【ムサ美校友会 静岡支部 卒業生訪問企画 その2】
「鳥羽漆芸」主宰 鳥羽俊行様(静岡市)工芸工業デザイン学科 訪問日:2023年7月8日
卒業生訪問企画第2回は、静岡市駿河区で「鳥羽漆芸」を主宰されている鳥羽俊行さんです。
【プロフィール】
・「静岡の地場産業・伝統産業」の一つである「駿河漆器」に属し、現在、静岡漆器工業協同組合代表理事。
・「鳥羽漆芸」の屋号で「金剛石目塗(こんごういしめぬり)」と言う独自の漆器を制作。
・「3代目 鳥羽硬忍(とばこうにん)」として静岡県指定無形文化財の保持者に認定。
・独自に開発した「うるしのグラスシリーズ:うるしのワイングラス」は、静岡県の「グッドデザインしずお か」で県知事賞(大賞)を獲得。
高校生の時、父親から「これから先はデザインが必要だから美大へ行くのはどうだ。」と言われ、東京芸大の漆工科を目指して東京の予備校で浪人するも、併願していた武蔵野美大へ入学。工デでは、木工を専攻しながら、時々芸大へも遊びに行ったそうです。父親からは特に強制されなかったそうですが、既に稼業を継ぐつもりだったため、友達からはその環境を羨ましがられたとか。
【漆とは?】
漆は漆の木から出る樹脂を含んだ樹液で、縄文時代に大陸から渡来した。国内で使う漆の95%は中国産、国内産は岩手や茨城が産地だが、その価格は10倍!文化庁は国宝や重要文化財の修理に国内産を使うよう奨励している。静岡市も「漆の里構想」を掲げ植樹を行っているが、漆を採取できるまでに10年はかかる。漆は120°~140°で硬化するため、鉄には焼き付けるが、木には温度を上げられないため、酵素の働きを使って湿度を上げることで硬化させる方法を採る。漆はかぶれるが、10人中1人はかぶれて全く仕事に向かず、8人は被れるが次第に症状が軽くなり、もう1人は全くかぶれないそうである。
漆の弱点は紫外線と高温であるため、建物の外に塗ると半年足らずで艶が無くなってくる。徳川幕府は威厳を示すため、日光や静岡で傷んだ箇所の修復を重ねながらその美しさを維持した。
【駿河漆器の歴史】
駿河漆器は、元々3代将軍家光が浅間神社を建てる時、全国から集めた職人達が、その後も静岡の温暖な気候を気に入って住み着いたことから始まったとのこと。江戸から明治にかけて幕府や政府の保護を受け清水港から輸出、パリ万博にも出品された。当時、有田焼と駿河漆器が2大外貨獲得商品であったが、漆器は大量生産したくても急ぎ仕事ができないため、工期短縮を理由に下地を飛ばし、木に柿渋を塗るという手抜き仕事が行われた。そのため、乾燥した気候の欧州で木が伸縮し表面の漆塗装が剥離してしまい、駿河漆器は信用を無くしてしまった。その後反省を基に復興したが、輪島塗のような統一した工程は特に無く、事業者それぞれが努力して独自のやり方を継承している。従って「〇〇塗」という種類が色々ある。昭和初期には、雛道具の需要が多く150軒以上に復活したが、現在は組合加盟は6事業所のみとなった。中には後継者のいない一人親方と言う事業所もあるが、これは漆に限らず静岡伝統産業全てに共通の悩みである。
【漆のワイングラス誕生】
作る側だけでなく、買う側、使う側も後継者がいなくなってきた。新な顧客を開拓するため、約20年前の赤ワインブームをきっかけに、何とかガラスと漆を融合できないかと模索。試行錯誤を繰り返した結果、「ガラス+接着剤+金箔+漆」という独自の工法を発見。漆器は素材のイメージとして温かみがあるため、お椀など冬に使うイメージが強いが、ガラスに塗ることで夏も売れる商品ができるのでは?と考えた。考えることは皆同じで全国で同時発生的にガラス製品が出始めた。今では、静岡駅構内や六本木ヒルズ等で様々なグラスを販売。特に外国人観光客の人気商品となっている。
【訪問を終えて】
静岡駅から歩いて約8分の住宅街に、鳥羽漆芸さんのショールームと工房がありました。モダンな店内に入ると、伝統的な漆器とともに様々な種類のグラスが迎えてくれます。どれも美しく思わず手に取って眺めたくなります。日本の伝統工芸でありながら実用的でもあり、これなら外国人観光客に人気なのも頷けます。お会いする前は職人と言う気難しいイメージを勝手に想像していましたが、とても物腰の柔らかな優しい方でした。HPの「漆職人からの話」を見て戴ければ分かりますが、話がとても分かり易く感心させられました。また「大量生産前は、伝統産業はその時代の先端産業だった」「伝統産業はSDGsである」という言葉はとても新鮮でした。これまでは、布や挽物と言った伝統産業同士のコラボが多かったのですが、現代産業であるガラスに続き、白を表現するために陶磁器とのコラボを考えているとのことでした。さらに今後はレーザー加工機や3Dプリンターを使った新商品も開発したいそうです。伝統を受け継ぎながら、常に新しいことへチャレンジする精神を忘れない点に、生き残りの秘訣があるように思いました。既に4代目となる息子さんが一緒に働いてみえるとのこと。これからも鳥羽漆芸さんから生み出される新時代の駿河漆器が楽しみです。
うるしの ワイングラス鳥羽漆芸 (toba-japan.com) (←漆職人からの話を是非ご覧下さい!)
ショールームと鳥羽さん 静岡駅構内駿府楽市にて
金剛石目塗 乾漆花瓶(砂を使った鳥羽漆芸ならではの工法) 店内
店内 塗る前の椀の断面。部位によって厚さが変化。
刷毛断面(女性の直毛を漆で固めて作る。 金箔(本場である金沢から取り寄せる。)
今や刷毛職人は全国で1~2人!。) 西洋と東洋では「金色」のイメージが異なる。
職人さんの作業机(塗り) 刷毛の数々
職人さんの作業机(研ぎ) 工房
静岡炭(研ぐと平滑面ができる。昔は静岡が産地 湿度を保ちながら乾燥させるための室(むろ)。
だったが今は北陸で焼いている。材料は日本油桐。) 庫内に直接水を撒いて湿度調整。
保管中の生漆 漆と砂の混合物(乾漆花瓶の厚みとなる材料)
制作中のワイングラス 金剛石目塗工程見本
初代が昭和28年の式年遷宮の際、三種の神器の一つである「鏡」を入れる箱の塗りを担当。その時の工程見本
が板の裏側に記録されている。
(文責 服部守悦)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます