日々、雑多な日常

オリジナル、二次小説、日々の呟きです。

講師と生徒、色々とあります キンブリー、スカー、オッサン二人とヒロインの受難 3

2021-05-30 15:34:41 | ハガレン

「うーん、粗悪な染料が混じっていたみたいですね、毛根まで染まってますよ、これ根元からばっさりと切った方がいいかもしれませんよ」

 えっ、もう一度、言ってくださいと鏡に映った女は嘘ですよねといいたげな顔で美容師を見た。

 「女性だから丸坊主ってのは、ちょっと駄目ですよね、ウィッグとか一日つけてたら、蒸れて、それこそ伸びるのも遅くなるだろうし」」
 
 どうする、今だって、おばさんって言われるのに婆様になってしまった、髪を染めるなんてするんじゃなかったと思うが、もう遅い。

 


 「木桜のお姉さん、一緒に講習を受けてくれませんか」

 日本人の少女に言われたのは数日前の事だ、スカーという男性の講義を受けたいのだが、怖くて一人では駄目だというのだ。
 肌は黒くて、髪は白くて最初はインド人かと思ったらしい、外国人が苦手だという、だが、それだけではない、顔が怖い上に講習の張り紙を見て友人達と悩んでいたら、その時の会話を聞いていたのだろう。

 「やる気のない奴は講習なんて受けるな、そんな人間に教える義理はない」

 とドスのきいた声で、それで講習を受けたくても行くことができないというのだ。

 「顔もしっかりと見られたし、もし、教室に入って顔を見られたら、あの時の子だって、追い返されるかもしれません」

 半泣きの少女は見るからに子供だ、見ていて気の毒と思ってしまう。
 それにしても、女の子のグループに、もう少し、やんわりとした言い方はできないのだろうか。
 でも、行って本当に追い返されたら、それこそ本人は落ち込むだろう、何かいい方法はないかと考えたとき、変装を思いついた。
 髪を白く染めて、イシュヴァール人みたいに、それで講習を受ければ、同郷の人間のふりをすれば追い返されることはないだろう。
 ただ、染めるといっても一日だけのカラーや染め粉では手間もかかるし大変だ、だが、日本とは違う世界なので試しに自分が染めてみてということになったのだ。

 当日、少女はターバンと帽子を合わせたような、イシュヴァールの間で子供がかぶっている茶色の布をかぶり、眼鏡をかけて、そして隣には成人した白髪の女性、教室に入ると、イシュヴァール人とひそひそと囁きが聞こえてきたが話しかけてくる者はいない、完璧だと思ったのだ。
 ところが、授業開始と同時に入ってきた男は室内を見回すと、つかつかと少女の側にやってきた。

 「おい、帽子を取れ」

 少女は俯いてしまった、だが、その肩がふるふると震えている、まずい、フォローしなくては。

 「すみません、彼女、美容院のカットで失敗して気にしているんです、邪魔なら一番後ろの席に行きますから」

 ほんの数秒、教室内は、しんとなった。

 「そうか」

 ぼそりと呟くような声だ。

 (な、何、この迫力、無言の圧は)

 女は席を立ち、後ろに行こうとして幼女に声をかけた、ところが。

 「おい、動くな、授業を始めるぞ」

 こうして、一日目はようやくクリアした。

 数日が過ぎた、一緒に講習を受ける友達ができるまではしばらく付き合う事にしようと思っていた、だが、その役目は一週間もしないうちに。  
 


 予想外でしたとキンブリーは正直、戸惑っていた、今現在、政府は、軍は何をやっているんだ、管理体制がなっていないと世間から白い目で見られている、形見が狭いという奴だ。
 そんな自体を払拭するために試験の難易度を下げルだけでは駄目だ、国家錬金術師という存在の印象を変えるべく講座を開く事になった、そして自分は講師に選ばれたというわけだ。
 最初は十人にも満たない受講者の数にキンブリーは内心、駄目だ、この企画は長続きしないだろうと思っていた。
 ところが、一週間、十日と日を追ううちに受講者の数が増えてきたのだ。

 

