あたしは映画館で映画を観るのが好き。
内容はラブコメでもミステリでもアクションでも、基本何でも良くて。
誰と観に行くのかが大事。
ジョウはあたしが誘うと、興味があるジャンルなら付き合ってくれる。ポップコーンにコーラを買い込んで、いい座席を確保。
少し明かりが暗くなって、CMが入り始めたあたりから、あたしはジョウに身を寄せる。周りを気にする振りをして、声のトーンをひそひそ落としていくの。
そうすると、ジョウも「ん?」と耳を傾けてくれる。肩と肩を触れ合わせて、ジョウの耳に「あの女優さん、最近よく観るね」とか、「ねえそっちの塩味のポップコーン少しちょうだい」とか、結構どうでもいいことを囁く。
映画館なら、ジョウは人目を気にしないで済むからかあたしがくっついても照れない。無理に引き剥がそうともしない。
それが、嬉しい。
あたしはもうちょっと詰めてもいいかしら、と彼の腕にもたれてみる。
「どうした?」
優しい声でジョウが訊く。
「んー、ジョウのこのセーター肌触りいいね、あったかい」
カシミアかしら。彼にしては珍しい、渋い色味のオレンジのVネックセーターを今日は着ている。
ジョウってば、素肌にサラッとそれを羽織ってめちゃくちゃかっこいい。この世で一番Vネックセーターが似合う男だと思うの。うん。
鍛え上げた身体と浅黒い肌にぴったり似合ってる。喉仏から鎖骨のラインが襟元から覗くのが堪らなくセクシー。
すりすり上腕に頬擦りしながらさりげなく腕を絡める。
ジョウは振り解かない。スクリーンの光に照らされて、彼の顔が見える。
しょうがないな、甘えて。というように目を細めてあたしを見下ろしている。
「もっと食うか?」
ほらとポップコーンのカップを傾けてくれる。
「うん、あーん」
口に直にちょうだい。えい、とばかり甘えてしまえ。このチャンスに!
ジョウは「おいおい、甘え過ぎだろ」とさすがに身を引きかけるけど、あたしは腕に腕を絡めてくっついたまま。
根負けしてジョウは左手でコーンをいくつか摘み、あたしの口に運んでくれた。
唇を割って、含ませてくれる。
「美味しい〜」
「アルフィンは映画を観る時、特に甘えただな」
ジョウは笑った。
「バレてる?」
もぐもぐする口を押さえながら言う。
「モロにな」
「だってここだとジョウ、あたしがくっついても嫌がらないでしょう?」
そこで、ジョウはまじまじとあたしを見た。
「なぁに?」
「いや……。いつも嫌がってるように見えるか」
「え、違うの?」
聞き返すと、ジョウはんーと唸った。そして、
「嫌なわけじゃないんだ。こういうところ見られると照れ臭くて、変に構えてしまうのが嫌なだけで」
むしろ嬉しいよ、とジョウはくっつくあたしの手を取って握る。あたしの左手を彼の右手で。
うわぁ〜。
ど、どきんと心臓が跳ねる。
あたしから仕掛けたのに、どうして立場が逆転してるの?いつの間にか、ドギマギしてるのはあたしの方。
あたしはオープニングの音楽が始まったスクリーンを見る振りをして、ジョウのことを見つめていた。
ジョウは結局、その日はあたしに肩を貸したまま、そして手を繋いだまま2時間映画を見通した。
こんなにイチャイチャしてくれたの、初めて。
もう言葉にならないくらい幸せ。
あんまり幸せすぎて、お陰でストーリーは全然あたしの頭に残らなかったというオチ。
映画館って、やっぱり最高!
end
GODZILLA -1.0観てきました!面白かった〜
こういうデートもあったに違いない。
アルフィンがクラッシャーになったから、
こんなデートもできるのよ。
よかったね、ジョウ&アルフィン。
映画館で予告を見ていてふと思いついたお話です。
暗いところなら、人目につかないところなら、きっとジョウも甘えさせてくれるのではと思いました。
続編もできました。よろしければどうぞ。笑