はい、先日購入しましたAMDの新CPUならぬAPU、Ryzen 7 5700Gのテストがやっと一通り終了しましたので、公開いたします。その前にわたしの愚痴にお付き合いください・・・。
大変でした。前に少し書きましたが、ちゃんとマザーのBIOSをベータ版を除く最新版にアップデートしてから5700Gを装着して電源を入れたのにUEFIのセットアップをしている最中にいきなりリセットがかかり、そのあとはTPMうんぬんかんぬんなメッセージが出て止まってしまったように見えてしまいました。後でもう一回出たのでちょっと理解できたのですが、プロセッサが新しくなったのでTPMの設定を内部で変更します、いいですか? くらいのメッセージだったようで、ここで”y”のキーを押せばよかったんです。ところがマウスカーソルも出なくて二進も三進もいかないように見えたのでついリセットボタンを押してしまい、しばらく全くディスプレイに何も映らない状態に・・・。なんとかまる一日、電源コネクタを抜いて放っておき、もう一度つなぐことでなんとか起動。しかし、BIOSがバックアップされた旧版に書き換わる自動復旧ツールが動くという怖い事態になっていました。幸いそのあとはなんとかOSも起動し、再びBIOSを新しいものに書き換えることでようやく安定しました。壊れなくてよかった・・・。まぁそのあとも比較用PCが二台ともいきなりデバイスエラーのブルスクを発生させ、OSを一から入れなおす事態を発生させたり、ネット接続用ルーターの調子がおかしくなったりとさらにトラブルが集中的に起こったりしている(現在進行形)のですが、基本5700GのPCさえちゃんと動けばテストは問題なしとしましょう。PCを使う以上、多少のトラブルはつきものですが、こうも集中しなくてもいいじゃないか。やはりこのところの気温の変化が悪影響を及ぼしているのでしょうか。
はい、ここからようやく本題です。Ryzen 7 5700Gは前にRyzen 5 3600を使っていたサイコム製のPCからCPUをAPUに差し替えて使います。搭載されていたグラボ、RX560は外しました。これはしばらく取っておきます。
比較用は、今まではウチ最速だったRyzen 7 PRO 4750GのPCと、5700Gと比べることを目的に導入したCore i7 11700のPC。AMDの公式動画でも5700Gとの比較用は11700が使われており、妥当な選択だったと思います。
Ryzen 7 5700G
TUF GAMING X570-PLUS
DDR4-3200 8GBx2
Windows10
Ryzen 7 PRO 4750G
ROG STRIX B550-F GAMING
DDR4-3200 8GBx2
Windows10
Core i7 11700
H570 Phantom Gaming 4
DDR4-3200 8GBx2
Windows10 PRO
全機種で内蔵グラフィック機能を使った状態で動作させます。また、CPUクーラーは11700は付属のリテールクーラーではなく虎徹Mark2を、4750Gはリテールがないので、Ryzen 7 1700購入時についてきたリテールクーラー
WraithSpireを使っています、これらは以前から同じです。一方、5700Gにはリテールクーラーがつくと聞いていたのでこれをそのまま使っています。が、この付属クーラー、Ryzen 5 3600に付属していたもの同じWraithStealthなるタイプで、正直貧弱に見えます。6コアのRyzen 5ならともかく8コアのRyzen 7をこれで放熱可能なのか? と疑問に思わずにはいられません。実際、かなり暑い日などマザーボード用ツール計測で、市販PCベースなので上が十分空いており、空気の流れは悪くないはずなのにCPU温度が85度に達し、表示が赤くなるほどでした。ただ、ここ数日は雨の影響もあって空気が冷え、同じテストをやっても70度そこそこまでしか上がらず、これならまぁ・・・と思える程度にはなっています。が、テストが終了した後はこれも虎徹と交換する予定です。ちなみにWraithSpireを使った4750Gはコアが違うとは言え、同じテストで5700G85度時で73度ほどにしかならず、涼しい現状では65度くらいと各段によく冷えています。Ryzen 7 1700って本当にRyzenデビューのために破格の扱いを受けていたんだなぁということが思い知らされます。
さて、能力のテストを行います。内容は当然動画エンコード。当ブログベンチマーク代用の1440x1080、約49分のMPEG2-TSファイルをエンコードソフトに読み込ませ、断りがない限りx264を使ったH.264/AVC・CBR4Mbps・リサイズなし・インターレース解除・フレームレート固定かつ変更なし・Veryslow・あとはエンコードソフトデフォルトというモードと、x265を使ったH.265/HEVC・MediumあとはH.264と同じという二つのモードを使って性能を図っていきます。昔は主にMediaCoderを使っていたのですが、ある時から8コアが活きていないような速度しか出ない設定になってしまいましたので、HandBrakeと
