今日から「オックスフォードミステリー ルイス警部」のなんちゃってスピンオフ(要するに二次創作ですね^^;)を書いていこうと思います。
「オックスフォードミステリー ルイス警部」はAXNミステリーで放送しているドラマです→こちら
ホームページにキャストの説明がないのでざっと説明しておきます。
ジェームズ・ハサウェイ:このファンフィクの主人公。オックスフォード署ではルイス警部とバディを組んでいる、30代後半の長身でハンサムな刑事。かつて神父を目指して勉強していた。
石畳を歩く男。リズミカルに蹴り出される裾を見ながら思う。
ようやく聖衣が身に付いてきた、と。
彼、ジェームズ・ハサウェイはカトリック教会で大規模な犯罪が行われているという情報を確かめるために、潜入捜査という前例のない仕事を任されオックスフォード署を離れて久しい。ルイス警部とのコンビを組んだ仕事の忙しさが懐かしい。何しろこの仕事は単調な毎日なのだ。
聖堂に入っていくと一人の青年が壁に掛けられた聖人画を一心不乱に眺めているのに気づいた。昨日もいたのではないか?彼の中で刑事としての本能が目覚める。
「その聖人画がお気に入りのようですね。昨日も見ていたでしょう?」
ハサウェイは温和な神父として話しかけたが、青年はハサウェイが近づいていたことに全く気付いていなかったようで声をかけられて小さく飛び上がった。
「! 神父様でしたか。」
青年は話しかけたのが神父だったことにホッとしているようだ。聖堂に他に誰がいるのだ?刑事なんているわけない、と内心苦笑するハサウェイ。
「失礼、驚かせてしまいましたか。とても熱心に絵を見ていますね。相当お好きらしい。」
神父になりきっているつもりのハサウェイだが、その目は青年を細かく観察している。小柄で大人しそうな雰囲気の20代後半から30代前半の男、髪は黒、瞳はダークブルー、武器は所持していない、おそらく右利き・・・刑事としての本能は意識しなくても働いてしまう。
「はい、神父様。近くこの絵が修復に出されると聞いたので搬出される前にじっくり見ておこうと思って。」
そう言われてハサウェイも青年と一緒に絵を見上げる。
「修復のことをご存知でしたか。」
「ええ。実は僕、修復師なんです。この大好きな聖人画の修復ができればよかったけど他の工房が受注してしまったから。」
「ほう、専門家ですか。では私よりずっとこの絵には詳しいですね。」
ニコニコと人のいい神父の振りをしながら心の中では下手にウンチクを語らなくて正解だったと胸をなでおろしている。
「知識はありますが、聖人画は見る人を神聖な気持ちに導くのが役目ですから知識はあまり意味はありません。
あ、すみません偉そうなことを言って。」
気まずそうに笑うが最近ではこんなに信仰心が篤い若者は珍しいと思う。
「あなたはとてもまっすぐな信仰をお持ちだ。聖人画本来のあるべき姿をわかってる。」
自分もかつてはこんなまっすぐな信仰心で神父の道を目指していた、ハサウェイにとっては遠い過去の話だ。
「この近くに住んでいるのですか?」
ここで話題を変えるくらいには刑事生活が染みついてしまっている。
「少し離れた所に…でもこの絵を知ったのは最近なんです。もっと早くに知ってばなぁ、そうしたらこの絵をもっと見ていられたのに。」
「修復から戻ってきたら思う存分見られますよ。」
「そうですね。でも数年は先になるんじゃないかな。」
「ああ、そうかもしれません。」
危うくボロを出すところだった。この絵の修復が決まったのはハサウェイが潜入に入る前だったから修復のスケジュールの詳しいことは知らなかったのだ。そう思った瞬間彼の視線が青年から逸れた。それを青年は見逃さなかった。外された視線にどこか初々しいものを感じこの神父に興味を抱いた。
「僕はロビン・スミスです。聖人画専門の修復師をやっています。」
二人は握手をした。
「私はジェームズ・ハサウェイ神父です。この教会には3ヶ月前に赴任してきたばかりなんです。」
身分を偽る生活で不必要なウソはかえって危険だ。スミス青年は修復期間が長いことを知らないでいたことに納得し再び話し始めた。
「じゃあ神父様もこの辺りはあまりご存知ないんですね。」
スミス青年は些細な共通点も嬉しいようでニコニコと話を続ける。
「小さいころから聖人画を描く画家になりたいと思っていて美術学校に進んだんです。でも聖人画なんて今ではほとんど需要がなくて、それでは生活できないので修復を学んだんです。聖人画を描くのは趣味になってしまいました。」
