Journal de Tsurezure

雑多な日常、呟き、小説もUPするかもしれません。

騙されたのは、誰 (女とホスト)

2024-10-03 08:39:48 | オリジナル小説

 

自分の腕、顔で稼いでいるという実感が沸いてきたのは最近のことだ。
 この仕事をはじめて最初の頃は客もつかずにヘルプとして働くだけだった、嫌になって辞めてしまおうかと考えたこともあった。
 ところが、ある女が自分目当てに来るようになって変わったのだ。
 高価なブランデー、シャンパンを注文して現金で支払う事には驚いた。
 その夜、久しぶりに店に来た女の言葉に驚いた。
 会話も態度も、自分は全然、楽しめないと言われて男は内心むっとしたが、その不満を顔に出すことはしなかった。
 「あなた、悪いことしてるわね」
 意味がわからず、何故と聞き返す、だが、全然心当たりがないわけではない。
 「若い女の子から自分が立て替えるとか、ホストと客じゃない、恋人同士って言って口説いてるんでしょ」
 どうして、そのことを知っているのかと思ってしまう、いつもなら言い訳の言葉がすぐに出てくるのだが、女の視線に何かを感じて、すぐには言葉が出てこない。
 今日、ここに来たのは、確認の為よと言われても意味が分からず、何故と思ったとき、女が言った。
 オーナーを呼んでくれると。

 「僕に用って、どうしたんだい、ミサキちゃん」
 若いオーナーだが、イケメン、ハンサムと言われて女モテる、本人も自覚しているので初対面の相手に対しても、まるで以前からの知り合いのような笑顔を向けるのだ。 
 「明日、開店前に、あなたに話があるって人が、それと、こちらのホストにも、大丈夫、別れた、いえ、捨てた女でないことは確かよ」
 笑いで返すつもりだったが、女の顔を見てオーナーの口元から、笑顔と続くことばいは出てこなかった。

 「神崎と申します」
 翌日、店に尋ねてきたのは眼鏡をかけた小太りの男性だが一人ではなかった、長身で体格のいい男性が三人ともサングラスをかけている。
 「ああ、彼らの事は気になさらず、雇い主がつけてくれたのです」
 オーナーの顔、表情が硬いのは仕方ないと隣に立っていたホストは思った、この男、一般人ではないかと思ったとき。
 「実は沢野良子さんの代理として来たのです、彼女は、この店に借金があるそうですね」
 「えっ、ええっ、そうです」
 頷く若いホストはテーブルの上に差し出された一枚の紙を不思議そうに見た。
 「こちらの方が確実ですからね、その前に領収書の明細を確認したいのですが」
 ホストの表情が固まった。
 「あの、実は」
 オーナーの方をチラリと見る、意味ありげな視線でだ。
 「すぐに取ってきます」
 店の奥に姿を消したが、それほど時間がかからずに戻ってきた。
 手渡された数枚の紙を神崎はじっと見た。
 すると蕎麦に立っていた男が明細の紙をスマホで撮り始めた。
 「これは、依頼主も見せなければなりません」
 ほんの数分、だが沈黙を破ったのは神崎だ。
 「ところて、これは綴りが違いますね、いや」
 若いホストに紙を手渡し、神崎は笑った。
 「どういうことでしょう」
 何を聞かれたのか、意味が分からずオーナーとホストはちらりと互いの視線を交わした、何か都合なことがあっただろうかと思ったが、沈黙は長くは続かなかった。
 そばにいた男が神崎に小声で囁くように先生と呼びかけた。
 「時間が迫っています」
 「そうか、仕方ないな」
 領収書をオーナーに手渡すと、小男は私の仕事は今回借金の返済なんですとオーナーに笑いかけ、それ以上はと腰を上げた。
 小男が、店を出ると若いホストは、ほうっと息をついた。
 「俺、明日にでも銀行に行ってきます」
 オーナーは頷いた、だが、その顔色は少し前、開店前とは違う。
 「綴りが違うと言ったな」
 「さっきのことですか」
 「適当な紙を出したのがまずかったかもしれない」
 

