「社会福祉士」の独り言Ⅱ-日々の雑感

福祉に関わる事柄の他、日々感じたことを書き綴っていきます。

刑部芳則(おさかべ・よしのり)著 『古関裕而―流行作曲家と激動の昭和』 中公新書 2019.11.25

2020-11-30 13:49:04 | 読書

著者は、1977年生、日大商学部准教授、専攻は日本近現代史。古関裕而の曲との出会いは、中学3年生(1995年)の時に聞いた『日本の軍歌』の一曲目にあった「露営の歌」。これに衝撃を受け昭和10年代の流行歌を、蓄音機とSPレコードで聞くほどにのめり込む。それがきっかけで、昭和史の研究に進むことになった。今回、NHKの朝ドラの風俗・考証をされている。帯に、「昭和史の光と影」とあるが、時代に求められるまま、作曲を続けた古関の生涯を、詳細な資料に基づいて(最後40頁)著している。

1.福島在住の頃。古関は、音楽学校で教育を受けてはいない。買い与えられた玩具のピアノ、父の蓄音機で聴いた楽曲、音楽教育に熱心だった小学校教師との出会い、それらが、音楽への才能を開かせる。福島商業学校、川俣銀行行員時代。ハーモニカの演奏活動の傍ら、作曲を独学。仙台に通い、金須嘉之進(きすよしのしん)より和音法を学んでいる。楽曲を送り続けていた山田耕作の紹介でコロンビアの専属作曲家になるため上京。昭和恐慌後の不安な世相の中で、同じ専属作曲家の古賀政男が、数々のヒット作を生み出す反面、古関は、うまく出せず、地方小唄、ご当地ソング等でかろうじて会社との契約をつなぎ留められていた。しかし、その間も、西洋音楽は学び続け、帝国音楽学校菅原明朗(すがわらめいろう)に教えを受けている。

2.日中戦争と作曲家としての飛躍満州への旅行の帰路、新聞で懸賞募集で入選の「進軍の歌」の歌詞を偶然読み、車中で作曲。これが、レコード会社の思惑と合致し「露営の歌」(勝ってくるぞと勇ましく~)として大ヒットする。これをきっかけに、陸軍省が制作した愛馬思想普及を目的とした映画『暁に祈る』(ああ、あの顔で、あの声で~)の主題歌等、政府、軍部からの曲の依頼が増え、それに伴い、中国戦線へ慰問団に参加する。

3.アジア・太平洋戦争と戦時歌謡開戦と共に、JOAKは、ニュース歌謡として、大本営の戦果の発表ごとに、作詞・作曲をし、放送に流す番組を制作。JOAKによるシンガポール、ビルマへの慰問団にも参加。18年、映画『決戦の大空へ』の主題歌「若鷲の歌」(若い血潮の予科練の~)の作曲。文壇の火野葦平と共に、インパール作戦の特別報道班に参加。19年ラングーン、サイゴンと回る。終戦時、福島市の疎開先から、JOAKの仕事に戻る際、新橋駅で終戦を知るが、作詞家の西條八十が、戦争犯罪人名簿に載せられたと知り、断罪を恐れ、しばらく福島で過ごす。

