商品説明
極道の跡取り息子、辰巳一意(たつみかずおき)が地回りの途中で拾ったのは、男前のフランス人、フレデリック。
男に興味はないと言いつつ、フレデリックに言い寄られて思わず手を出したはいいものの…。
R-18 BL小説です。
男に興味はないと言いつつ、フレデリックに言い寄られて思わず手を出したはいいものの…。
R-18 BL小説です。
著者名
ヒトミマサヤ
販売者
M,D,J.
書籍情報
製本サイズ:B6サイズ
ページ数:106
表紙加工:モノクロ
本文カラー:モノクロ
綴じ方:無線綴じ
【R18】ヤクザは嗤って愛を囁く
http://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=242987732
■ちょい読み
夜の繁華街。気乗りしない地回りの帰り道で、辰巳一意たつみかずおきは微かな怒鳴り声を聞いた。普段であれば気にも留めないただのケンカ。だが、なぜかその時は妙な胸騒ぎを感じたのだ。
同行しているダークスーツの男たちに先に車へと戻っているよう言いつけて、辰巳はひとり声のしたほうへと足を向けた。
――確かこっちのほうだったよな…。
普通に歩いていたのなら通り過ぎるような細い路地の前を通った時だった。
「ああん? 利益なんて関係ねーんだよ! メンツ潰されて黙ってられっか」
若い男の声が聞こえて、辰巳は少しだけ来た道を戻ると路地を覗き込んだ。見える背中は三人。その奥に誰がいるのかは暗くて見えなかった。
「おい、そんなとこでなにやってんだお前ら」
路地の入口などまったく気にした様子もない三人組に臆することもなく声をかけると、驚いたようにそいつらが振り返った。その時である。
本当に、それは一瞬のことだった。
「失礼」
そんな言葉が聞こえたと同時に、三人が地面に倒れ込む。なにが起きたのかは、なんとなく想像がついた。
――足払い…にしても、なげぇな脚…。ふつう一気に三人もなぎ倒すか?
思わず、内心で感心する。ケンカなど見慣れているが、さすがにここまで鮮やかな動きをするような人間はなかなかお目にかからない。
すると、倒れ込んだ男たちを軽く飛び越えて路地の奥からひとりの男が姿を現した。
薄暗い路地には不釣り合いな、けぶるような金色の髪。入口に立つ辰巳のすぐ真横にやってきた男は、綺麗なブルーの瞳をしていた。
百八十八センチの長身を誇る辰巳と並んでも見劣りしない大柄な男に驚き、そして先ほどの動きにも、どことなく納得してしまう。
笑いが、こみ上げる。
「はははッ、お前、ずいぶん大胆だなぁ」
「キミが隙を作ってくれたおかげだよ」
そう言って金髪の男は微笑ほほえんだ。それはもう柔らかな笑顔で。
「助けてくれてありがとう。僕はフレデリックFrederic」
「辰巳だ。だが、まだ礼を言うのは早いらしいぜ?」
「だろうね」
フレデリックと名乗った男が出てきた路地では、ようやく男たちが立ち上がるところだった。男たちの年の頃は二十歳か、もしかしたら未成年。二十七の辰巳からすれば、ずいぶんと若いようである。
「見たところちっとばかし元気が有り余った兄ちゃんってところだが、アンタ一体あいつらになにしたんだ?」
「べつに、困っている女性を助けただけだよ。逆恨みって怖いね」
たいして恐怖も感じていないような口ぶりでそう言うと、フレデリックはひとつ肩を竦めて笑った。
「女を助けた?」
「ちょっと、酒場で絡まれていたから声をかけたんだけどね。まあ、結果がこれってことさ」
「そりゃ、災難だったな」
「本当に。見て見ぬふりをする日本人は賢いってことが、よくわかったよ」
皮肉げに笑うフレデリックに、日本人である辰巳は苦笑を漏らすことしか出来なかった。ガシガシと頭を掻く。
「あー…まあ、こんなことになっちゃあ皮肉のひとつも言いたくなるか」
「ふふっ、冗談だよ。日本には、タツミのように優しい人もいるからね」
「ははっ、そりゃどーも」
とりあえず、せっかく暇潰しにきたのだから相手をしてもらおうと、辰巳は険悪そうな若者たちと向き合った。
「あまり、観光客に迷惑はかけるものじゃないぜ? 兄さんがたよ」
「ああ!? 関係ねぇオヤジはすっこんでろよ!」
「っちょ、まずいって…! あの人はヤバイ…!」
三人のうちのひとりが、吠える仲間の袖を引くのが見てとれた。どうやら、辰巳のことを知っているらしい。が、そんな事はどうでもよかった。
「関係ないオヤジねぇ…。残念ながら、そう関係なくもねぇんだよなぁ」
「ああ!?」
「だから…っ! あの人はこの辺の…」
「はいはい、そこまでな。それ以上は言わなくていいんだぜ? こんなところで肩書きひけらかしたところでなんの得にもならねぇからよ」
仲間の袖を引いていた男の手がとまり、サッと顔が青ざめるのが暗い中でもわかった。ついさっきまで追いつめていたはずが、今度は自分たちが袋の鼠になっていたと気づいたところで今さら遅い。
ゆったりとした足取りで路地へと入る辰巳から、少しでも遠ざかろうと男たちが後退あとずさる。
「元気が有り余ってんなら、オッサンと少し遊んでくれや」
「い、ぃやあの…っ! 本当にすいませんでした! コイツには言ってきかせますんで勘弁して下さいっ!」
土下座でもしそうな勢いで頭をさげる男の横で、他の二人が明らかに戸惑っている。
「アンタいったい何者なんだよ?」
「さぁな。ただのオッサンでいいんじゃねぇか?」
ニヤリと、辰巳は口角を歪ませてみせる。人を小馬鹿にしたようなその笑みに、血の気の多そうな小僧が噛みついた。
「誰でも関係ねぇんだよ! 死ねコラッ!!」
正面から突っ込んでくる男を、辰巳は横を向いてあっさりと躱す。躱しぎわに長い脚を少しだけ前に出してやれば、躓つまづいた男がフレデリックの目の前に両手をついた。
フレデリックは優雅な仕草でしゃがみ込むと、目の前に転がってきた男の額を片手で掴んだ。
「逆恨みは、良くないよ?」
「っ…痛い痛い痛い…ッ!!」
「うんー? まだ、そんなに力は入れてないんだけどなぁ…」
殴りはしない。フレデリックは大きな手で蟀谷こめかみをギリギリと締め上げる。やがて男の口から声が聞こえなくなって、ようやくフレデリックは指を離した。
その様子を眺めていた辰巳が、頭をガシガシと掻いて苦笑を漏らす。
「こりゃ、助けなんて要らなかったか…」
「いやいや、あまり暴力は得意じゃないんだ」
男を地面に寝かせて立ち上がったフレデリックが、片目を瞑つむってみせた。
そんな様子に慌てたのは、路地の奥に残された二人である。
「ホント勘弁して下さい。辰巳さんのお知り合いだとは思ってなくてっ」
「あぁん? 知り合いとか知り合いじゃねぇとか、そういうことを言ってんじゃねぇんだよ」
「はいっ! すいません!!」
「嫌がる女に手ぇ出しておいてなにがメンツだこのタコ。挙句にこんなところまで追いかけるたぁ、ずいぶん執念深いじゃねぇかよ」
ん? と、ガラ悪く辰巳がつめ寄れば、二人が同時に突っ込んできた。狭い路地ではあるが、どうにかなるとでも思ったのか。左右に分かれて辰巳の横をすり抜けようとする。だが、そう上手くいくはずもなく…。
辰巳はあっさりとひとりに脚をかけて転がすと、もう一人の襟首をしっかりその手で掴んでいた。
「ヒッ」
「おいおい、逃げんなや。大人しくしてりゃ見逃してやろうと思ったのによ」
「すんませんっ!! 見逃してくだ…」
「嫌だ」
ただ一言、子供のように意地悪く言い放ち、辰巳はあっさりと襟首をひき寄せて背後から男を締め落とした。そのまま、地面に這はい蹲つくばっている男へと手をのばす。
「さて。お前は俺を知ってるみてぇだが、なにモンだ?」
「あぁ…あのっ、榊さかきさんと俺っ、知り合いで…っ」
「んあ? あー…、榊? ……誰だソレ」
榊…榊…と、口の中で呟きながら辰巳は心あたりを探してみるが、該当するような人物には思いあたらなかった。
それもそのはずで、勇誠会系ゆうせいかいけい辰巳組たつみぐみ本家の跡取りである辰巳と、下部組織の人間である榊とはなんの面識もない。知るはずもないのだ。
