<お断り>
例によらず、難儀な事に記事の内容は部分的に特定の団体や個人と関係あるんですねぇ。
というのは、元ネタとして踏まえているのは、大正十三年(1924年)実際にあった出来事なんですよ。
枝葉の部分には見ていたような虚構・フィクションもございますが、幹は実話でございます。
アレレ?と思い当たられる方があったら貴方の事かもしれません。
大正十三年(1924年)生まれなら今年(2006年)82歳。
主要な登場人物は当時既に成人していたから、存命ならば100歳を超えてるでしょうね。
まさかとは思いますが、記事内容について、ご本人から訂正削除のお申し入れがあった場合は、事の如何に関らず全面的に受諾、可及的速やかに実行します。
ただし、ご本人以外の親族・係累・通りすがり等のお方からの因縁・イチャモンにはお相手しかねますので、前以てお断りして置きます。
</お断り>
「ホンマや言うてるやろ、保治郎はんもちゃんと見はったし聞きはってんから!」
「どれ、耳を見せてみいな。コラあかんわ!」
「何があかんねん?」
「詰ってしもうてて、向こうが見えへん。」
「間に脳味噌があるねんわい、耳の穴が行け行けに向こうまで突き通ってるわけが無いやろ!」
「ありゃ、お前の頭にも一人前に脳味噌が入ってるか?」
「しかし、水神様が現れて、21日の3時に雨が降るとお告げがあったと、突然いわれてもなぁ。」
「雨が降るて、あのお月さん見てみいな、傘も何んにも被ってないし、まるで真冬みたいに銀色やがな」
市衛門をからかいながらガヤガヤ言うてやってくると、ひしゃげた仮小屋の中からのっそりと佐太郎が立ち上がった。
「ウワ~、出た~!!天狗、天狗が・・・」
「天狗やない、佐太郎さんやがな。今雨が降るとのお告げがあったぞ。」
「天狗が保治郎さんの声で喋ってる!気の毒に丸呑みされたんやろか?」
「お前等の頭はどういう構造になってるねん、丸呑みされたら喋れる筈がないやろが。」
「あっ、保治郎さんご無事で、これはこれは祝着至極。」
「アホな事いうてんと落ち着いて聞きや、水神様のお告げでは雨が21日の3時に降るそうな。」
「えっ、市衛門のいうてたんはホンマやったんかいな。そやけど一向に雲が出たようにも見えませんで。」
「今すぐやないがな『21日の3時に降る、心配するな』と水神様のお告げがあったというてるやろ。」
「何です、時間まで指定してますのんか?そんなもん出任せに決まってますがな、信用出來まっかいな!」
「信用するもせんも、もし降ったら儲けもん、どっちみち雨が降らんことには仕事も何も出來はせぇへんのじゃ。ここは一つ佐太郎さんに教えてもろて、皆で水神さんにお祈りしょうやないか。」
「成る程、そういえばそうや、やっぱりマイタリ、マイタリ、ソワカを百八回でっか?」
「それは庚申さんやがな、サルと己さんと一緒ではいかんやろ。佐太郎さん一つお祈りの仕方を皆に教えてやってください。」
「何やねんな、引っ張りな、引っ張りな!いうてるやろが!」
「そやけど、どうする積もりや佐太郎。話が妙な方向に進んでるやないか。21日に雨が降らんかったら逃げようがないぞ」
「逃げようがないなら、ここに居らんとしょうがないやないか。そないオロオロせんと腹を括らんかい!」
「お前はどつかれるかどうされるか知らんが、みんなの気が済んだらエライお騒がせと何処えなと行ってしもて、それでええやろうが、ワシは狭いながらも田畑があるのやさかい、此処から逃げられんのや。」
「心配ない、逃げんでもこのまんま雨が降らんかったら、早晩あの世からお迎えが来て楽になるわいな。」
「何を二人でゴジャゴジャいうてますねん。みんな待ってますよって佐太郎さんおねがいしますわ。」
「どれ、それでは私の言う通り後からついて唱えなされ。漸傀慣悔、六根清浄(ザンギザンゲ、ロッコンショウジョウ)。大峰八大、全剛童子(オオミネハチダイ、コンゴウドウジ)。大山大聖、不動明王(オヤマダイショウ、フドウミョウオウ)。石尊大権現。大天狗小天狗(シャクソンダイゴンゲン、ダイテングショウテング)。哀患納受、一律礼拝(アイミンノウジュ、イチリツライハ~イ)。」