4.戦後の長崎の鐘以降の作曲活動。昭和20年11月東京に戻り、翌年、3月からラジオ歌謡の作曲に取り組んでおり、その後、劇作家菊田一夫との二人三脚で、戦後、映画、舞台と数々の曲を作曲していく。ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』、『君の名は』。舞台音楽では、井上靖『敦煌』『蒼き狼』、林芙美子『放浪記』。映画音楽『モスラ』。阪神、巨人軍の応援歌。オリンピックマーチ。ラジオ番組の『ひるのいこい』は、現在も続く。                                                             5.努力する天才作曲家古関は、音楽学校へは、進学出来なかったものの、西洋音楽を目指し学び続けたが、この素養が、流行歌の作曲家と相入れないものとなった。しかし、戦争によって、それが戦時歌謡とし受け入れられ、さらに、敗戦後もたらされた芸術文化の自由が、彼の天賦の才能をさらに広げていった。戦争中の作曲活動が、国民の戦意高揚につながった。そのことについては、古関は、あまり発言していない。しかし、「長崎の鐘」にあるように、鎮魂を込めた曲を「鐘」をキーワードに作曲をしている。これに関係し、福島時代、実家の斜め向かいに、福島新町教会があり、その鐘の音を毎日聞いていただろうという古関の友人の言葉を紹介している。文中の次のエピソードも興味深い。音楽を監督した日本初の長編アニメーション「桃太郎海の神兵」を、空襲跡で、手塚治虫が見て感動した。東宝撮影所に、進駐軍部隊が見学した時、フィリッピン決戦の歌をお愛想で流したが、「いざ来い、ニミッツ、マッカーサー、出てくりゃ地獄へ坂落とし」の所で、日本語がわからない将校は、歓迎の曲だと勘違いし大喝采を送った。最後の病床にあってリムスキー・コルサコフの交響曲「シェエラザード」、スメタナのモルダウを聞き続けていたという。青年時代に、教えを受けた金須は、ロシア正教徒で、帝政ロシア時代に、ペテルブルグに留学、コルサコフより教えを受けていた。東京でも、合唱団の有志と一緒に菅原よりコルサコフのテキストで和声法を学んでいる。この直向きさは、正に「努力する天才」だったと理解した。生涯5000曲に渡る作曲をしているが、記憶に残るメロディーが、古関裕而の曲だったのか改めて知ることになった。

 


カミュ著『ペスト』 新潮文庫 1969.10

2020-04-23 02:41:01 | 読書
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、増刷され100万部となったと言う。しかし、なかなか購入出来ず、秋田でようやく1冊見つけることが出来た。北アフリカのオランという港湾都市にペストが発生、都市封鎖される。感染拡大で、死亡増える中、ペストと闘う医師リユーと彼に関わる一群の人たちを描く。こどもの死、惨禍の下で闇商売で利益を得る者、志願し発症者の保護や手当に立ち働く人々。内容は、ペストとの闘いだが、カミュは、対独レジスタンスに参加経験があったが、闇取引の連絡や強制収容所的な所の描写など、そこでの活動での実体験が反映されているように見えた。都市封鎖が解かれた日。花火が打ち上げられ、街は歓喜に包まれる。その光景は、先の武漢の光景とつながった。「ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもない・・・」と最後の文章にあったが、将来を暗示するものと受け止められた。カミュのテーマは、「不条理」の思想と言われているが、オランの人々を襲ったペストの惨禍。この「不条理」の状況にどう向き合うのか。今、ここで起きていることと重なってくると思えた。







遠藤 誉著 『卡子 チャーズ 出口なき大地』 読売新聞社 1984.7

2020-02-03 18:48:55 | 読書
新型コロナウィルスに関わり武漢、都市封鎖というニュースを聞いて、20年近く、積読だった『卡子 チャーズ』を思い出し、読み始めた。著者は、遠藤誉氏。うかつながら、中国に関わるテーマの放送番組で、よく見かける先生だとは知らなかった。日本敗戦後に起きた中国内戦。旧満州新京(現長春)になされた都市封鎖。当時、それを8歳に経験した著者が記憶を辿り書かれたもの。卡子とは、封鎖都市からの、脱出路に設けられた検問の意。 その場面は山崎豊子著『大地の子』でもあったが、現実の悲惨さは、この小説では描ききれない内容だった。新型ウィルス感染拡大に歯止めがかからないが、昨夜の民放情報番組に出られ、今回の事態発生に対しての中国指導部の対処の在り方を、厳しく批判されていた。

