先日購入したAMDの新APU、Ryzen7 PRO 4750G(以下4750G)、ある程度調査が終わりましたのでレビュー記事書きます。ただ、その前に雑談にお付き合いください。
今回は起動からちょっと苦労させられました。通販を頼んだツクモはAPUの単独販売は行っておらず、用意してあったマザーボードとのセット販売が条件でした。しかし、今のマザーボードって拡張スロット少ないんですよねぇ。各種シールドが貼ってあって堅牢さは感じるのですが、その分拡張スロットが削られてしまっています。拡張スロットつけるくらいならM.2.SSD用スロットを増やす、の方がマザーボードメーカーの方針みたいですね。ATX規格なのに3つ4つしかない、なんてのザラですし。あまり多くない選択肢の中で選んだのがASUSのROG STRIX B550-F GAMINGです。PCI-Expressx1x3、x16x2と昨今の中ではまぁまぁ多めなスロット数に加え、M.2.SSDスロット2つとSATAが6つ搭載されています。まぁ今回は今までRyzen7 1700を使っていたシステムからの入れ替えということもあってM.2.SSDは使わなかったんですが、まぁ次はそっちにしてその分HDDを増やそうと思います。
このマザー、組み立てていて一度謎な項目にぶち当たりました。マザーボードに電源コネクタを差し込むとき、今時のマザーはメインである24ピン以外に4ピン+4ピンの8ピンをCPU周辺に差し込みますよね。ところが、本マザーはそれ以外にもう一つ4ピンがあったんです。つまり4ピン+4ピン+4ピンの12ピン仕様になっていたという・・・。えー? 確かにわたしの自分でPC組み立てなんてCore i7 8700以来なのでだいぶ空いているんですが、いつの間にATX電源は新規格に移行したの? ・・・とかなり焦りました。結論からいいますと、最後の4ピンは使わなくても動きます。そもそも3つ目の4ピンに対応している電源は高価なものの一部が搭載しているのみで、一般的な電源は4ピン+4ピンまでのものばかりです。どうやら一部のハイクラスCPUを搭載するためには3つ目の4ピンが必要になるときがある、ということで搭載しているみたいですね。ご存じの通りAM4には16コア32スレッドというハイクラス向けCPUであるRyzen9 3950Xが存在しますので、それの搭載を想定した仕様になっていると思いますが・・・。考えてみたら4750Gだって8コアCPU+GPUなのでTDPはともかく必要電力としてはRyzen9に近い存在です。次世代のAPUでは3つ目の4ピンを必要とするようになるかもしれません。対応電源の低価格化を望みます。
ROG STRIX B550-F GAMINGはセット販売の対象だけあってちゃんと4750Gが動作します。が、Windows10のコンパネからは「4700G」の表記になっています。つまり初期BIOSでは動作はするものの、4750Gのデータを持っていないのでそのまま使うには若干不安になりますので、BIOSは更新した方がいいでしょう。0806を使うとちゃんと4750G表記になります。
あとは、移すHDDが多すぎてなかなか全部を認識させられなかったとか(前から言ってるけど、SATAの差込口をマザーと水平のものだけにするの、本気でやめてほしい。後でそこだけ差し直すのがわたしには本気で難しいので、垂直に戻してほしい(泣))おかげでWindows10が壊れて上書きインストールし直す必要があったとかまぁありがちなトラブルを経由してようやくテストが行えるようになりました。それでもIntelで組んだ時に比べるとトラブルは少なめです。体質的にAMDの方が相性がいいのかも知れません。
第一部:CPU編
お待たせしました。ここからが本文本番です。
今回のPCの仕様はAPUに4750G、マザーにROG STRIX B550-F GAMING。GPUは当然APU内蔵のものを使い、グラボはつけていません。メモリはDDR4の3200、8GBのものを2枚つけて16GBにしています。GPUへの割り当てはデフォルトで512MBとなっていましたのでそのまま利用。ちょっと少ない気もしますが、ビデオメモリを大量に使う作業をやらせる気がありませんので。現状のAPUはバルク販売のみのため、CPUクーラーは同梱されていません。今回はリテール購入を仮定してRyzen7 1700に付属していたリテールクーラーを流用しました。4750Gの一般向けである4700Gが発売されたとしたら、同じ組み合わせになる可能性は高いと思います。OSはWindows10 HOMEです。本機能力を動画機能を中心に検証してみます。