「わ~い、保治郎はんえらいこっちゃ!」
「どうした、どうした!」
「松島の千代蔵じいさんと浅上の鶴松じいさんが舌噛んだ・・・」
「あのぉ、それは余りにもややこし過ぎますんで、もう一寸短い素人向けの簡単なんはおまへんやろか。」
「無い事もないが、それで雨を降らそうと思えば、ワシは渾身の念を込めて祈らんといかん。そのためには満願の日まで毎日一升の白飯が要るが承知か?」
「へぇへぇ、それで済むなら一つお願いします。後押しに近郷近在から人を集めて一緒に唱えさしますよって、どうぞ雨のほうをよろしく。」
「そうかそうか、よし心配するな。ところで、雨は何時(イツ)降るというた?」
「あなた自分で言うといて、今更、何時(イツ)降るとはどういう事でっか!先刻も言いましたやろ、21日の3時と言うたと、ひょっとしてあれは出任せ?」
「出任せとはぬわにを言うか、あれはワシが言うたのであってワシが言うたのやない、水神様がワシの口を借りておっしゃったのじゃ。又何やねんな、引っ張りな、引っ張りな!いうてるやろが」
「あんまり偉そうに言わん方が身の為・・・」
「此処まで来てしもたら、どうしようが一緒や。どのみち逃げられはせん、お前も覚悟を決めぇ。」
「そんな殺生な、お前の道連れは厭じゃ!」
「何です?」
「いや、こっちの話ですよって、お気になさらず。それでは始めますぞ、よろしいか?」
「へい、なるべく短いのんでお願いします」
「オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ!」
・
・
「へ、それでお終い?」
「お気に召さんかったら、もっと長~いのんにしまひょか?」
「いえいえ、鱶(フカ)除けの六尺褌(フンドシ)やあるまいし、それで充分でおます。」
「オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ」
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
収拾が付かんようになったら胴体着陸をせんならん。
そういう場合に備えて前持って高度を充分取って置かんとね。
上がれるだけ上がっておけば着陸点が見えるやも知れず、万が一錐揉みで墜落しても苦しまんで済みますやんか。
そこで目下出鱈目度を高めるべく、エンジンのぉ音ごぉごぉおと♪全開急上昇を試みております。
ところで「オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ」というのはご存知のように勢至菩薩さんの正真の真言(真言宗)です。
場所は香川県で真言宗弘法大師には縁が深い、ウチの総本家とされてる神社が神さんの世界では高野山の地主。
同じことなら一寸でも引っ掛りがあるほうが、と真言宗の方を採用したんですわ。
ちなみに天台宗では「オン サンサンサク ソワカ」とにごりが無くてちと短いんですなぁ。
さて勢至菩薩さんに雨を降らせる力が有るなどと聞いた覚えは全くおません、この部分は口から出任せです。(キッパリ)
もっとも、勢至菩薩さんのお姿は冠に水瓶の装飾があるのがおおいようで、その水瓶にはご本尊を供養する水、又は、甘露の宝水を貯えてるんやそうです。
ま、そう思えば、水と関係が有るどころか、まともに水がらみ、てぇことで、恐れ多くも担ぎ出してまいりました。
で、勢至菩薩さんのお縁日が二十三日、是が又私の誕生日♪
水瓶座(the Water Bearer、Aquarius)との関連もありそうで、そうなると水瓶座は私の星座だけにますます縁が深い。
勢至菩薩の誕生の秘密と黄道十二星座なんてぇのは実に面白そうやけれど、今はそんな方へ寄り道どころや無い。
この真言を唱えると、煩悩が去って、智慧を授かり、悟りの境地に入れるということです。
さぁ、それでは皆さんもご一緒に、
「オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ」
2006/09/23
白姫伝説-00 目次