金成隆一著『ルポ トランプ王国2-ラストベルト再訪』 岩波新書 2019.9

2020-01-26 07:45:00 | 読書
著者は、2015年~2016年、大統領選挙中、都市部から離れた地域で、ダイナー(食堂)等で声がけし、聞き取り取材をしたルポを、『トランプ王国-もう一つのアメリカを行く』著しているが、これは、その続編。1を合わせると取材人数は1005人に及ぶ。よそ者の日本人の取材を受けてくれるかという不安が著者にあったが、実際は、自分の話を聞いてくれという人が多数で、さらには、他の人を紹介するという出来事につながっていく。トランプ当選は、民主党が従来に勝ち得ていた五大湖周辺のペンシルベニア等以下5州で逆転したため。このエリアは、かつて製鉄、製造業が栄え、ブルーカラー労働者が、分厚い中間層を作ってきた。だが、それらの産業は、衰退し、ラストベルト(錆びた)と言われているが、それがサブタイトルとなっている。
注意を引いたルポ内容をまとめてみた。
「家を売るな。仕事を取り戻す。」という演説が、自分たちの置かれている状況に応えてくれると感じた。環境政策が石炭、原油、天然ガス等エネルギー開発推進へ方向転換され仕事が増えているという実感がある。ヒラリーは、トランプ支持者を「デプロラブル」(嘆かわしい、みじめな人々)と言い、怒りを買い、逆に「プライドデプロラブル」という合言葉を生み、結束を生んだ。社会保障政策は、移民を利するばかりという誤解が流布されている。
トランプ支持は続いているが、ミシガン州、ペンシルべニア州の中間層が住む郊外では、大統領の言動、振る舞いへの批判が聞かれ、実際、中間選挙では、民主党が下院議席を取り、最多の女性議員が生まれる。共和党候補は、トランプを隠して選挙戦をした。このように王国のゆらぎも起きている。
全米で2000万人(有権者の8%)いる帰還兵についても、オハイオ州で、帰還兵専用の病院通院送迎バスに同乗し、取材。世界への関与疲れ、世界の警察官よりも自分たちの生活の立て直しが優先。深刻な心的外傷、健康被害の訴えを聞かされる。
バイブルベルトと呼ばれるアラバマ州へも向かう。トランプというより、共和党支持の地盤。キリスト教の価値観や習慣が弱まったことへの不満が強い。教会が町のコミュニティの中心であり、小さな政府を支持する根拠となっている、人助けは教会がするべきだという倫理。実際に食料、衣類など日用品配給活動を見学する。 ロードトリップを通じての聞き取りの他、次の3人へのインタビューもしている。
トマス・フランク(ジャーナリスト)…共和党の究極目的は、極めてシンプルであり、減税と規制緩和、富裕層の支持者の期待に応える。しかし、選挙の争点では、国境の危機、移民問題、雇用問題等人々の不満に訴え、労働者層を取り込んでいく手法をとる。一方、クリントン以降、民主党は、労働者の党」であることをやめ、「見識があり、高等教育を受け、裕福な人々の政党」を目指した。オバマであっても、ウォール街の金融機関、独占企業など法的に踏み込むことをしなかった。そのような中、民主的な社会主義を訴えたサンダースに支持が広がったと言える。
アーリー・ホックシールド(社会学者78歳 『壁の向こうの住人達』 岩波書店)…保守の人々への聞き取りをし、彼らの感情を言葉を翻訳し出版。5年間の聞き取りで、心の奥にある次のようなディープストーリーを作成した。これを相手に伝えると、正にそうだと共感をされるという。アメリカンドリーム。その意味合いは、それなりの給与を得、他人から尊敬され、慕われ、自分を誇りに思えるということ。その山頂に続く行列はなかなか動かない。原因はグローバル化(企業の海外移転)なのか、オートメーション化(雇用の喪失)なのかわからない。勤勉に働き、ルールを守ってきた。誰かをうらやんできたわけでもない自分は頂を目指す資格はある。疲れ果てていた時、前を見ると、(積極的差別是正で、)黒人、女性が、さらに、移民、難民、公務員。海洋汚染で油で汚れたペリカンがヨタヨタと割り込んできたのが見えた。そして、前にいる高学歴の誰かが来て、お前は人種差別主義者だ。レッド・ネックだと言って笑い始めた。
バーバラ・エーレンライク(ジャーナリスト 76歳 『ニッケルアンドダイムド―アメリカ下流社会の現実』 東洋経済新報社)…民主党の課題は、広がった経済格差に対処していく。労働者層の声を聞いていくことだ。ジャーナリズムにお金が回らない(トマスも、ローカル紙は経営難で死にかかり、ジャーナリズムがなくなりつつあると述べていた)。不平等と貧困について当事者が書き、プロの私たちが手直し世に出すというプロジェクトを始めた。
最後に、ニューヨークに戻り、社会主義を支持する人たちを取材。アメリカでは社会主義は馴染まないと言われてきたが、バーニー・サンダース、オカシオコルテス民主的な社会主義を掲げ、最低賃金、国民皆保険、住宅政策などを訴えた民主党左派の政治家の支持が広がり始めている。
声を率直に読むことで、日本のメディアではわからないアメリカのもう一つの面を知ることが出来た。今年は、アメリカ大統領選だが、民放のある番組で、出演者の多数がトランプ再選と答えていたが、どうなのだろう。