聖人画よりもさらに遠くを見るようにして話す姿は、ハサウェイに話しているとも思えない感じだ。
「この聖人画は特に素晴らしいと思いませんか?」
聖人画の方を見たままだ。
「聖人画はものすごく多くの数が描かれているけど、そのほとんどは駄作です。単なる看板で中身がないから伝えるものがない。見る人間に対して語るべきものがないんです。」
一呼吸おき深く息を吸い込んでから話を続けた。
「でもこれは違う。聖人の悩みや苦しみ、神への絶対的な服従…そういったものが伝わってくる。そこにいるだけで絵が語りかけてくるんです。」
段々大きな声になっていく青年は芸術家にありがちな危うさを感じさせる。
「神父様!」
いきなりハサウェイの方を向き直って話しかけてきた。
「そう思いませんか?神父様は感じませんか?聖人の語りかけを!」
青年の態度にあっけにとられて黙っているハサウェイ。
「すみません。この絵があまりにも好きなのでつい熱くなってしまって。」
そう言って顔を赤らめると、小走りで聖堂から出て行ってしまった。
夕食後にギターをつま弾きながら昼間のスミス青年との会話を思い出しているハサウェイ。会話というより青年が一人で語っているだけだったが、と苦笑する。ギターを置きローテーブルの上の夕刊を取り上げると殺人事件の見出しが目に飛び込んできた。
【オックスフォードで殺人事件 猟奇殺人か?!】
ルイス警部の担当になるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら記事を読み始めた。そういえば今日のあの青年の名前はロビン(ロバートの愛称)でルイスと同じロバートだ。こんなことにまで関連性を見出そうとする自分はホームシックにかかった子どもみたいだ。教会内の腐敗を暴くよりルイスと一緒に殺人事件の捜査をする方が楽しいのに…などと考えてしまう。
事件はどうやら死体のポーズが独特だったらしい。新聞には詳しいことは書かれていないが(捜査上の秘密なのだろう)それが猟奇的だと感じさせるらしい。それ以上の情報は新聞からは得られなかった。ハサウェイは傍らにあるスマートフォンに目が行くが手に取るのは我慢した。今は潜入捜査が自分の仕事だ!と。
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ホームページにキャストの説明がないのでざっと説明しておきます。
ジェームズ・ハサウェイ:このファンフィクの主人公。オックスフォード署ではルイス警部とバディを組んでいる、30代後半の長身でハンサムな刑事。かつて神父を目指して勉強していた。
石畳を歩く男。リズミカルに蹴り出される裾を見ながら思う。
ようやく聖衣が身に付いてきた、と。
彼、ジェームズ・ハサウェイはカトリック教会で大規模な犯罪が行われているという情報を確かめるために、潜入捜査という前例のない仕事を任されオックスフォード署を離れて久しい。ルイス警部とのコンビを組んだ仕事の忙しさが懐かしい。何しろこの仕事は単調な毎日なのだ。
聖堂に入っていくと一人の青年が壁に掛けられた聖人画を一心不乱に眺めているのに気づいた。昨日もいたのではないか?彼の中で刑事としての本能が目覚める。
「その聖人画がお気に入りのようですね。昨日も見ていたでしょう?」
ハサウェイは温和な神父として話しかけたが、青年はハサウェイが近づいていたことに全く気付いていなかったようで声をかけられて小さく飛び上がった。
「! 神父様でしたか。」
青年は話しかけたのが神父だったことにホッとしているようだ。聖堂に他に誰がいるのだ?刑事なんているわけない、と内心苦笑するハサウェイ。
「失礼、驚かせてしまいましたか。とても熱心に絵を見ていますね。相当お好きらしい。」
神父になりきっているつもりのハサウェイだが、その目は青年を細かく観察している。小柄で大人しそうな雰囲気の20代後半から30代前半の男、髪は黒、瞳はダークブルー、武器は所持していない、おそらく右利き・・・刑事としての本能は意識しなくても働いてしまう。
「はい、神父様。近くこの絵が修復に出されると聞いたので搬出される前にじっくり見ておこうと思って。」
そう言われてハサウェイも青年と一緒に絵を見上げる。
「修復のことをご存知でしたか。」
「ええ。実は僕、修復師なんです。この大好きな聖人画の修復ができればよかったけど他の工房が受注してしまったから。」
