Journal de Tsurezure

雑多な日常、呟き、小説もUPするかもしれません。

だから最後は一人になった(夫)そして誰もいなく、いや、信じられなくなった 

2021-10-26 19:37:17 | オリジナル小説

 それにしても、あなたって酷い男よねと言われて男は仕方がない、妻とはもう何年もないんだよと答えた。
 自分の部屋に彼女を入れたのは初めてだ、物珍しそうに男の寝室を眺めていた女は少し残念そうに、あまりセンスが良くないわねと呟いた。
 男は内心、むっとしたが、既婚者の男の部屋なんて、こんなものだろうと呟くと女は意外そうな顔をした。

 「奥さんにばれてない」
 「ああ、大丈夫だ」

 断言する男の顔を見た女は、本当にと念を押すように尋ねたが、ばれてるわよと呟いた。
 
 「隣の人、見てたわよ、窓からね」
 
 嘘だろうといいかけたが黙り込んだのは隣人の顔など、あまり見ていない、いや、覚えていなかったからだ。
 最近の近所付き合いともなれば珍しくないだろう。

 「気づいてなかったの、まあ、いいわ」

 女の言葉に何故という疑問が浮かんだのも無理はない。

 「だって、これで終わりよ、あなたと付き合うの、今週末、会社を辞めるの」

 「なんだって、突然だな」

 結婚するのよ、とってもイイ人、凄く素敵な人なのと女は続けた。


 「おいおい、俺の前で他の男のノロケかい」
 
 最初から割り切った関係のつもりだったので、嫉妬するつもりはない、だが、女の態度はあまりにもあからさますぎて、正直、いい気分ではなかった。
 
 「それにしても隣の家の人間が見てたって、本当か」
 「笑って手を振ったのよ、もしかして子供だったのかしら、どうするの、まあ、離婚するつもりならいいんじゃない」
 「いや、それはない」
 
 結婚して三年、子供はいない、夫婦二人きりの生活だが、夜の生活に不満はあるものの、それ以外は満足しているのだ。
 料理も掃除もちゃんとしてくれる、家の中は綺麗で、そう、家政婦と思えばいいんだと男は割り切っていた。
 
 「まあ、奥さんもほっとしてるんじゃない」
 
 何故という顔になった男に良くなかったんだものと言われて、男は内心むっとした。
 
 「おい、なんだ、それ、最初の時は」
 
 女は笑った、演技に決まっているじゃない。

 「ちょっと、どんなものかなって試しに味見してみたの」

 女の言葉が信じられなかった、だが、先に誘いをかけたのは自分からだ、自惚れがなかったといえば嘘になる、女も自分に多少はその気があったのだろうと思っていた、だが、今の言葉からすると、明らかに自分は。
 自分との事は、それほどでもなかったということか、内心、男はがっくりとした。
 
 「あたし意外にも相手はいるんでしょ、受付の子だったかしら」

 今度はもっと可愛げのある女にしようと男は思った。

 ところが、数日後。
 今、男はホテルの一室で裸のまま、ベッドの上で呆然としていた。
 自分の目の前で起こっていることが信じられなかった、女がルームサービスで何か食べるものを頼んで、それから数分後の、あっというまの出来事だ。
 てっきりホテルのサービスがきたのかと思ってドアを開けると、いきなり、数人の男が入ってきたのだ。
 腹を殴られて、女が羽交い締めにされた、そして今、部屋の中には自分と男たちだけだ。
 まるで、映画かドラマのような信じられない、あっという間の出来事だ。

 「か、彼女をどうした」
 
 「ノープレブレム、アイ、シット、オウッ、日本、難しい」

 長身の男は金髪でサングラスをかけているが大きな黒いマスクをしている為か、表情が分からない。

 「旦那、丁度、欲しがっていた客がいましてね」
 「んー、ソウ、売レル、需要アル」
 「受けるんです、最近は男のほうが」

 何を話しているのかわからない、だが、よくないことを言っているのは確かだ、自分はどうすればいいのかわからないまま、ただ、男は呆然としていた。


 「どうしたの、あなた」
 
 元気がないのね、具合でもよくないの、妻に言われて男は我に返った。
 一瞬、ぼんやりとしていた自分に、しっかりしろと言い聞かせて、食卓を見る。

 この数日、心が、気持ちが落ち着かない、それというのも数日前の出来事だ、ホテルでの愛人との情事、あの後、女とは会っていない。
 翌日、会社に行くと女は会社を辞めていた。
 両親の具合が悪くなり、突然のことで挨拶もできないということだ。
 連絡をしようとしたが、スマホは繋がらない。
 ところが数分後、彼女の番号から電話がかかってきた。


