<お断り>
例によらず、難儀な事に記事の内容は部分的に特定の団体や個人と関係あるんですねぇ。
というのは、元ネタとして踏まえているのは、大正十三年(1924年)実際にあった出来事なんですよ。
枝葉の部分には見ていたような虚構・フィクションもございますが、幹は実話でございます。
アレレ?と思い当たられる方があったら貴方の事かもしれません。
大正十三年(1924年)生まれなら今年(2006年)82歳。
主要な登場人物は当時既に成人していたから、存命ならば100歳を超えてるでしょうね。
まさかとは思いますが、記事内容について、ご本人から訂正削除のお申し入れがあった場合は、事の如何に関らず全面的に受諾、可及的速やかに実行します。
ただし、ご本人以外の親族・係累・通りすがり等のお方からの因縁・イチャモンにはお相手しかねますので、前以てお断りして置きます。
</お断り>
さすが若いだけあって先に息を吹き返した若い衆、しかし何時までも若い衆ではこの先話がしにくい。
この兄ちゃん、野田市衛門という侍のような名前の癖に、これ以上のビビリは世間に居らんやろ、というほどの怖がり。
少々、いや相当温(ヌル)いところもあるからか、いまだに独り者。
気は優しいてエエ奴やのに、若い連中には立てて貰えず、年長者からはチョンガ代表と、何かとこき使われる真に哀しい立場。
「保治郎さん、保治郎さん、大丈夫でっか。目を醒ましとくんなはれ!」
「おっ、市衛門か、どうしたんや、ところで巳(ミ)ィさんは?佐太郎はんは何処へ行った?」
「どうしたんやも無いもんや、エライ勢いで私にぶつかるよって、二人して此処でノビてたんやおまへんか。」
「そやけど、確かに佐太郎はんが大蛇に変身・・・。ワッ、そこに白蛇様が!」
何のことは無い、市衛門が首に巻いてた手ぬぐいが、ぶつかった拍子に叢に落ちて、月明かりにボンヤリと浮かんでるんですわ。
怖がりというのは、一旦怖いと思うてしまうと、見るもの聞くもの何もかも怖い。
ギャッ!とばかりに、今度は二人して佐太郎と金助が居る莚小屋へ飛び込んだ。
元々が小さな仮小屋に恐さでブレーキが故障した二人が勢いよく駆け込んできた。
保治郎は年が年だけに脚が縺れてヘッドスライディング。
市衛門は倒れた保治郎を踏むまいとして足元が狂い、笊に足を突っ込んでズッテンドウ。
この騒ぎで佐太郎にスイッチが入ったか「ウ~ム」とうめくなり白目をむいて突っ張らかった。
泡を食って立ち上がった金助が柱に掴まると、やっつけ仕事だけに仮小屋は脆くも崩壊、
棟に使っていた太い孟宗が白目をむいている佐太郎の額を直撃。
そっくり返っていた佐太郎が、突然クタッとなったのには周りが驚いた。
「おい、えらいこっちゃがな。まさかお参りしたのやないやろな?」
「いや、大丈夫死んでは無いようでっせ。」
「市衛門、何で判る?」
「今こそばしたら、ヒクッヒクッと動いた。」
「この大変な時にしょうもないことするんや無い!ん?静かに、静かに、何か言うてるみたいやで。」
「う~・・・、しんぱいするな、お前にいらん迷惑が掛からんよういちもくさんににげるよって、ワシが祈ったくらいであめがふるはずがない・・・・・・」
「オイ、市、聞いたか、聞いたか!シンパイスルナ、ニイイチサンニアメガフルといううたんとちゃうか。これはお告げかも知れんぞ!」
まぁ、都合の良い聴き間違いをしたもんで、そう有って欲しいと思うと無理やりにでも聞こえるんでしょうなぁ。
「保治郎さん確かにシンパイスルナ、ニイイチサンニアメガフルと聞こえたような気はするがそれが何ですねん?」
「そやからお前は皆んなに温(ヌル)湯のイッちゃんとよばれるねんがな。」
「あれは私が全身猫舌で暑い風呂によう入らんから・・・」
「ええい、全身猫舌の話なんかどうでもエエのじゃ!心配するな、二一三に雨が降ると言うたやろ。」
「貴方もくどいねぇ、今そう聞えたといいましたやろ。」
「貴方もくどいねぇ、とは目上に向かうて何ちゅう口の利きようや!」
「私のほうが背が高いから目の位置は保治郎さんの方が下、イテッ!」
「そんな事はどうでもええのや、ニイイチサンというからには二十一日の三時、午前か午後かは判らんが兎に角三時に雨が降るというてるんやがな。」
「え~っ、ホンマに雨が降るんでっか?もしも降れへんかったら、保治郎さんどうしてくれます?」
「ワシにそう言われても、答え様が無いがな。ホンマに降るかどうかは知らんけど、そう聞こえたで、なぁ金助」
「へっ?」
「へっ、や無いがな、今の佐太郎はんのお告げを聞いてへんかったんかいな。」
「お告げ、でっか?へぇ、一向存じませんが。」
「なんとまぁ、従兄弟やというのに頼りにならんこっちゃなぁ!あれ?市衛門は?」
「ほんの今、エライコッチャ、エライコッチャと喚きながら村のほうへ走っていきましたで。」
「しょうの無い奴やなぁ、気付けの水を取りにやろうと思うたのに。」
「あ、水やったらここにもおまっせ。」
「おお、おお、これは用意のエエ、それを佐太郎はんに飲ましたげなはれ。」
「え~、これをでっか?それはあんまり・・・」
「こんな時に水ぐらい惜しんで、大体お前は普段からけち臭い。早よしなはれ。」
「いや惜しんでるわけや無いけれど、掛けるなら兎も角、飲ますのは一寸どうかと、」
「一々口ごたえせんと、早ようしなはれ!」
「ブェ~ッ!オェ~、オェ~、何をするねん!」
「あっ、良かった気が付きはったかいな。」
「エエ事あるもんか、今のましたんは一体何やねん。」
「水神さんにお供えしてあった花活けの水・・・」
「おのれ金助、お前は何の恨みがあって、折角はるばる訪ねてきた従兄弟を殺そうとするんや!」
「アヒィ~、シム~、シム~、!」
「佐太郎はん、止めなはれ!金助が死んでしまうがな。ところで二十一日三時に雨が降るというのはホンマでっか?」
「何やそれ?」
「いや、今あなたがお告げで雨が降ると・・・」
「おっ、雨が降りますのんか、それはそれはよろしおましたなぁ♪私もお役御免でほんに結構、ところでそのお告げというのはナ~ニ?」
「そやから、さっきあなたがそうお告げを・・・」
「へぇ~!私がでっか?」
「へぇ~、や無いがな!」
大騒ぎをしておりますと、ワイワイという声が近づいてきた。
よしよし、充分転びましたねぇ。
転んでゆく方向が今一定まってない事が問題やねぇ。
まだ雨が降ってないから「お池にはまってサァ大変」になる心配はないけれどね。
草むらにでも転がり込んで行方知れずになったら探すのが面倒な。
その時はその時で、また胴体着陸でもするか・・・。
2006/09/22
白姫伝説-00 目次