 「キンブリー先生、質問があるんです」

 その日、講義が終わり、室内を出ると数人の女性が自分を追いかけてきた、またかとキンブリーは思った。
 講座が始まった当初、先生は恋人いるんですか、お茶を飲みに行きませんかと声をかけてきた女性が数人いた、内心、辟易していたが、その女性達はいきなり、あたし達、ドボジョなんですと声を張り上げた。

 「ど、ドボジョ、なんです、それ」

 聞き慣れない言葉にキンブリーが面食らったのも無理はない。

 「建設業です、先生は錬金術で爆発を得意とされるんですよね、習得したら工事現場で役に立ちます、だから試験を受けたいんです、ここで講座を受ける以外に、絶対に必要な勉強、習える施設とか、知りませんか」

 「試験、錬金術師の国家試験ですか、あなた方、本気ですか」

 三人の女性達の顔をキンブリーは思わず凝視した、驚きの方が勝っていたのかもしれない。。

 「この講座では初歩的な心構えのようなものを教えているのですが」

 「あたし達、前の国では現場で働いていました、この国で働くなら爆裂を習得したいたいんです」

 「軍に就職するつもりはないんですか
  
 それは、彼にしてみれば、ごく当たり前の質問だった、土木、建設業、女性の職人がいないわけではない、だが、少ないのだ。
 
 「現場で働いていたと言いますが、あなた方、歳は」

 「二十三です、皆、同期です」

 思わず言葉に詰まった、若く見えたからだ。

 「重機に触れないなんて嫌だ」
 
 「施行管理は自分でしたいです、絶対」

 断固として譲れないといわんばかりの力強い言葉にキンブリーは次回の講義までに調べておきますと半ば引きつった笑いを浮かべた。

 「あなた方は、この国の人間ではないみたいですね、シン国でしょうか」

 違いますと三人の若い娘は首を振った。

 
 

 講座では初歩的な事、心構えみたいな事を教えればよいというのがマスタングからの説明だったので、それほど堅苦しい内容にしなくてもいいだろうと思っていた。

 ところがだ、日を追うごとに受講者が増えてきたのだが、試験を受けたいので準備や必要な知識はどこで学べるのかという質問が出てきた。

 「マルコー、おまえさん、もしかして、試験の事、聞かれたんじゃねえか」
 「ああ、だが、そういうことは、まさか」
 「俺もだ、最初はびっくりしたが、しかも、この国の人間じゃねえのに、ちょっと無理があるんじゃねえかと思うんだが」
 
 ノックスは考え込むような表情になった、錬金術の事を知らない人間が一から習得など時間がかかりすぎる、大の大人だって、四、五年、続けて落ちるなんてことも珍しくない。
 軍の敷地内のカフェでノックスとマルコーは顔を見合わせた。
 
 「この国の人間じゃねえから、色々と考えるんだろうな」
 「つまり、こちら側へ来た人間というか」
 「姉ちゃんと同じだ、全く、扉を開いた奴を恨むぜ」
 
 ノックスの言葉に、安易に試験は勧められないとマルコーは呟いた。

 「一度、大佐に話をした方がいいかもしれねぇな」

 仕事が増えるかもしれないが、初心者講座で満足しろというのが無理だとノックスは友人の顔を真顔で見た。

 


 あの人、イシュヴァール人かな。
 髪は白いけど、目は赤くないから生粋って事はないだろ。
 知らないのか、移民とか多いから、混血とかで色々な容姿の人間がいるんだよ。
 彼氏、いるのかな。

 アメストリス人の青年達がひそひそと噂し合う、中には声を駆けようとした者もいたが、躊躇ってしまうのが女性が一人ではないからだ、周りにはいつも、黒髪の少年、少女達がいて熱心に話しているのは講義の内容だ。

 「理解→分解→再構築って、うーん、分かるような、そうでないような」
 「試験を受けて合格しないと分からないってことか、俺、馬鹿なのか」
 「あんた、模試では中ぐらいだったでしょ、勉強好きでしょ、なのに、さっぱりなの」
 「そういう、おまえは、どうなんだよ」
 「あ、あたしは、そのなんとなくというか、分解は分子を細かくしたというか」
 「ダメダメじゃんか、それじゃあ」