TMPGEnc Video Mastering Works 7を使用しました。
・Hnadbrake比較
Handbrake 1.3.3
5700G
H.264/AVC 41分37秒
H.265/HEVC 38分16秒
4750G
H.264/AVC 46分37秒
H.265/HEVC 43分48秒
11700
H.264/AVC 52分21秒
H.265/HEVC 46分37秒
まさに現行コアであるZen3の力を見せつける結果です。ほぼ同じクロック・同じコア数のH.264・H.265ともに先代の4750Gの一割以上、5分もの短縮は脅威です。特にH.265/HEVCはもうワンランク重くしても十分実用的な速度になりそうです。一方、11700はちょっと遅く見えますが、
OSによる最適化が行われたのか買った当時よりはかなり速くなっているのです。暑さなどもあるのかその時のデータより少し遅いですが、ご了承ください。
また、本来なら全機種最新版の1.4.0にて比較すべきだったのですが、11700のPCではどうやっても1.4.0でのエンコードに失敗したため(OSの再インストールを行ってもダメ)、やむなく1.3.3での比較としています。5700Gおよび4750Gでの1.4.0比較は以下に掲載します。
HandBrake 1.4.0
5700G
H.264/AVC 41分50秒
H.265/HEVC 38分15秒
4750G
H.264/AVC 45分9秒
H/265/HEVC 42分43秒
・TMPGEnc Video Mastering Works 7
今回はこちらをメインとしましょう。実は、もう一つのトラブルとしてテスト期間中にアップデートがあったためにこのTPMGテストが一からやり直しになってしまったというのがありました。まぁやっていてRyzenの内蔵GPUでのH.265/HEVCエンコードを行うと一コマも進まず半分フリーズしてしまう、という不具合が発生していたのを確認していたので、おそらく近々アップデートがあるだろうからそれまで待とうとは思っていたのですが。TMPGはAVX2などの追加命令を切って実行することができるため、そちらの比較にも使用します。また、5700Gと同時に発売された6コアモデルの5600Gを仮想して5700Gを6コア/12スレッドに落とした結果も計測します。実際の5600Gの性能と一致するわけではありませんが、テストだけのために購入するわけにもいかなかった点はご理解願います。
5700G
H.264/AVC 37分11秒
AVX2無効 37分53秒
H.265/HEVC 35分51秒
AVX2無効 43分56秒
4750G
H.264/AVC 40分15秒
AVX2無効 40分48秒
H.265/HEVC 41分1秒
AVX2無効 49分40秒
11700
H.264/AVC 46分48秒
AVX512無効 47分16秒
AVX2無効 48分21秒
H.265/HEVC 45分3秒
AVX512無効 45分29秒
AVX2無効 56分43秒
5700G(6コア)
H.264/AVC 50分01秒
AVX2無効 50分40秒
H.265/HEVC 40分55秒
AVX2無効 50分53秒
Handbrake以上にH.265/HEVCの差が大きなものになっており、正直驚きました。6コアに落としてなお4750G(Zen2)と同等の速度が出ています。まだAVX512は搭載されていませんが、11700と比べてもx265を使うならZen3と言い切っていい性能差が感じられます。さらに伸びしろが残っているのですからこの先も期待が持てます。
・GPU
最後にGPUのお試し。まずはTMPGによるエンコードから。GPU内蔵の専用回路を使ったエンコードはフォーマットが違っても同程度になるためH.264/AVCのテストは行わず、H.265/HEVCのみを計測しました。速度は「やや遅い」で。残念ながらこれより遅いモードはAMD用にはないのです。
5700G
4分33秒
4750G
5分44秒
11700
10分59秒
IntelのQSVは方式が違うので参考程度としてください。現在はYoutube向けなどで動画エンコードが昔より頻繁に行われるためにじっくり高画質のCPUエンコードよりGPUエンコードがよくつかわれる傾向があるようで、そのためかAPU内蔵のエンコード機能も速度も大幅に上がっています。それにしても5700Gは速く、CPU差だけでは片づけられない差があります。エンコーダーに関して言えば改良があったのではないでしょうか。
