ジョウとアルフィンが婚約した。
いつ結婚っていうか、入籍するのかは詳しく決めていないみたいだ。
だから、ミネルバの中は今まで通り変わらない。兄貴がリーダーで、アルフィンが航宙士で。俺らが機関士で、おまけだけどタロスがパイロット。
メンツも役割分担も変わらない。
ひとつ、変わった事と言えばーー
「おはよう」
「おーす」
朝、俺らたちはそろって朝食を取るしきたり。
ガンビーノが居た頃からそれは変わらない。
シェフはアルフィンに交替したけど。メンバー4人で毎朝ダイニングテーブルを囲む。
大概は、タロスが一番早起きだ。年寄りだから朝が強い。起きてきて、ドンゴが撮り溜めていたニュース映像に目を通す。
次に起きてくるのがアルフィン。タロスと会話をしながら朝ご飯を作る。
そして俺ら。俺らが起きるころには大体支度は調ってる。焼きたてのパンのいい香りが俺らは何より好きだ。
ストリートキッズだった頃には考えられない。手作りの、こんなあったかい朝食にありつけるなんて。ありがたいことだ。
最後に寝ぼけまなこで起きてくるのがジョウ。ジョウは朝が弱い。タロスと正反対。
寝ても寝ても寝足りないみたいだ。時間が許せばずっと寝ていられると前に言っていたくらい。
起き抜けの兄貴はもっさりして正直格好良くない。普段の、ばりばり仕事モードの時を知っているだけに、ギャップにびっくりする。
今朝もジョウが最終ライン。
「おはよ」
「あ、おはよう」
目が開けきらない寝ぼけジョウを、アルフィンがひまわりみたいな笑顔で迎える。
アルフィンにとってはもっさい兄貴も、愛する男に上書きされまったく気にならないみたいだ。
ジョウはシンクの前で野菜を切っているアルフィンに歩み寄って、「ん」と軽くキスをする。
おはようのモーニングキス。至極自然な様子でアルフィンはそれを受ける。
婚約してから一番変わったところはこれ。
俺らやタロスの目を気にせず、二人は挨拶代わりにキスを交わすようになった。
おはようから、おやすみまで。
「……」
「……」
俺らが目顔でタロスを窺うと、タロスは、「んだよ」とうるさそうに俺らを見返した。
「目の毒か? それともうらやましいか。いい加減早く慣れろ、青少年」
「うっせえ。もう慣れたよ」
俺らはテーブルに肘をつく。あごを手のひらに乗っけた。
前はこんな風に俺らたちの前で堂々といちゃつく二人じゃなかった。もっとこう、恥じらいというか、遠慮があった。
だけど、婚約をきっかけにジョウがセーブしなくなった。アルフィンをチームのメンバーというより恋人として扱うようになった。アルフィンもそれをうれしそうに受け入れた。もちろんオフのときだけだけど。
だから、毎朝目のやり場に困るって訳。
俺らの表情を掬い上げるようにアルフィンが見た。そして、目玉焼きを崩さずきれいに皿に盛り付けて、俺らたちの前に並べながら言った。
「なあに? 面白くないの、リッキーってば。あたしとジョウがラブラブなのが」
「誰もそんなこと言ってないだろ。幸せそうでなによりですよ」
「そ、ありがと」
花がほころぶように笑う。
アルフィンは婚約してからますますきれいになったと評判。
アルフィンとコンタクト取りたくて、ミネルバの映像回線を使って通信が入ることが増えたくらい。
「独り身の俺らやタロスがちょっぴり拗ねたくなっただけだい。気にしないでよ」
「……あらあ」
アルフィンはそこで、しようがないわね、といった風な微笑を浮かべた。
そして急にかがみ込んでタロスの右頬にキスを刻んだ。
「!」
びっくりして、タブレットをタロスは取り落とした。目を剥き、青黒い顔を紅潮させて固まった。
そしてテーブルを回り込んで、アルフィンは俺らのところに来た。いすに座る俺らに屈んでちゅ、とキスをくれる。
おでこに。
俺らはあっけに取られて反応できない。
口をぽかんと開けてアルフィンを見た。そんな俺らにアルフィンはウインクをして、