 講義が終わると難しい、お手上げといいつつも皆がノートを見せ合っている。

 「ハルさんはわかる」
 
 一番の最年長である彼女に視線が向けられた。
 
 「正直、ううーんと思うところはある、実は医療関係の講義を受けていたから、なんとなく共通するところはあるのかと」
 
 皆の視線が集まった。

 「何、それ、医療って、先生、二人いたよね」
 「他のところは講師が一人が多いけど、つまり、それだけ学ぶ事が多いって事」

 医療の講義を受けた方がいいんじゃない、少女の言葉に少年が、講義が重なっているところもある、よく考えないと真剣な顔になった。
 
 

 
 

 「君たち、アメストリア人、この国の人間じゃないだろう」

 教室を出た時、声をかけられた。
 
 「この講座は初心者ばかりだから物足りないじゃないかな、特に貴方、歳も皆より離れているし、良かったら紹介してあげてもいいんだが」

 女性は不思議そうな顔で紹介ですかと聞き返すと相手の男性を見た、自分もだが声をかけてきた相手も同じくらい、30代ぐらいの歳に見える。

 「ああ、そこなら、ここよりももっといい環境で学ぶ事ができる、国家試験への道も」

 「余計なお世話よ」

 女性のすぐそばにいた少女が叫んだ。

 「国家試験は云々として、あたし達はシロウト同然よ、いきなりそんな話を聞かされても胡散臭いと思ってしまうんだけど」
 
 その言葉に皆が顔や視線を交わした、明らかに、この男も話も怪しくないかといわんばかりだ。

 「そうだよな、それに一人だけに声をかけて、おかしいだろ、何かあるのかよ」

 少年の言葉に、相手はむっとした顔になった。

 「これだから試験の難易度を知らない人間は、君たち、日本という国から来たんだろう、アメストリア人でさえも試験に受かるのは難しいんだ」
 
 「そうだよ、先生だって現役の錬金術師なんだ」
 
 「僕らと一緒なら、先生も快く承諾してくださるよ」

 男性を援護するように側いた若い男性も口添えする、それはちょっと興味があるわねと女が笑った。

 「弟子や生徒をなかなか取らない先生もいるんだ、生粋のアメストリア人だって、でもね、僕らと一緒なら、その施設で」
 


 「おい、おもしれぇ、話をしてるじゃねえか」

 突然、割って入ったのは眼鏡をかけた中年の男性だ。

 「話を聞いてりゃ、試験に受かるのは確実だっていわんばかりだな」

 「詳しくは話せませんが、こういうことは公にしたくないでしょうし」

 「おい、聞いたか、マルコー、そんな施設や国家錬金術師の話、聞いたことあるか」

 男の後ろから現れた小柄な男性、マルコーという名前に男達は一瞬、えっという顔になった。
 もしかして、結晶の二つ名を持つ人じゃないか、本人か、小声でひそひそと話すが、周りには聞こえてる。
 
 「聞いた事はない、だが、そういう施設などが新しくできたというのなら軍に届けがあるはずだ」

 マルコーの言葉に男性達は無言になった。

 「講習を真面目に受けにきたらしいが、ナンパはついでか、度胸は褒めてやる、ところで、おまえ、試験を受けたことがあるみたいな口ぶりだな、詳しい話を聞く必要がありそうだ、おーい、そこの兄さん」

 軍服姿の男性が慌てて駆けつけてきた。

   
 「試験受ける奴の調査とか、してんのか」
 「いえ、そのようなことは」
 「誰でもイイって事はねぇだろ、訳の分からん奴の面倒までみるほどできた人間じゃねえぞ、俺たちは」

 若い軍人に背中をつつかれて去って行く男達の後ろ姿を見送っていると、一人の少女がノックスに頭を下げた。
 
 

 「先生、ありがとうございます」
 
 「知らせてくれてありがとな、ああいう奴は他にもいるだろう、何かあったら、俺たちや、軍の人間に言うんだぞ」

 「かっ、格好いい」

 少女がぽつりと呟いた。
 
 「先生、あたし看護婦になりたいんです、先生のところで助手は必要ですか」

 「あー、間に合ってるぞ、とにかく、ここで最低限の知識を覚えろ、おまえらもだ」

 ノックスはひらひらと手を振った。
  
 



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