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潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』 ⑤

2017年05月07日 | 潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』


潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』は「オックスフォードミステリー ルイス警部」のファンフィクです
潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』の続きです
読んでいない方はカテゴリー「潜入捜査官ハサウェイ『聖人画』」で読めます→こちら

「オックスフォードミステリー ルイス警部」はAXNミステリーで放送しているドラマです→こちら
ホームページにキャストの説明がないのでざっと説明しておきます。
ジェームズ・ハサウェイ:このファンフィクの主人公。オックスフォード署ではルイス警部とバディを組んでいる、30代後半の長身でハンサムな刑事。かつて神父を目指して勉強していた。





 記念品のパーカーを着て帰途についた少年だったが、明るい所に来たときに気付いた。一目で女性用だとわかるような柄が刺繍されていることに。これを着たまま帰るわけにはいかない。どこかで処分しようと考えるがそこら辺に捨てるのは危険だろう。どこに捨てようか。考えながら川の傍まで来た。川に流そうかと思っているとホームレスがいることに気付いた。
 ホームレスにパーカーをやると、ホームレスはもっと何かくれ、金をよこせと言い出した。二人は押し問答になった。ホームレスは今しがた人殺しをしてきた人間と揉み合いをしてるとは考えもしなかっただろう。痩せた少年なんかチョロイと思って強請ってきたのかもしれない。しかし彼は人殺しなのだ。少年は思い切りホームレスの顔に肘を打ち込み、怯んだ彼をそのまま川に突き落とした。肘の当たり所が悪かったらしく、ホームレスは大して騒ぐこともせず水に沈んでいった。少年はそれを見届けてから再び歩き始めた。今度こそ叔母の家に帰るつもりで。

 叔母の家に着いたのは夜が明けたころだった。途中で季節外れの嵐のような天気に見舞われ、濡れ鼠のようになって戻ってきた。叔母の家は長いこと主がいなかったから閑散としている。濡れた衣服を乾かしたくても電気もガスも止まっている。少年は何か着替えられる物はないかと家中を探し回った。もちろん自分が使っていた部屋には服は一枚も残っていなかった。
 自分の衣服があるとは思わなかったが一応叔母の部屋も探してみる。叔母が入院する前のまま何も変わっていないその部屋には懐かしい思い出がいっぱいあった。引き取られて間もないころ怖くて夜一人では眠れずよく叔母を困らせた。叔母は自分のベッドに少年を招じ入れ一緒に寝てくれたことを思い出す。そのベッドに顔を押し付けて匂いを嗅いだ。もう何も匂わない。3年という月日は長かった、実感の持てるような物は何も残っていないのだろう。少年は思い出探しを諦めてクローゼットを開けた。
 クローゼットの中にはリボンのかかった箱が大事そうに置かれていた。少年は乱暴にリボンを剥ぎ取り箱を開けた。何と幸運なことだろう!箱の中身は少年への誕生日プレゼントとして、元気なころに叔母が買った服が入っていた。シャツとジーンズ、それを見て思い出した。
 叔母はいつも大きめの服を選んでプレゼントしてくれたから、よくダボダボの服を着て学校に行っていた。それをクラスメートにからかわれたのだ。
 3年前のブカブカの服が今は少しきつめの服になっていた。しかし充分着られる。今一番必要なものが手に入った。彼は天にいる叔母の愛に心から感謝した。手早く服を着替えると濡れた服はそこでは捨てずに持って出た。濡れた服は学校のある町に戻ってから処分を考えよう。ここで捨てるのは危ない気がする。きっと焼いてしまえば足は付かないだろう…

 叔母の家のある町から列車で2時間ほどで学校のある町に着く。叔母からの最後の誕生日プレゼントの服を着て列車に揺られる少年は、何も心配することなく眠りに落ちて行った。







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