「まぁいいや、とりあえずお前も大人しく寝とけ」
さすがに、子供相手に本気で殴り合いをするほど辰巳は若くない。あっさりと首筋を圧迫して二人目を転がすと、うしろを振り返った。
「ちょっとソイツ、連れてきてくれねぇか」
「うん?」
「イタズラしよーぜ」
そう言って、辰巳がニカッと笑う。
フレデリックもまた楽しそうに微笑んで、足元の男を辰巳のもとへと運んだのだった。
同行しているダークスーツの男たちに先に車へと戻っているよう言いつけて、辰巳はひとり声のしたほうへと足を向けた。
――確かこっちのほうだったよな…。
普通に歩いていたのなら通り過ぎるような細い路地の前を通った時だった。
「ああん? 利益なんて関係ねーんだよ! メンツ潰されて黙ってられっか」
若い男の声が聞こえて、辰巳は少しだけ来た道を戻ると路地を覗き込んだ。見える背中は三人。その奥に誰がいるのかは暗くて見えなかった。
「おい、そんなとこでなにやってんだお前ら」
路地の入口などまったく気にした様子もない三人組に臆することもなく声をかけると、驚いたようにそいつらが振り返った。その時である。
本当に、それは一瞬のことだった。
「失礼」
そんな言葉が聞こえたと同時に、三人が地面に倒れ込む。なにが起きたのかは、なんとなく想像がついた。
――足払い…にしても、なげぇな脚…。ふつう一気に三人もなぎ倒すか?
思わず、内心で感心する。ケンカなど見慣れているが、さすがにここまで鮮やかな動きをするような人間はなかなかお目にかからない。
すると、倒れ込んだ男たちを軽く飛び越えて路地の奥からひとりの男が姿を現した。
薄暗い路地には不釣り合いな、けぶるような金色の髪。入口に立つ辰巳のすぐ真横にやってきた男は、綺麗なブルーの瞳をしていた。
百八十八センチの長身を誇る辰巳と並んでも見劣りしない大柄な男に驚き、そして先ほどの動きにも、どことなく納得してしまう。
笑いが、こみ上げる。
「はははッ、お前、ずいぶん大胆だなぁ」
「キミが隙を作ってくれたおかげだよ」
そう言って金髪の男は微笑ほほえんだ。それはもう柔らかな笑顔で。
「助けてくれてありがとう。僕はフレデリックFrederic」
「辰巳だ。だが、まだ礼を言うのは早いらしいぜ?」
「だろうね」
フレデリックと名乗った男が出てきた路地では、ようやく男たちが立ち上がるところだった。男たちの年の頃は二十歳か、もしかしたら未成年。二十七の辰巳からすれば、ずいぶんと若いようである。
「見たところちっとばかし元気が有り余った兄ちゃんってところだが、アンタ一体あいつらになにしたんだ?」
「べつに、困っている女性を助けただけだよ。逆恨みって怖いね」
たいして恐怖も感じていないような口ぶりでそう言うと、フレデリックはひとつ肩を竦めて笑った。
「女を助けた?」
「ちょっと、酒場で絡まれていたから声をかけたんだけどね。まあ、結果がこれってことさ」
「そりゃ、災難だったな」
「本当に。見て見ぬふりをする日本人は賢いってことが、よくわかったよ」
皮肉げに笑うフレデリックに、日本人である辰巳は苦笑を漏らすことしか出来なかった。ガシガシと頭を掻く。
「あー…まあ、こんなことになっちゃあ皮肉のひとつも言いたくなるか」
「ふふっ、冗談だよ。日本には、タツミのように優しい人もいるからね」
「ははっ、そりゃどーも」
とりあえず、せっかく暇潰しにきたのだから相手をしてもらおうと、辰巳は険悪そうな若者たちと向き合った。
「あまり、観光客に迷惑はかけるものじゃないぜ? 兄さんがたよ」
「ああ!? 関係ねぇオヤジはすっこんでろよ!」
「っちょ、まずいって…! あの人はヤバイ…!」
三人のうちのひとりが、吠える仲間の袖を引くのが見てとれた。どうやら、辰巳のことを知っているらしい。が、そんな事はどうでもよかった。
「関係ないオヤジねぇ…。残念ながら、そう関係なくもねぇんだよなぁ」
「ああ!?」
「だから…っ! あの人はこの辺の…」
「はいはい、そこまでな。それ以上は言わなくていいんだぜ? こんなところで肩書きひけらかしたところでなんの得にもならねぇからよ」
仲間の袖を引いていた男の手がとまり、サッと顔が青ざめるのが暗い中でもわかった。ついさっきまで追いつめていたはずが、今度は自分たちが袋の鼠になっていたと気づいたところで今さら遅い。
ゆったりとした足取りで路地へと入る辰巳から、少しでも遠ざかろうと男たちが後退あとずさる。
「元気が有り余ってんなら、オッサンと少し遊んでくれや」
「い、ぃやあの…っ! 本当にすいませんでした! コイツには言ってきかせますんで勘弁して下さいっ!」
土下座でもしそうな勢いで頭をさげる男の横で、他の二人が明らかに戸惑っている。
「アンタいったい何者なんだよ?」
「さぁな。ただのオッサンでいいんじゃねぇか?」
ニヤリと、辰巳は口角を歪ませてみせる。人を小馬鹿にしたようなその笑みに、血の気の多そうな小僧が噛みついた。
「誰でも関係ねぇんだよ! 死ねコラッ!!」
正面から突っ込んでくる男を、辰巳は横を向いてあっさりと躱す。躱しぎわに長い脚を少しだけ前に出してやれば、躓つまづいた男がフレデリックの目の前に両手をついた。
フレデリックは優雅な仕草でしゃがみ込むと、目の前に転がってきた男の額を片手で掴んだ。
「逆恨みは、良くないよ?」
「っ…痛い痛い痛い…ッ!!」
「うんー? まだ、そんなに力は入れてないんだけどなぁ…」
殴りはしない。フレデリックは大きな手で蟀谷こめかみをギリギリと締め上げる。やがて男の口から声が聞こえなくなって、ようやくフレデリックは指を離した。
その様子を眺めていた辰巳が、頭をガシガシと掻いて苦笑を漏らす。
「こりゃ、助けなんて要らなかったか…」
「いやいや、あまり暴力は得意じゃないんだ」
男を地面に寝かせて立ち上がったフレデリックが、片目を瞑つむってみせた。
そんな様子に慌てたのは、路地の奥に残された二人である。
「ホント勘弁して下さい。辰巳さんのお知り合いだとは思ってなくてっ」
「あぁん? 知り合いとか知り合いじゃねぇとか、そういうことを言ってんじゃねぇんだよ」
「はいっ! すいません!!」
「嫌がる女に手ぇ出しておいてなにがメンツだこのタコ。挙句にこんなところまで追いかけるたぁ、ずいぶん執念深いじゃねぇかよ」
ん? と、ガラ悪く辰巳がつめ寄れば、二人が同時に突っ込んできた。狭い路地ではあるが、どうにかなるとでも思ったのか。左右に分かれて辰巳の横をすり抜けようとする。だが、そう上手くいくはずもなく…。
辰巳はあっさりとひとりに脚をかけて転がすと、もう一人の襟首をしっかりその手で掴んでいた。
「ヒッ」
「おいおい、逃げんなや。大人しくしてりゃ見逃してやろうと思ったのによ」
「すんませんっ!! 見逃してくだ…」
「嫌だ」
ただ一言、子供のように意地悪く言い放ち、辰巳はあっさりと襟首をひき寄せて背後から男を締め落とした。そのまま、地面に這はい蹲つくばっている男へと手をのばす。
「さて。お前は俺を知ってるみてぇだが、なにモンだ?」
「あぁ…あのっ、榊さかきさんと俺っ、知り合いで…っ」
「んあ? あー…、榊? ……誰だソレ」
榊…榊…と、口の中で呟きながら辰巳は心あたりを探してみるが、該当するような人物には思いあたらなかった。
それもそのはずで、勇誠会系ゆうせいかいけい辰巳組たつみぐみ本家の跡取りである辰巳と、下部組織の人間である榊とはなんの面識もない。知るはずもないのだ。
「まぁいいや、とりあえずお前も大人しく寝とけ」
さすがに、子供相手に本気で殴り合いをするほど辰巳は若くない。あっさりと首筋を圧迫して二人目を転がすと、うしろを振り返った。
「ちょっとソイツ、連れてきてくれねぇか」
「うん?」
「イタズラしよーぜ」
そう言って、辰巳がニカッと笑う。
フレデリックもまた楽しそうに微笑んで、足元の男を辰巳のもとへと運んだのだった。
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