 翌日のこと。
 「これを現金にかえてくれ」
 窓口の行員は窓口に差し出された紙を見ると頷いた、だが、確認するように再び紙を手に取るとお客様と声をかけた。
 「これはお取り扱いできません」
 何を言われたのか、すぐにはわからなかった、小切手が偽物だっていうことか、騙されたのか、そんなホストに行員はお待ちくださいと行員は首を振った。
 
 「お客様、この小切手は特殊扱いですので、当銀行では扱えないのです」
 別室に案内され、いかにもお偉いさんといわんばかりの男に説明を受けたホストは、意味が分からなかった。
 「なんだ、もしかして金額に問題があるのか、高すぎるとか」
 男はとんでもないと首を振った。
 「はあ、どういうことだ意味が」
 「この小切手は日本国内では取り扱い出来ないと言っているのです、海外の銀行系列です、お聞きしたいのですが、あなたのご職業は」
 「見ての通りのホストだよ」
 少し前なら髪を染め、金髪でアクセサリーをふんだんにつけて着飾っていたホストが多かったが、今は違う。
 黒髪にスーツ、仕立ての良い、そういうスタイルだ。
 「この小切手が扱えるのは海外、それもトップ、サーの称号を持つ方、特殊業務に携わっておられる方、専用の銀行です」
 何を言われているのか、すぐには理解できなかった、換金できないのか、頭の中の疑問を口にすると相手は首を振った。
 「あなた様の名前が書かれている以上、窓口に行けば換金できます、イタリアですが、ここはスイス銀行の口座と直結しています」
 このときになって相手の視線にホストは初めて気づいた。
 「ホストの方でも、ここの顧客はおられます」
 「どういった経由で、この小切手を、まさか」
 「おい、盗んだとかいうんじゃないだろうな」
 「とんでもありません」
 男は言葉を続けた。

 小切手を窓口に出せば書かれた金額の金が目の前に、そう思っていた、ところが事態は予想もしないことになってしまった。
 仕方ないオーナーに話して海外、イタリアの銀行に行くしかないのか、とんだ出費だ、小切手の金額を今から書き直してやる。
 家に帰る気にもなれず、オーナーに相談しようと思い、店に向かった、ところが。
 
 店に入ると開店前だというのに騒がしい。
 「あっ、ケイタ、遅かったな、大変なんだ」
 仲間が慌てたように声をかけてくる。
 「どうしたんだ」
 「酒だよ、おまえ、仕入れにも関わってたよな、海外の酒を安く仕入れることができたって」
 「あっ、ああ、それが」
 「偽物だって分かってたのか」
 「なんだ、それ」
 首を振ろうとしたとき、おい、ケイタと自分を呼ぶ、オーナーの声が聞こえた。
 
 オーナーのそばには長身の銀髪の男が立っていた、いや、周りにも数人のスーツ姿の男が立っていた。
 書類と酒の瓶を手にして話している、英語でないと思った。
 一体、何があった、店内にいる男達は何者だ。
 小人のような小男もいれば長身の、まるで映画俳優のような長身のすせとりとしてた男性もいる。
 正直、わけがわからず不安になってしまう。
 「この酒を仕入れに関わったのは」
 あなたですねと聞かれて思わず頷く、この状況を少しでもいいから説明して欲しいと思ったが、オーナーを見ると顔色が悪い。
 「偽造酒、どういうことなのか、私にも」
 オーナーの声は当惑、いや、驚いているのか、しばしの沈黙の後。
 「偽造酒は、この市場に数え切れないほどあります、そして顧客の信頼を失うのは我が国にとっては恥、死ねと言っているようなものです」
 偽造という言葉にホストは驚いた言葉が出てこない、自分はいい酒が安く手に入ると言われて。 
 「実際、いるんです、わかりますか」
 責任を取ってと男がオーナーだけではない、自分を見ている、サングラスで表情はわからない、だが、冷たい視線だと言うのはわかる、いや、このとき、店内の視線が自分に集中していることに若いホストは気づいた。
 「あなたは経営者、お分かりの筈」
 返事はない、沈黙の返事に男がミスターと呼びかけ、隣のホストを見た。
 「ミスター・神崎から聞かされて驚きました、偽造酒のことではありません、沢野良子という女性、どうして、あの女性を騙そうなど」
 突然、出てきた名前にホストは驚いた。
 ご存知なんですかと思わず尋ねる、ホストは驚いた、自分と出会ったとき彼女は普通のOLに見えたからだ。
 「Mr.神崎が出てきたんです、何もないなんてことはないでしょう」
 小太りの男の姿を思い出した、メガネをかけた、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた弁護士の顔を。
 「あの、神崎さんは今、どちらに」
 ホストか尋ねた、小切手のことを思い出したからだ、すると忙しい方ですから本国でしょうねという簡素な答えがかえって来た。
 「イタリアです、忙しいんでしょう、今回のことでドンは怒っているようですし、偽造酒だけでなく日本のホストが娘をprese in giro(馬鹿にした)」
 男の唇が薄っすらと開いた、そこから出てくるのは日本語ではない、いや、英語でもなかった。
 
 
 男たちが出ていき店内にはオーナーとホストたちだけになった。
 「嘘だろ、あんな、普通の女が、マフィアの娘、う、嘘だ」
 床に崩れるように膝をついた男は名前を呼ばれて、顔を向けねるとぞっとした。
 オーナーの視線、いや、店内のホストたちの目が自分に向けられていたのだ、それは仲間を見る視線ではない。
 「ケイタ、おまえ、どう責任を」
 そんなことを言われても、責任など取れない、小切手は換金できない、店は、仕事は。
 オーナーの言葉に若いホストは返事ができなて、いや、どうすればいいのか、分からなかった。
  
    

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恨んでいたと言われた男の末路

2024-10-02 12:34:55 | オリジナル小説

 彼氏はいるのかなあ、独り言のように呟いた言葉にそばにいた男はいないだろうと断言するように、手にしていた缶コーヒーを飲み干した。
 一ヶ月前、突然、やってきた事務員の女性の事が気になっているようだが、そばにいた男は内心、呆れたように心の中で吐いた。
 おまえみたいな、豚みたいな男、相手にされるわけないだろうと。
 仕事ができても、それだけでは見た目も大事なんだと言いたい。
 だが男は、その言葉を腹の中で毒づいた。
 人は見かけによらないという言葉通り、目の前の男は仕事ができる、それも自分以上に。
 だから、仲良くしているのだ。
 
 社内でも女にモテると思っていた男は、その日、仕事帰りに寄った飲み屋で、そのカップルを見つけて驚いた。
 豚のように太った男、だが、その男と一緒にいるのが、美人なのだ
 なんで、あんな男と思ったが、もしかして金目当てかと思った。
 女は美人局、マッチングアプリの女かもしれない、男から金を引き出そうとしているのかと、そうでなければ不釣り合いだ。
 よし、助けてやるかと思い、二人に近づいた男は声をかけた。
 
 知っている人間に出会ったことで男の顔色は一変したが、女の方は平然としていた。
 女に名前を呼ばれて男は驚いた、自分を知っているようだが、だが、覚えがない、すると同じ会社でしょうと女は笑った。
 事務員の顔を思い出し、別人じゃないかと男は驚いた。
 
 翌日、男は事務員を見つけると声をかけた、よかったら夕食をと声をかけたが、用があるのでと断られてしまった。
 「付き合ってるのかな、あいつと」
 その言葉に女はちらりと男を見ると、軽く首を振った後、男の顔をまじまじと見た後、似てますねと呟いた。
 「あなた、知りあいに似てます」
 「いい男かな」
 「顔はよかったですよ、女性にもモテていました」
 でも、続く言葉を女は飲み込んだようにみえ、男は尋ねた。
 思わず聞き違いかと思ったが、恨まれていたんでしょうという言葉に男はどきりとした。
 最近、その言葉を聞いたからだ。
  
 あなたを恨むわ、不思議なことに言葉だけは覚えていた。

 「その男性、死んだんです」
 はっきりと言われて男は驚いた。
 「でもね、気の毒な事に」
 人違いだったんですと言いながら、女は笑った。
 事務員の女は男の顔をじっと見ながら言った。
 「本当に似ています、もしかして」
 続く言葉を聞きたくなくて男は足早に、その場を立ち去った。
 