検証には比較対象があることが望ましいので手持ちの他PCを使います。本来ふさわしいのは4750Gと同じ8コア16スレッドであるRyzen7 3700xやCore i7 10700であろうかと思いますが、どちらも持っていませんしIntelシステムはマザーボードの入れ替えも必要になってしまいますので今回はパス。今まで使っていたものと同じ6コア12スレッドであるRyzen5 3600(以下3600)とCore i7 8700(8700)のシステムを使います。以前3600を検証した際にZen2のだいたいの仕様は分かっていますので昔から検証用に使っている1440x1080、約49分のMPEG2-TSファイルをH.264/AVC/4MbpsおよびH.265/HEVC/4Mbpsに変換することでテストします。可能な限りプリセットMedium/標準のCBRでオーディオ144Kbps(同条件が使えないソフトではVBRや160Kbpsを使用)、フレームレートはソースと同じで統一させました。後の処理は基本ソフトのデフォルトです。
まずはわたしが普段一番よく使っているMediaCoderから。バージョンは64ビットの0.8.61です。まずはH.264/AVCから
H.264/AVC
4750G
775sec(12分55秒)
3600
868sec(14分28秒)
8700
984.7sec(16分24.7秒)
コア数で上回る4750Gがさすがの高い処理速度を見せました。ただ、3600もコア数はもちろんクロックも4750Gに劣りながら健闘をみせています。
続いてH.265/HEVCでテスト。H.264/AVCより重いエンコードになるので8コア16スレッドの威力が楽しみです。
H.265/HEVC
4750G
3397sec(56分37秒)
3600
3209.1sec(53分29.1秒)
8700
3451.1ec(57分31.1秒)
・・・・・・・・・・・・アレ?
どう考えてもおかしいので何度もやり直したのですが、誤差の範囲くらいしか結果は変わりません。コア・クロックともに劣る3600に負け、8700に近い値しか出ていません。もっとも前のテストの時はZen2はCoreにH.265/HEVCの時は負けていたのでその時と比べると3600が8700よりも圧倒的に早くなっている結果からみて、少なくともZen2への最適化が行われているのは間違いないのですが・・・。
で、試しにBIOSで4750Gのコア数をsixに落とし、6コア/12スレッドにして再度同じ条件でテストしてみました。結果は
3398秒(56分38秒)
8コアの時と全く同じじゃないかーい! つまり現在のMediaCoderのH.265/HEVCエンコードは8コア/16スレッドを生かせる設定になっていないということです。Zen2への最適化を優先するあまり、コア・スレッドへの割り当てを忘れてしまっているのでしょうか。バージョンアップを期待。
このままでは4750Gのテストになりませんので、他のソフトも使いましょう。次はHandBrakeの1.3.3。このソフトはしばらくバージョンアップを行っていません。もちろん4750Gは8コア/16スレッドに戻しています。
H.264/AVC
4750G
17分08秒
3600
22分52秒
8700
23分25秒
H.265/HEVC
4750G
43分39秒
3600
50分47秒
8700
50分39秒
(注:データが飛んでいたため、修正して追加しました)
3600と8700がほぼ互角の速さの一方で4750Gが8コアの力を見せつけ、一つだけレベルの違う結果となりました。これが期待通りのデータといえます。
続いてはXMedia Recode 3.5.1.3。ここはCBR設定ができませんのでVBRになっています。
H.264/AVC
4750G
11分24秒
3600
13分55秒
8700
13分03秒
H.265/HEVC
4750G
40分06秒
3600
43分23秒
8700
43分54秒
どちらのケースでも4750Gが頭一つ抜けています。が、もう一つ物足りません。そもそもZen2の3600がH.264/AVCでCoreの8700で負け、H.265/HEVCで勝つというのはちょっと納得のいかない結果です。
続いてAviUtl+rigaya氏のプラグイン。読み込みは一旦d2vにして株の8ラインをクロップし、1440x1080に戻したうえで"バランス"設定をベースにビットレート等を調整してあります。音声は読み込ませていません。
H.264/AVC
4750G
26分49.1秒
3600
33分43.7秒
8700
41分42.3秒
H.265/HEVC
4750G
40分54.6秒
3600
44分59.4秒
8700
49分50.9秒
キレイなまでに4750G>3600>8700がほぼ等間隔な結果です。ここまでのスコアから見て、ひょっとしてZen2、少なくとも4750Gというのは思っていたより多コアが得意ではないのではないか、という気がしてきました。
次はTMPGEnc.VideoMasteringWorks7。手持ち唯一の完全市販品です。ですがここも最近バージョンアップしていません。最新のものでも今年4月のものです。
H.264/AVC
4750G
17分36秒
3600
23分29秒
8700
25分03秒
H.265/HEVC
4750G
41分08秒
3600
48分29秒
8700