「ほう、専門家ですか。では私よりずっとこの絵には詳しいですね。」
ニコニコと人のいい神父の振りをしながら心の中では下手にウンチクを語らなくて正解だったと胸をなでおろしている。
「知識はありますが、聖人画は見る人を神聖な気持ちに導くのが役目ですから知識はあまり意味はありません。
あ、すみません偉そうなことを言って。」
気まずそうに笑うが最近ではこんなに信仰心が篤い若者は珍しいと思う。
「あなたはとてもまっすぐな信仰をお持ちだ。聖人画本来のあるべき姿をわかってる。」
自分もかつてはこんなまっすぐな信仰心で神父の道を目指していた、ハサウェイにとっては遠い過去の話だ。
「この近くに住んでいるのですか?」
ここで話題を変えるくらいには刑事生活が染みついてしまっている。
「少し離れた所に…でもこの絵を知ったのは最近なんです。もっと早くに知ってばなぁ、そうしたらこの絵をもっと見ていられたのに。」
「修復から戻ってきたら思う存分見られますよ。」
「そうですね。でも数年は先になるんじゃないかな。」
「ああ、そうかもしれません。」
危うくボロを出すところだった。この絵の修復が決まったのはハサウェイが潜入に入る前だったから修復のスケジュールの詳しいことは知らなかったのだ。そう思った瞬間彼の視線が青年から逸れた。それを青年は見逃さなかった。外された視線にどこか初々しいものを感じこの神父に興味を抱いた。
「僕はロビン・スミスです。聖人画専門の修復師をやっています。」
二人は握手をした。
「私はジェームズ・ハサウェイ神父です。この教会には3ヶ月前に赴任してきたばかりなんです。」
身分を偽る生活で不必要なウソはかえって危険だ。スミス青年は修復期間が長いことを知らないでいたことに納得し再び話し始めた。
「じゃあ神父様もこの辺りはあまりご存知ないんですね。」
スミス青年は些細な共通点も嬉しいようでニコニコと話を続ける。
「小さいころから聖人画を描く画家になりたいと思っていて美術学校に進んだんです。でも聖人画なんて今ではほとんど需要がなくて、それでは生活できないので修復を学んだんです。聖人画を描くのは趣味になってしまいました。」
聖人画よりもさらに遠くを見るようにして話す姿は、ハサウェイに話しているとも思えない感じだ。
「この聖人画は特に素晴らしいと思いませんか?」
聖人画の方を見たままだ。
「聖人画はものすごく多くの数が描かれているけど、そのほとんどは駄作です。単なる看板で中身がないから伝えるものがない。見る人間に対して語るべきものがないんです。」
一呼吸おき深く息を吸い込んでから話を続けた。
「でもこれは違う。聖人の悩みや苦しみ、神への絶対的な服従…そういったものが伝わってくる。そこにいるだけで絵が語りかけてくるんです。」
段々大きな声になっていく青年は芸術家にありがちな危うさを感じさせる。
「神父様!」
いきなりハサウェイの方を向き直って話しかけてきた。
「そう思いませんか?神父様は感じませんか?聖人の語りかけを!」
青年の態度にあっけにとられて黙っているハサウェイ。
「すみません。この絵があまりにも好きなのでつい熱くなってしまって。」
そう言って顔を赤らめると、小走りで聖堂から出て行ってしまった。
夕食後にギターをつま弾きながら昼間のスミス青年との会話を思い出しているハサウェイ。会話というより青年が一人で語っているだけだったが、と苦笑する。ギターを置きローテーブルの上の夕刊を取り上げると殺人事件の見出しが目に飛び込んできた。
【オックスフォードで殺人事件 猟奇殺人か?!】
ルイス警部の担当になるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら記事を読み始めた。そういえば今日のあの青年の名前はロビン(ロバートの愛称)でルイスと同じロバートだ。こんなことにまで関連性を見出そうとする自分はホームシックにかかった子どもみたいだ。教会内の腐敗を暴くよりルイスと一緒に殺人事件の捜査をする方が楽しいのに…などと考えてしまう。
事件はどうやら死体のポーズが独特だったらしい。新聞には詳しいことは書かれていないが(捜査上の秘密なのだろう)それが猟奇的だと感じさせるらしい。それ以上の情報は新聞からは得られなかった。ハサウェイは傍らにあるスマートフォンに目が行くが手に取るのは我慢した。今は潜入捜査が自分の仕事だ!と。
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