 自分にそっくりな男が刺されて亡くなった。
 数日前のニュースです、女の言葉を思い出し、スマホを取り出して調べようとした。
 だが、毎日、色々なニュースがテレビやネットに溢れているのだ簡単には見つからない。
 そうだ、動画サイトならと思って調べようとしたとき、どんとした衝撃に思わず転けてしまった。
 「大丈夫ですか」
 男が自分に声をかけてくる、だが、歩きスマホをしていた自分が悪いのだと言い訳して立ち上がる、ところが。
 相手の男が、小さな声を漏らした。
 「なんで、あ、あんたっっ」
 自分の顔を見て相手は驚いているようだ、何故と思い、声をかけようとした瞬間。
 「おおいっっ、ここだ」
 まるで、自分の存在を知らせようとしているようだ。
 「ここにいる、あの男だ」
 周りの人間が振り返ると男を見た、まるで、そう。

 ビルの中の喫茶店で珈琲を飲んでいるのは気分を落ち着けるためだ。一体、どういうことだ、自分は何もしていない、それなのに。
 あのとき、通行人達が一斉に自分を見たのだ。
 自分は何もしていない、恨まれるようなことなど。

 あなたを恨む、不意に思い出した、何故だと自問自答する。
 
 「ここにいたのか」
 突然、声をかけられてかおょをあげると見知らぬ男が自分を見下ろしていた。
 初めて見る顔だ、相手は自分の向かいの席に座ると。
 「恨まれているよな、君は」
 「な、なんだ、突然」
 いきなり、失礼だろう、だが、男は笑いながら、それは自分じゃないのかと返してきた。
 「普段から人の事を見下していただろう、豚やろうって、そのくせ、仕事になると助けてくれと寄ってくる」
 笑いながら言われて男は相手の顔をじっと見た。
 まさか、この男、いいや、そんな筈はないと思った。
 だが、男が口を開くたびに事実だと認めざるえない。
 「彼女は君を恨んでいたよ、随分と」
 「何を言って、るんだ」
 女性に気のあるふりをして恋愛感情を弄ぶ、ひどいねと言われて男は何か言いたげな顔になった。
 だが、言葉が出てこない。
 「事務員ばかりを狙うのは金目当てかい、君のほうが」
 美人局じゃないかと言われて男は席を立とうとした、だが、できなかった。
 見られている、視線に気づいたのだ。
 少し離れたところから一人の女が自分を見ている、このとき思い出した。
 平凡だが、事務員の顔は似ているのだ。
 
 「どうするんだ、僕になにをしろというんだ」
 ついて来いと言われて案内されたのはアパートの一室だ。
 そこで男は女達の相手をさせられた、普通の男なら悪くはない待遇だろう、だが、女達は男を罵倒した。
 
 取り柄は顔だけ。
 役にも立たない。
 女を馬鹿にしていない。
 
 ベッドの上で拘束されたまま、無理矢理女達に奉仕させられた後、今度は男達の相手だ。
 殴られ、蹴られて、暴力だけではない、セックスの相手もさせられた。
 男達は女性達の妻や愛人だ、抵抗使用にも体力は限界だ。
 そうして、男は自宅に戻った。

 翌日、出社した男は事務員の女性に声をかけられた。
 顔色がよくないで、すると、太った男が近寄ってきた。
 「どうしてんだ、具合でも悪いのか、女とデートだろ、ほどほどにしろよ」
 しかし、返事ができない。
 わかるのは恨まれた結果、こうなってしまったということだけだ。
 仕返しされたのだ、だが、その事実を現実を、どうやって切り抜ければ良いのか、わからなかった。

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タクシーに乗らなければ、犯罪者にならないこと(男は世間に公開される)