続いてゲーム向け。と、言ってもわたしは軽いゲームしか遊ばないので5700Gどころか2400Gでも十分だったりしますが。なのでワンパターンのドラクエベンチ(最高品質・1920x1080・ウィンドウ)といろいろ疑惑のあるFFXVベンチ(標準品質・1920x1080・ウィンドウ)で。
5700G
ドラクエ 11715
FFXV 2068
4750G
ドラクエ 10943
FFXV 2002
11700
ドラクエ 7972
FFXV 1194
コアは同等、クロック面で言えば4750Gよりも若干低い5700Gですが、少なくとも同等のゲーム性能は維持されています。数値の差は単純にCPUの影響とみていいでしょう。11700は前回計測時にはAPUよりFFXVベンチの数値が高くなっていましたが、OSの最適化やドライバの進化によってCPU性能やドラクエベンチが以前より上がる中、唯一数値を落としているのがFFXVベンチです。ただ、前回がおかしかったのでこれが正常な数値でしょう。
総括
パッケージとしての発売という点ではZen+の3400G以来のAPUとなった5700G。ただし、日本ではバルクのみの提供とは言え4750Gが発売されており、そのアップグレードとして使い物になるか・・・という感もありましたが、性能差は10%を超えるものがありましたし、特にx265でのH.265/HEVCの速度アップは強烈で、十分アップグレード用として足る、と言っていいでしょう。付属CPUクーラーも若干心配にはなりましたが、もともとの発熱がそこまでではないのか、真夏の灼熱下で使うのでなければなんとかなるレベルでした。とはいえ、小型ケースに入れるのなら交換した方がいいとは思います。そのような小型のCPUクーラーを付属させるあたり、AMDとしてはもう「APUは小型PCに適したGPU内蔵CPUである」という扱いにした、と考えてよさそうです。まぁAPU本来の目指したものであるGPUをCPUと同等に扱って両者の良いところどりでプログラムを処理する、というAPUの理想にそって作られたソフトは現時点でもほとんど出ていませんからね。Windows用ではLibreOfficeくらいだと思われます。まぁAMDとしても、今更ミドルクラスがハイクラスを脅かすような機能を持っていると商売上うまくないわけですが。むしろPCでないPS4で非力なCPUを補うべくその理想は使われたように見えます。
ただ、それも仕方ないでしょう。旧来のAPUでのGPUはOPEN CLを前提としていますが、今のGPUの計算能力はディープラーニング、AI開発向けとする研究開発が進んでおり、GCNとAPUのの計算アーキテクチャはやや古くなっているのです。そうした分野だとますますGPUとCPUの密な関係はそれほど意味がなく、GPUはGPU、CPUはCPUの処理に専念するソフトが今以上に使われていくでしょう。そういう意味でAPUは単にGPUのアーキテクチャだけでなく、総合的にもう一段階新しくなる必要が出てくると思うのです。ただ、それによってAPUの華であるFluid Motion Videoが使えなくなってしまうのはいただけませんが。
もちろんRyzen 7 5700GでFluid Motion Videoは問題なく使えるのは確認済みですが、次に備えてロークラスのGCN版RADEONを買っておいた方がいいかも知れません。
ミドルクラス以上のCPU性能が欲しいけど、ゲームより動画の機能の方が重要、そういう人に新APUは最適です。グラボにケース内部が圧迫されるのが好ましくないという人にもいいでしょう。ただ、大きな欠点があります。それは価格。正直高いです。今回対抗馬としてCore i7 11700を用意しました。しかし、価格を考慮に入れるのならもうワンランク上、i7の11700KかCore i9 11900の方が適当でした。そちらを使ったからと言って11700と5700Gの差がそこまで縮まるかは疑問ではありますが、価格面からみて不平等であったのは確かです(買い替える気はありませんが)。APU5000シリーズとしては4コア以下のラインナップも存在しており、そちらなら価格はだいぶ安い~少なくとも5600Gより安いでしょう~ことが期待できるため用途によってはそちらを選ぶのもアリでしょうが、こちらはOEM供給のみと言う説が濃厚です。AMDはもう少し下のラインナップも充実させてほしいものです。
さて、次のAPUはまた丸一年後・・・ですかねぇ。CPUも含めて次はAM4から変更になるそうなので、かなり遅れることも予想できます。結果長く使うことになりそうなので、BIOSのアップデートだけで対応できるマザーを持っている人なら勝って損はないと思います。