とある日の昼、建美神社の巫女姫である朝武芳乃は不機嫌だった。朝の舞を終え、境内の掃除も終わった。今日の予定は何もやることはないというのに…。
「はぁ…何でだろう……将臣さん……」
将臣さんとは、私の婚約者である有地将臣さん。岩に突き刺さった叢雨丸を抜いた…というか折ったために、芳乃の婚約者として選ばれた人。当初、私は彼を突っぱねていた。穂織にかかった呪いを彼には関わらさせたくなかったから…。でも彼は積極的に関わるようになった。呪いを解決させるために芳乃達の行動に参加してくるようになっていき、結果的に解決には彼の存在が欠かせなかった。その頃から彼を見る目はかなり変わった……というか、その頃には恋に落ちていたと思う…。
呪いを解決させる為に厳しい剣の鍛錬を積んでくれた彼。だんだん頼りになっていく彼。そして厳しく突っぱねていたのに、何とか諦めずに私に寄り添おうとする心優しい彼……。会いたい……声が聞きたい……でも……
「将臣さん…好きです…声が聞きたいです……」
鵜茅学院を卒業後、彼は都会の大学に進学した。建美神社に婿入りを選んでくれた彼は、神職を学べる大学に行ってくれている。所謂、遠距離恋愛中である…。時間が合えば、定期的に連絡は取り合っていたが、ここ数日はタイミングが合わない……
「将臣さん、忙しいのかな……」
それが不機嫌な理由だ。スマートフォンを睨みながらそう思う。私はこんなに寂しがり屋だったのか……
「ちょっと怖いけど、アレ試してみようかな……」
私はアドバイスを貰うために、あの子がいる台所へ向かうのであった…
〘次に続く〙