2024-10-01 08:15:31 | オリジナル小説

 コンパで偶然、隣になった男の言葉は時間がたつとだんだんと馴れ馴れしくなってきた。
 飲んでいる酒、食べ物の好みが自分と同じだね、趣味はと聞いてくるので適当に答えると僕たち気が合うんじゃないと言われてしまった。
 そろそろ帰ろうかと女が席を立ったとき、もう帰るの、送るよと男もついてきた。
 一見、親切そうに見えるが、女にしてみれば選択は良い、悪いの二つしかない、そしてこの場合、答えは。
 
 「ねえっ、私、一人暮らしなんだけど」
 男はそうなんだ答えたが、タクシー乗り場まで着いてくるところを見ると飲み屋に戻る気もないらしい。
 「君の部屋、興味があるな」
 笑顔で答える男に女は内心、だから、駄目なんだと思った。
 それは自分が、ではない。

 タクシーに乗ろうとすると、当然のように男は自分の隣にぴったりと身を寄せてきた。
 
 走り出してから、お客さんと運転手が声をかけてきた。
 気をつけてください、その言葉に女は何がと尋ねた。
 「先日もアベックを乗せたんです」
 「もしかして、あの事件」
 「おや、ご存じですか」
 女は頷いた、すると会話が気になったのか、男が尋ねた。
 「あら、知らないの、最近、多いのよ」
 女の言葉が途切れた、すると運転手が大丈夫ですよと言葉を続けた。 「お客さんは」
 そう言ってミラー越しに運転手はチラリと見た。
 何かあっただろうかと男は思い出そうとしたが、TVは殆ど見ていない、胸ポケットのスマホを取り出した。
 ところが、画面は真っ黒だ、何故だ、男は驚いた。
 飲み屋に入る直前まで使えていた筈だ、何の不具合、トラブルもなくだ、すると。
 「お客さん、スマホは使えませんよ」
 運転手の言葉に男は驚いた。
 「もしかして、ご存じないんですか」
 知っていて当たり前、当然というような言い方だ。
 「なんのことだ」
 「最近、多いんですよ、こういう事件、アベックのふりをしてタクシー強盗とか、ですから、乗車するとスマホは使えないんです」
 男は驚いた。
 「あと、酔ったふりをして女の家に押し入って強姦だけではなく殺人、盗みを働くという不届き者もいますからね、だからうちの会社は提携しているんです」
 「警察じゃないわよね」
 女が尋ねると、ええと運転手が答えた。
 「最近は警察に知りあいがいるなんて、罪を逃れようとする人間もいますからね、だから、丸投げというか、後処理も任せるようになったんじゃないですか、でも、そのほうが安心ですよ、でなければタクシー運転手なんて仕事は危ないですいからね」
 女と運転手の会話が何を言っているのか、はっきりとわからない、いや、理解できないといったほうがいいかもしれない。
 ただ、警察という言葉で思い出してしまった、以前の出来事を。
 「そういえばお客さん、以前も、乗られましたよね、女性連れで」
 運転手の言葉、いや、ミラー越しの視線は男を捕らえていた。
 
 何故か気分が悪くなった、もしかして酔ったのだろうか、男が運転手に声をかけようとしたとき車が止まった。

 女が料金派と尋ねると、後で伺いますと運転手が答えた、支払いはと男が尋ねようとすると女が車から降りたので慌てて男も降りようとしたが、いきなり腕を捕まれた。

 「全く、とんでもないことをしてくれたな」
 父親の言葉を男は黙って聞いていた、昔の半年も前のことだ、自分は言われるまで思い出すこともなく、忘れていた。
 それが、こんなことになるなんて、コンパ帰りに仲良くなった女性との、ちょっとした喧嘩、そう痴話喧嘩みたいなものだ。
 「相手側は訴える事はしないと言っているが、大学には行くんだ」
 自分は強姦されたと女は言っているそうだ、だが、警察に訴える気はないと言っている。
 良かったと男は安堵した、だが、父親は苦渋の顔で男を見た。
 「おまえは監視下に置かれた、警察とは関係のないところだ」
 意味がわからなかった、詳しい事を気候とすると父親は首を振り出て行けと首を振った、家から出て行けと。