最上敏樹著 『未来の余白から』 婦人之友社 2018.12

2019-12-19 14:59:23 | 読書
著者自身が「多読家かつ速読家」と書かれている通り、多くの作品が取り上げられている。それらは、10代に読んだスタインベックから、現代につながるアメリカ、ヨーロッパ、ベトナム、日本。さらには、音楽、映画もありということで、リストアップが難しいほどだ。特に、映画は、ヨーロッパの作品がほとんどで、映画の評論に目を向けていないと、実際に見る機会がないものばかりだった。自分にとって、重なるのは、怒りの蒲萄、サン・デグジュペリ、灯台守、井上ひさし、夢千代日記(1981年)くらい。文面全体を通じて、静寂、沈黙、という言葉が伝わってくるが「平和と人権を否定する非寛容さ、自国・自民族主義、弱者への無神経さ、騒々しい社会、静寂を保つことから生まれる快い緊張感が失われた。沈黙と静寂を取り戻し、社会と文化のあるべき姿に思いを向ける」(P207) …この文章に集約されていると思う。
 読み終えて、新たに学ばされたのは、沖縄の「非武の文化」のこと。これは、大田昌秀元沖縄県知事が紹介した(P40)とあるが、改めて、大田氏の講演※を確かめてみると、氏が、アメリカで発掘した軍事裁判の記録。これは、石垣島に不時着し捕虜となった米兵3名の処刑(断首)に関わるもので、直接関与しなかった現地招集の7名(未成年3名)が死刑宣告をされた事件。その減刑のために、郷土史家の仲原善忠氏が裁判官に嘆願書を送った。そこに述べられた尚真王による武器携帯禁止のことの他に、仲原氏は、沖縄の万葉集と称される「おもろそうし」、「遺老説伝」の著名な研究者であったが、その千首以上の歌を資料にし、そこには殺すという言葉がない、こうした意識はないというのが「非武の文化」だった。それに裁判官らが動かされ死刑を免れたというもの。沖縄の古くからの平和思想が、抽象的な概念ではなく、7名の命を救うほど大きなインパクトがあったのだ。
また、氏が、ぜひ読んでみて欲しいとあった「そこにいるのかい」(P153)で紹介されているアンソニー・ドーア著『全ての見えない光』(2016年刊)。氏は、最初に邦訳を読み、さらに、原本の米語、作品の舞台となる仏語、独語版で読み込むほど引き込まれたということだった。現代アメリカの小説は、ほとんど読まないしドーアも全く知らなかっただが、紹介文に自分も魅かれて結局、読むことになったのだけれども、勧められた通りの内容だった。※大田昌秀・佐藤優著『沖縄の未来』 芙蓉書房出版2010.1