 「おお、裸のおっさんか」

 聞こえてきた男の声、思わずスマホを落としそうになった、体が震えて男は自分でも分からず周りを見た、何故か分からない。
 
 「この間は楽しかったよ、だから、いいもの送ってやったから楽しみにしてろよな」

 なんだ、どういうことだ、足、膝が震えた。


 「あなた、これ大事な書類かしら」
 
 その日、自宅に帰るとポストに入っていたのと、妻から手渡されたぶ厚い封筒に男は嫌な予感がした。
 しばらくの間、悩んだ、このままゴミ箱に突っ込んでしまいたいと思いながら、それでも見なければと自分の部屋で中を確認する為、封を開けた。

 中に入っていたのは写真だ、しかも男の淫猥な裸ばかり、女とだけでなく男同士での行為の写真に、何故と思った。
 数人の男に組み伏せられて写真、だが、犯されている顔は自分の顔を貼り付けてある、ところが、見ているうちに男の顔色が蒼白になってきた。
 全てではない、最後の数枚は自分が裸で縛られている写真だ。

 「奥さん、これを見たら笑うだろうね」

 一枚の紙に書かれた文字、だが、それだけではない、漢字や英語で殴り書きのように書かれている。
 自分は脅されているのか、警察にと思ったが、どうやって説明すればいいのかわからない。
 それに話すとなれば、浮気の事も説明しなければならないだろう。   
 妻に浮気がばれたら互いの両親の知るところとなる、できるなら、それだけは避けたいと思っていた。
 ふと浮かんだのは友人の顔だ、確か警察に知り合いがいたはずだ、以前、事故を起こしたときに親身になってくれたとを思い出した。
 といっても、自分もそれなりの礼をしたのだ、決してやすくはなかったが、それだけの価値はあった。

 「浮気したのか、あんないい奥さんがいて」

 仕方のない奴だなと笑った友人の顔を見て、ほっとしたのは力になってくれると思ったからだ。

 「妻はいないんだ、それに外で話せるようなことじゃないし」
 「ふーん、まあ、聞かれたくない話なら尚更だな、ところで」
 「なんだ、何か」
 「隣の家の人間と仲いいのか」
 「い、いや、近所付き合いは殆ど妻に任せているんだが、何だ」
 
 友人はそうかと頷いた後、恨まれたりしてないよなと男の顔を見た。

 「まあ、それより本題に入ろうか、俺も仕事があるしな
 「そ、そうだな」 

 隣人の事など関係ない、男は机の引き出しから取り出した複数の封筒の中身をためらいながらも男に見せた。
 先日、また、送られてきたんだと説明すると中を見た男は何だ、こりゃと笑い出した。

 「おまえ、こういう趣味があったのか」
 「馬鹿をいうな、俺が男になんて、笑うのやめろ」
 「ああ、すまん、だが、悪戯にしては、これから段々とエスカレートするか、外国人っていってたよな、おまえ、競売に、出てるんじゃないか」
 
 競売、意味がわからない、だが、答えはなくスマホを操作する友人の横顔を男は不安そうに見つめた。

 「ほれ、見ろ」

 そこには初めて男たちとホテルで会ったときの裸で床に正座させられているときの姿が映っていた。

 「おまえ、商品として登録されているよ」
 
 人身売買の闇サイトだと見せられた画面を見て男は驚いた。
 
 「販売前だが、多分、すぐに買い手がつくそ、閲覧のバロメーター見ろ、凄いじゃないか」
 「感心してる場合か、犯罪だぞ」
 「こういう連中は何だってするからな、買い手がつけばすぐに誘拐されて売り飛ばされる」

 友人の言葉に男は驚いた、闇サイト、人身売買、誘拐、現実にあることは知っている、だが、自分に、そんなものは関係ないと思っていた。


 「俺がいなくなったら妻が」
 「例え場だ、奥さんに多額の見舞金が払われる、すると警察に通報はしないから事件にはならないって、どうだ」
 「どうって、なんだ、それは」
 「被害者がいない、訴える人間がいないんだよ、おまえの場合、売られたんだな、ここに人型のマークがついているだろ、情報提供した数だ」
 「俺を売る、そんなこと」
 「おまえ恨まれているだろ、特に女絡みで、昔からだけどな」
 