 男の住居はマンションになった。
 スマホ、ネットも使える、以前と変わりない生活に思えた。
 だが、大学に行くと友人達は自分に見向きもしない、挨拶をしてもだ、まるで異質なものを見るような目つきでちらりと見るだけだ。
 何故だと思ったとき、大学の講師が声をかけてきた。
 「がんばりたまえ」と。

 どういう意味だ、まるで自分が犯罪者のようではないかと思ってしまった。
 
 警察に逮捕され、監獄で過ごすより、一般生活をすることによって自分の罪を認識させる更生システムは、まだ試験段階。
 殺人などの犯罪の大きさによっては当てはまらない場合もあるだろう、だが、この男は女性に薬を使った、薬局で売っている市販薬を複数、混ぜ合わせたものだ。
 一歩、間違えれば女性は死ぬ危険、いや、可能性もあった。
 本人は気づいていない、事の重大さに。

 大学を辞めたい、自分は孤独だと思ったが、それは許されない、休みたいと思い、ずる休みをしようとするとすると、すぐに医者が派遣される。
 気分がよくないというと、カウセリングを受けることになる。
 どうしようもなかった。 何故なら大学を卒業したら就職先も決まっているのだ。
 病気になることも休むこともできず、生きていくことに男は疑問を抱く事も許されなかった。

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久しぶりに、オリジナル

2022-08-21 09:36:32 | オリジナル小説

数日、悩んでネタを色々と考えていたけど転生するときって神様の采配とか、なろう、アルファのノベルやコミックスを見ると凄くあっさり簡単に転移とか、生まれ変わりなのわね。
書き始めたけど自分は、そんな簡単にはできないなあと思って第一話を投稿したのはいいけど三千文字近くなってしまった。
色々と考えて書いてたら数日悩み続けていたわ、キャラクターの名前とか、アルファやpixivに登録したけど1話目だから、近いうち続きをUpだ。
今、二本、続きをと思っていたけど少し悩み中だったので、オリジナルは起爆剤になればいいかなあと思っているのよ。
ポメラだとやはりかきやすいし、集中できるなあ。


アルファポリス 人生に悩むアラサー女と召喚の議を行うと決心した異世界の話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/587918429/939665618/episode/6082239

 

昨日、Upしたら、もう凄くお腹が空いてしまってコールスロー、食パンを焼いた上にどっさりと載せて、ハムもプラスして食べたけど、色々と考えていたから、空腹感が。
今朝は起きたばかりでマックにホットケーキを食べに行ったわ。
コンビニに千切りを買いに行ったら、ファミマは売り切れ、セブンで買ってコールスロー、ここ数日、キャベツを食べまくりよ。
米も食べたいと思って今朝は炊き込みご飯の用意もしたわ。

 

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いつの間にか取り残された男、父親ではなくなっていた

2022-06-07 12:28:35 | オリジナル小説

 久しぶりに書いた、少しざまぁ系のショートショートです。

 

 お父さんを呼んできて、母親に言われて子供は応接間に向かうとソファーに座ったままの父親は熱心にスマホをいじっている、まただと思いながらも子供は自分の感情を顔には出さなかった。
 多分、声をかけても気づかないだろうと思いながらも一応はと重いかける、だが、小さな声なので父親は気づかない。
 いや、気づいたとしても後から行くというだろう、いつものことだ。

 台所に戻って母にゲームだよと伝えると仕方ないわねという顔をされ、先に食べましょうと言われてしまった。
 母も最近では諦めてしまったのだろうと子供は思った。
 感心するのは父親の態度だ、飽きないというより病気だなんて思ってしまう(ゲーム依存症っていうのだろうか)
 そのくせ、ゲームの成績、レベルは良いとはいえない、それを知ったのは最近のことだ、暮らすの友人から教えて貰ったのだ。
 父親のやってるゲームは人気があるようで、クラスの生徒も数人がやっているらしい、しかもレベルは高い。
 最近はスマホ、携帯のゲームも課金制度が厳しくなり、登録するのも実名というところもある。
 
 「長くやっていて、このレベルなら辞めた方がいい、小学生で課金、中毒でネットで問題になったんだよ、表向きは隠しているけど、裏の掲示板で問題になっているんだよ、歯止めのきかない人間は行き着くとこまでいくから」