47分22秒
CPUでの総評として外れますが、ここまでの印象は良くも悪くもRyzenの影響力が大きくなってしまった、ということです。ちょっと前までソフトメーカーや開発者はAMDを無視してIntelだけ注目してソフトを開発・調整すればいい立場でした。極端な話AMD製CPU・APUでまともに動作しなくても構わなかったのです。「安定してるIntelを使わない方が悪い」で済みました。ですが、もはやその理屈は通用しません。特に日本のDIY市場ではAMDのRyzenがIntelのCoreより販売台数が上にあって久しい状態です。今Ryzenを無視するのは「手抜き」扱いされかねません。IntelのCoreとはどうしてもクセが違うため、Ryzen特にZen2向けに調整しようとするも意外と難航し、結果MediaCoderはちょっとひどいにしても他もシングルコア性能が重視されて思ったより4750Gと3600の差が出なかった、という気がします。むしろ全然調整のためのバージョンアップが行われていないソフトの方が4750Gの多コア性が発揮されているという皮肉な結果となっています。もうちょっと混乱は続きそうです。
動画エンコードに関して言えば、4750GをはじめとするRenoirの欠点であるL3キャッシュの少なさの影響は少なめで8コアの力は、あくまでソフトによりますが、発揮できる可能性は高いです。この機会に使うソフトを見直すのもいいかも知れません。
第二部:GPU編
APUのもう一つの重要な機能、それはGPUです。もともとAPUはGPUとCPUの連動性を高くし、GPUにCPUの演算を手伝わせることで高いパフォーマンスを出させることを目的としたCPUなのです。まぁ実際にはGPUに演算をやらせるにしてもCPUとのやり取りをなるべく頻繁に行わず、いったんGPU側に丸投げするものばかり~グラボ別装着のPCだとそうしないと遠いPCI-Expressの道を行き来してデータをやり取りする、というクソ遅くなるだけのソフトになってしまう~なのでその理念は生かされていませんが。
それでもGPUを内蔵することでグラボを不要にし、それでいて必要十分な性能を、という需要に一番はまる可能性が高いのはAMDのAPUであることに間違いはありません。わたしなんぞグラボの重さにスロットが耐えられず、接触が不安定になったことがあってからなるべくグラボは使わないのがいい、と考えている次第でありますから。
ただ、新APUの最上位である4750Gですら構成するRADEON Coreは8コアに抑えられ、従来GPUの11コアより少なくなっています。細部の改良やクロックの上昇、CPUの性能アップで補えている、というのがAMDの主張のようですがはてさてどうなるか。ここからは比較対象を先々代APUのRyzen5 2400Gに変更します。また、CPU強化のハンデを少しでも抑えるため、4750GのCPUを4コア・8スレッド&メモリを2666に落としたものも並列で計測します。
まずはGPUで計算を行うGPU PI。ただ、現在公開されている3.2や3.3はどう使っていいかわからず(無能なんです・・・)エラーを吐くばかりだったので、以前落とした1.3Beta版のOPEN_CL専用版が残っていたのでそちらを利用します。Batch Sizeは1M、Reducation Sizeは64としておきます。
4750G
1分37.982秒
4750G(4コア)
1分38.106秒
2400G
1分58.428秒
コア数の差をものともせず、4750Gが2400Gを下しました。CPU側のコア数削減後も影響は軽微・誤差の範囲と呼べるものです。
一応計測は必要、ということでゲーム系ベンチ。いつもならドラクエベンチでいいだろ、とやっておくのですがあいにくとこちらもエラー連発で動作しませんでした。代わりにFFベンチこと「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」1.3を使います。まともに動かないのは承知の上で、デフォルトの"標準""1920x1080""ウィンドゥ"で計測しました。
4750G
2020
4750G(4コア)
1905
2400G
1627
これはゲーム性能も確実に上がっている、とみていいでしょう。ただ、CPU性能の影響も少なくないため、CPUコア/GPUコアとも減る4350Gなどは2400G/3400Gと差のない性能しか出せないのでは? という疑問は出ます。大きなCPUクーラーの使えない小型機で少しはゲームもやる、という需要なら旧型APUも十分選択肢に残るように思われます。
続いてGPUエンコード。「Blueskyのホームページ」で公開されているRADEON向けエンコードソフトの鉄板、A's Video Converterを使ってCPUテストにも使った動画ファイルをやはり同等の条件でエンコードします。H.264/AVCはもう意味がないとは思いつつ一応計測しました。
H.264/AVC
4750G
8分50秒
4750G(4コア)
8分54秒