 そんなことはないと言い切れない自分がいた、結婚してから浮気は何度か繰り返してる、妻にはばれていない、というかおっとりとして、自分が浮気なんて微塵も疑っていないだろう。
 
 「おまえ、学生時代もモテてたし、結構、ひどい別れ方をした相手だっていただろう、顔はいいけど中身は最低男って言われてたしな」
 「おい、昔のことだろ、今は関係ない」
 「尾崎、だっけか、隣の表札」
 「なんだ、隣って」
 「昔、付き合ってた女、オザキって確か中絶したよな、おまえは知らんぷりして、結局、あの女、大学を辞めて、噂じゃ、もう子供は無理だって」

 何年前の、過去の事だ、少なくとも自分の中では、名前さえ覚えていない、言われてみて、ああと頷くぐらいだ。
 
 「なんだ、忘れてたのか、薄情だよな、まあ、恨まれても当然か」
 
 友人の言葉に多少なりとも気まずさと罰の悪さを感じて、少し視線を逸らした後、忘れてたと呟きを漏らした。 

 「じゃあ、その女が俺と付き合っていたことも知らないんだろうな」

 はっとして顔を上げると友人は笑っていた。

 「まあ、周りには付き合っているって言ってなかったし、それに昔のことだよ、正直、別れたいって思っていたから丁度、良かったんだ、渡りに船ってやつだな」
 
 その言葉に、ほっとして男はどうすればいいと呟いた。
 
 「安全で確実なのは情報提供者に競売を取り下げてもらう方法だ、恨んでいるから高い金を払って仕返しをなんて思っておまえを売ったんだ、自分は被害者なんだって思ってたら足下を救われるぞ」
 「恨みか、別れた相手とか、もしくは」
 「いや、まあ、そんなところだろうな(おまえの想像力だと)」

 パソコン、貸してくれるか、ウェブマネーが必要だと言われて男は自分がと言いかけた。

 「いや、俺が出す、おまえは商品だ、怪しまれるのがオチだよ、俺の仕事用のアドレスを使う」
 「すまない、世話をかける」
 「気が早いな、おまえの首は皮一枚だ、相手が競売の取り下げに応じなかったらどうする」
 
 警察にと言いかけると友人は首を振った、甘いなと。
 
 「警察に洗いざらい薄情するのか、最近のじゃなくて昔の女関係の事まで全部、オヤジさんは重役じゃなかたか、昔会ったけど、結構厳しい人だろ、一人で息子を育てて苦労した末が、これか、おまえが商品になったほうが皆、喜ぶんじゃねぇか」
 「おい、その言いぐさは」
 「事実だ、警察が動く事ができないから、俺みたいなのが呼ばれるんだよ、いざとなったら使い捨てにできるからな」
 「なんだ、それ、使い捨てって」
 「オザキの事も性欲発散した後は見向きもせず、今度はおまえが反対の立場ってわけだな、滑稽だ」

 助けてくれるんじゃないのかと男は改めて友人の顔を見た。
 パソコンに向かっている男の横顔に何を言えば、聞けばいいのかわからなくなる。

 「売った人間の事、知りたいか」
 「当たり前だ」
 「名前が出てきた、見ない方がいいと思うな、どうする」
 
 ローマ字で書かれた名前を見て男は驚いた。

 「実の父親に売られるとは、でも無理ないか、おまえ、散々、迷惑かけてるしな」
 
 迷惑、確かに金を工面して貰ったことは何度かあった。

 「裏口、揉め事の費用、親父さんが出したんだろう」
 「知ってたのか」
 「最悪なのは奥さんの妹、まさか、知られてないなんて思ってたのか、皆、陰で噂してたぜ、だから今回のことも」
 
 男の体が震えた、妻の妹のことを言っているのかと。
 一度きりのちょっとした浮気のつもりだった、それなのに姉と別れて自分と結婚してと言われて。

 「ああ、おまえの」

 友人の言葉に膝が震えた、本当にどうしようもない奴だよな、クズ以下だよと笑っている友人がモニターの画面から自分へと視線を向ける。

 「尾崎、彼女はな大学を卒業したら、一緒になるつもりだったんだ、なのにプロポーズの日に自殺なんて、どう思う」

 耳を塞ぎたくなったが、それができなかったのは、玄関から妻の声が聞こえてきたからだ、友人が囁くように、だが、笑いながら、おまえの奥さんもだよと言った。

 「随分、恨まれているよな」 


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