 友人から聞かされた話に凄いね、でも、自分が言っても無理だと思う、会社から帰ったらずっとゲームばかりしているよと話すと友人はしばし、無言になった後。

 「・・・・・・かもな」

 と呟いたのだ。

 

 母は、そんな父に愛情があるのだろうか、仕方ないと呟くが、それは一種の諦めのようにも感じられて、思ってしまったのだ、嫌だなと。
 そしてだんだんと、その感情は大きくなっていくが、もしかしたら最期まで行き着いてしまったのかもしれない、嫌悪というものに。

 「父さんのこと、好き」
 
 片手の数にも満たない年の頃に訊ねると母は笑っていたが、今は、その曖昧に濁す笑顔さえない、どうかしらと言われてしまっては返す言葉もない。
 子供の頃ならば、だが、今の自分はわかってしまったのだ、ああ、母も自分と同じ気持ちなのだと。

 久しぶりに祖父のいるマンションへ家族そろって遊びに出かけたのは久しぶりだった、来年は受験ということもあり、孫のことを心配したのだろう。
 

 「あれ、珍しいね、ご飯、食べるの、一緒に」

 息子の言葉に父親は不思議そうに、どうしてだと訊ねた、折角だからと祖父は出前の寿司をとってくれたのだ、そして父は当たり前のように食卓に現れたのだ。

 「だって、いつもスマホでゲームに夢中で一人で食べているじゃない、食べながらゲームしてるし」
 
 孫の言葉に祖父は驚いた顔で息子を見るとわずかに顔をしかめた、どういうことだと睨みつけるような表情になった。

 「祐介は、そんなにゲームが好きなのか」

 祖父の言葉に子供は頷きながら、ランクは高くないから課金ばかりしてるよと子供は笑った。

 「お寿司なら冷めないし、あっちで食べたら」

 父親の表情が変わったが息子は気にする事なく言葉を続けた。

 「仕事の鬱憤をゲームで憂さ晴らし、駄目人間なんて言われてるんだよ」

 息子の言葉に父親は初めて声を荒げたが、本当のことだよと平然とした顔で息子は祖父を見た。

 「クラスメイトが教えてくれたんだ、やめさせた方が良いって」
 
 父親は何か言いかけて黙りこんだ、それは視線を感じたからだ、自分の父親が、まるで、異物を見るような目で自分を。

 続けていたってレベルは上がらないだろうって言われているんだよ、ぐさりと胸に突き刺さるような言葉、小さな子供なら決して口にはしないだろう、だが、もうすぐ高校を卒業する歳だ。
 
 「ゲーム依存症どころじゃない、廃人になるよって、でも、そうなったらどうするんだろう、ね」

 息子に笑顔を向けられて父親は黙りこんだ。

 「母さん、別れたほうがいいよ」

 離婚した方がいいよと言われて夫は妻を見たが、だが、自分の方を見る事もなく、妻は言った。

 「そんなことより、食べましょう、お吸い物が、茶碗蒸し、冷めてしまうわ」

 父親は、このとき初めて妻を見た、そんなこと、だと。
 夫に対して、いや、息子の言葉を責める事もしない妻に夫である男は文句を言おうとした、だが、言葉が出てこない。

 「そうだな、食べよう」

 この話は後だと言わんばかりに、自分の父親の言葉に息子と妻が箸を取り、食事を始めた。

 食事をする気分ではない、父親から名前を呼ばれても男は目の前の光景を見ていることしかできない、三人は自分の家族、の筈だった。
 だが、今、自分の目の前で食事をしている彼らはどうだろうか。

 「どうした、祐介」

 父親に名前を呼ばれ、そちらを向くと自分を見る視線に男は逃げるように顔を背けてしまった。
 自分が、これから先どうなるのか、どうなるのか、仕事から帰って気晴らしに始めたゲーム、できることなら逃げてしまいたい、(ゲームの世界に)。
 そんな事を思いながら箸をとり、食べようとした、だが、そう思っただけで、男の手は動かなかった。
 
 これから先の事を考え、震えていたからだ。

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