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あの夏の思い出

2020-07-09 22:09:00 | 日記
若かったあ、とっても。何も怖いモノはなく、ほぼ自由奔放に生きていた。もう40年以上も前、と言っても江戸時代ではない、念のため。
20代中盤。ある女性と知り合った。何歳だったのかなあ、多分30代前半。結婚していた、つまり人妻。当時僕が住んでいた町でスナックを開店し、僕は気に入って常連になった。素人の美人ママさんは人気があり、店はいつも賑わっていた。たまに亭主が来た。そのうち、ママさんから愚痴を聞かされるようになるが、聞くまでもなく、ロクでもない亭主だった。僕たち客は全員知ってた。なにせ、目の前で見せられるのだから。僕は話しを聞いて、励まして、気付かない内に惹かれて、その内、閉店後も居るようになって、ある夜、ドライブに行った、海に。飲酒運転はノートラブルだったし、夜の海はなかなか素敵だった。そして、キスした。その瞬間から二人の関係は変わった。それを意識し、戸惑い、躊躇う瞬間にアクシデント。車のタイヤが砂にとられスタックしそうになり、必死の思いで脱出したが、車内が砂まみれになり、結局取りきれなかった。後日、それがバレた、亭主に。あの夏の夜の海は穏やかで波の調べを奏で、あの人は綺麗で脆くて魅力的だった。僕は、意識していたかどうか分からないまま、一線を超えた。あの時の音も匂いも感触も、そして喘ぎのような吐息も覚えている。

ある景色

2020-07-04 07:34:00 | 日記
風が吹いている。
とても強くて、身体を屈めないと飛ばされそうになるくらいだ。
太陽はとぎれとぎれに射しているけど、絶え間なく雲が流され、光と熱が拡散する。
昨日、君と歩いた、穏やかだったこの高原は、まるで戦場のような有様だ。
木々は、折れよとばかりに震え、二人がボートを漕いだ湖は、波しぶきを上げる。
声を出さずに、さよなら、と君は言った。いや、正確には、そう唇が動くのを見た。
そして、僕は呆然と立ちつくし、去っていく君を、ただ、目で追っていた。
涙が頬を伝い、視界がぼやける。
頭の中で、あのメロディーが流れた。
君とよく聴いた曲。そう、一緒にコンサートに行った時、君が泣いていた曲。
何かがいけなかった。何が。
若さと若さがぶつかって、自分勝手なわがままが、いつからか二人を捉え、分かっているつもりで何も出来なかった。
小さな幸せに気付かず、大きな夢を風船のように膨らませ、戸惑う君をただ引っ張っていた。
そう、悪いのは僕だ。
もう後戻りは出来ない。
いや、決めつけるのはまだ早い。
昔、父が言っていた、失って気付く大切なモノ。
君なしで、僕は生きていけない。
愛しているという叫び声が、心からほとばしる。
迷子になった子供が、母親にすがり付く様に、君にすがり付きたかった。
急に我にかえり、君と二人で降りた駅に行くと、君は少しうつむいて、静かに電車を待っていた。
近づくと電車が入ってきて、僕に気付いた風もなく、君は乗り込む。
僕が大声をだすと、君は驚いたように振り向き、僕を見た。
涙で目が光っているのが見えた。
「愛してる!」、と言った僕の怒鳴り声に、かすかに君は頷いた。
立ちつくしている僕の前を、電車が動いていく。
君と僕の視線が絡み合って、時が止まる。
僕たちの一年は終わってない、これは、つぎの一年の始まりだ、と言う声が、教会の鐘のように響き、君が、唇で、愛してる、と動くのが見えた。
走り去る電車を、ホームの端まで追いかけ、やがて、見えなくなるまで見つめた。
風は依然として止む気配がない。
僕の身体を揺さぶり、心を揺さぶる。
眠れない一夜を、膝を抱えて過ごし、この高原にまた来ている。
今日、家に帰ろう。
君が待っているはずの家に。
二人の新しい一年が始まる場所に。
駅に向かっていく僕は、少し速足で、少し微笑んで、少し晴れやかだった。
風の音が、激しく響いた。


混沌

2020-07-03 20:07:00 | 日記
自分のモノサシが壊れる瞬間の音を聞いた。
自分の価値観が崩れる瞬間の景色を見た。
自分の直感が吹き飛ぶ瞬間の触感を感じた。
不可逆的なはずの時間流は、いとも簡単に順序を入れ替えていた。
だから、目の前に、昨日の僕がいる。
歳を取った君が、僕にキスしてる。
錆びたナイフがだんだん光ってくる。
何がどうなっているのか、まったく分からない。
フラッシュバックが起きて、色んなシーンが色んな音とともに意味もなく流れる。
たぶん、ブラックホールに落ちるときにこうなるに違いない。
速度が光速に近づくにつれ、質量は無限大に近づき、やがてすべて凍りつく。
少なくとも、アインシュタインはこう言ってる。
すると、向こう側に何があるのかわからない?
たとえ分かっても、伝える手段がない?
なるほど。
だが、今の僕はそんなことを議論してる場合じゃない。
とにかく、すべてがひっくり返ってる、無秩序に、いや、無秩序と思えるように、か?
自分の知らない何かに従っているのかもしれない。
だったらどうする?
しばらく、身を任せてみよう。
しばらくって、どのくらい?
しばらく経ったて思うまでに決まってる。
まったく、とんでもないことの真っ只中にいて、息も出来ない。
なんでこうなったのか分からない。
君はどこへ行った?今の君は?
今の僕はここにいる、たぶん。
もうすぐ終わりが来る?
それとも、時間が凍り付く?
見渡す限りに、過去と現在と未来が交錯して、火花を散らす・・・