」です。「不二見茶屋」は吉田宿にあり、東海道34番目の宿場で現在の豊橋です。一幅の絵画のような窓枠で切り取られた富士を、旅の女二人は縁台に座って茶屋の女将に説明を聞き、優雅に眺めています。二人を乗せてきたと思われる駕籠かきは、汗をふき、草鞋を木槌でたたいています。「お茶つけ」の看板の下に「根元吉田ほくち」とあります。根元とは「元祖」ということでしょう。
40「尾州不二見原」
愛知県名古屋市中区富士見町
「大樽の中を覗くと富士山が 丸と三角対比の妙も」
大樽の輪の中に小さな三角形の富士が見えます。樽職人は富士に背を向け一心不乱に樽づくりをしています。ここ不二見原は現在の名古屋市中区富士見町のあたりです。高台にありますが、視界を阻まれて実際には富士は見えません。丸い桶をフレームとして田畑の向こうに遠くの富士をのぞんでいます。真ん丸と三角形の対比の面白さを描いています。
なお、富士見原は、遊郭や武家の別宅が存在する名勝地として知られていました。
41「甲州犬目峠」
山梨県上野原市犬目
「大らかでのんびりとした雰囲気も 新緑の峠富士を望む」
新緑のなだらかな峠道を富士を左に旅人や馬子が登っていきます。鋭角の富士と峠の斜め線による構図です。犬目宿から下鳥沢宿へと下る途中の峠の様子を描いたものです。富士をのぞんで、のどかで開放的なさわやかな景色です。左手の白雲は、桂川の溪谷からわき上がってきたものです。富士山頂には雪が残り、裾野には緑はあるものの、地肌も見え、新緑の季節感じさせます。本図は、奇抜さや激しさはないものの、大らかでのんびりとした雰囲気を漂わせています。
参照
https://media.thisisgallery.com/20208048
https://fugaku36.net/free/nihonbasi
https://kanazawabunko.net/works/1892
※6月10日(土)11日(日)は休みです。
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