2400G
13分40秒
H.265/HEVC
4750G
8分59秒
4750G(4コア)
9分01秒
2400G
13分40秒
VCNによるエンコード機能が強化された、という話は聞いていましたが、予想以上に圧倒的でした。VCNを多用するのでRenoirに乗り換える、は十分アリです。
最後にGPU性能のデザートとしてとっておいた機能を調べてみましょう。それはFluid Motion Video。Kaveriに搭載されていらいAPU・RADEONのユニークな機能として動画再生を頻繁に行う人間に愛されてきた能力ですが、AMDとしてはGPUはゲームのベンチスコアが優先でそれを損なう機能は邪魔、という方向に修正を始めたらしく、単体RADEONの主力であるRDNAアーキテクチャではFluid Motion Videoは搭載されていない、という話が出ています(未確認)。それを踏まえてか、Asciiの動画配信では「RenoirでもFluid Motion Videoは使えない」とはっきり語られていて、わたしに大きなショックを与えました。ただ、発売前だったので余計なことは言えない、とりあえずできないということにしておく、という雰囲気もなくはなかったので最後の期待をこめ、今回Fluid Motion Videoの有効がよくわかる動画を再生してみました。ドライバはもちろん落としたての8月4日版、20.8.1 です。
前のRyzen7 1700+RX550の設定はそのまま残してあったのでとりあえずMPC-HCに放り込んでみたところ、フィルタは有効になっていたのにFluid Motion Videoは有効になっていませんでした。ただ、これは想定内。先のA's Video Converterと同じ公開先、「Blueskyのホームページ」さんにあるBluesky Frame Rate Converterを落とし、Directshowへの登録も行ったところ、無事Fluid Motion Videoは有効になり、モード2でも再生できました! やはり「できるとは言えない」だけだったようです。しかし、もうとっくに発売されて一般個人が検証できる製品なのですから、声を大にして言いましょう!!!
Ryzen7 PRO 4750GをはじめとするAPU、コードネームRenoirでFluid Motion Videoは問題なく動作します!
ので、安心して購入できます。多分モバイル用も問題ないでしょうね。
とりあえず、4750Gは「ソフトによるものの動画エンコード能力は高い」「動画再生能力も高い」の二点を満たしていました。"買い"か"買い"でないか、で言えばRenoirは買い、現状出ているPRO版はうーん、というところでしょうか。一応PROでない4700Gなどの一般向けや低発熱のGEが控えているからです。Asciiの動画では「発売されない」ようなことも言っていましたが、これもFluid Motion Videoと同じで「現状では言えない」からそう言っているだけ、という気もします。待てる人なら待った方がいいと思います。うまくいけばB550でなくて古いマザーでも動くBIOSが提供されるかも知れませんし。
この先、Zen3対応のAPUは出るか、そしてそれは期待できるものになるのか、となるとこれはなんとも言えません。Zen3対応が出たとしてもその時はGPUがRDNA準拠になってしまい、Fluid Motion Videoが消される可能性は十分あるからです。ただ、APUがPRO版を優先して発売されたということは、AMDとしてはAPUは今までのようなホビー用途よりIntelCPUのリプレースを狙うビジネス向けを優先して展開する可能性が高い、ということです。業務用RADEONであるRADEON PROがRDNAではなくGCNアーキテクチャに基づいたものが販売されていることからも、RDNAがゲーム向けでしかないことはAMDも承知の上。一応APUとしてGPUとの連動性を重視する用途もないわけではない以上、次世代APUがまだGCNを採用する可能性もなきにしもあらず、です。それよりRDNAがちゃんと改良されてFluid Motion Videoの復活をはじめとするGCN系の長所を組み込んでくれ、それを次世代APUに採用してくれるのが一番いいのですが。
少なくともRenoirはいいものです。ハイクラスの7が欲しい人はPROでもさっさと買うべし、下位の小型PC向けが欲しい人は頑張って待つべし、でしょうか。
追記:
わたしの環境だけかも知れませんが、ブラウザでYoutubeを見たときのみ動画に異常が見られます。EdgeやChromeでは一瞬止まるだけですが、Operaでは使い手から見て右手側が停止・左手側が乱れるという現象が起こっています。今のところ4750Gだけで、RXや2400Gはもちろん4750Gと同じドライバで動いているはずの4750Uでも起こっていません。とりあえずハードウェアアクセラレーションを切ることで安定したYoutube再生ができていますので、同じケースの方は参考にしてください。