「あんたたちにも幸せのお裾分けよ。今日がいい日だといいわね」
そう言ってジョウの向かいに座った。
ジョウは何事もなかったかのようにコーヒーを淹れて飲んでいる。
「び、びっくりしたあ! いきなりなんなんだよ、驚くだろ」
俺はなんだかジョウに引け目を感じてどぎまぎした。甲高い声が出る。
「あ、あたしになんか、そ、そんなことしなくても。もったいねえ」
タロスはえらく恐縮した。
でかい図体を縮める。
「何言ってんの。家族でしょ、あたしたち」
アルフィンが隣に座るタロスの肩を思い切りはたいた。
びたん、と派手な音が上がる。
「ぶっ」
「家族へのキスに、理由なんていらないの。大事な人だからするのよ」
ね? と正面のジョウに笑いかける。
ジョウは黙って微笑んだ。淹れたてのコーヒーをすする。
家族。
アルフィンの口から出た言葉に、俺らは、――柄にもなく感動していた。
胸を衝かれた。
「家族……俺らと、タロスが?」
兄貴たちの、家族? 思わず聞き返す。
「当たり前でしょ。あたしたちは家族よ。タロスがおとーさんで、あんたが弟でー」
アルフィンが金髪を揺らして歌うように言う。
「お、おとうさ?」
タロスの狼狽ぶりがひどい。目を白黒させて言語をなさない。
「血はつながってないけどもう家族じゃない。親愛のキスならいくらでもするわ。おはようのときも、おやすみのときも。あんたたちが寂しくないようにね」
「……遠慮すらあ。調子に乗ると、兄貴にどつかれるもん」
俺らはひどく幸福な気分でアルフィンの焼いた目玉焼きをフォークでつついた。
とろりと黄色い涙が皿に広がる。
「俺は別に構わないけど」
ジョウは余裕の顔。至極穏やかに俺らたちのやりとりを見守っていた。
そして、俺らだけにこっそり耳打ち。マグカップ片手に。
「……リッキー。なんで俺がアルフィンを選んだかわかるか?」
タロスをおとーさん呼ばわりで今もからかうアルフィンを見やる。
「こういうところだよ」
愛情深いまなざし。ジョウの目の先にはいつもアルフィンがいる。
「……うん。わかる」
俺らはあごを引いた。
わかるよ、兄貴。
天涯孤独だと思ってずっと生きてきた俺ら。心のどこかで今のチームを家族に見立ててた。
家族だって思いたがってたのは、俺らのほう。
なあ、兄貴、聞いた? アルフィン……。さっき、俺らのこと「弟」だって。
「家族」だってさ。
「リッキー? ぼんやりしてないで食べちゃって。片付かないじゃない」
「はあい」
俺らは何かを噛みしめるように目玉焼きを食べた。
塩をかけすぎた。少ししょっぱいや。
END
ジョウはアルフィンのこういうところが好きで、敬意を抱いてるんだと思うのです。
⇒pixiv安達 薫
いつ結婚っていうか、入籍するのかは詳しく決めていないみたいだ。
だから、ミネルバの中は今まで通り変わらない。兄貴がリーダーで、アルフィンが航宙士で。俺らが機関士で、おまけだけどタロスがパイロット。
メンツも役割分担も変わらない。
ひとつ、変わった事と言えばーー
「おはよう」
「おーす」
朝、俺らたちはそろって朝食を取るしきたり。
ガンビーノが居た頃からそれは変わらない。
シェフはアルフィンに交替したけど。メンバー4人で毎朝ダイニングテーブルを囲む。
大概は、タロスが一番早起きだ。年寄りだから朝が強い。起きてきて、ドンゴが撮り溜めていたニュース映像に目を通す。
次に起きてくるのがアルフィン。タロスと会話をしながら朝ご飯を作る。
そして俺ら。俺らが起きるころには大体支度は調ってる。焼きたてのパンのいい香りが俺らは何より好きだ。
ストリートキッズだった頃には考えられない。手作りの、こんなあったかい朝食にありつけるなんて。ありがたいことだ。
最後に寝ぼけまなこで起きてくるのがジョウ。ジョウは朝が弱い。タロスと正反対。
寝ても寝ても寝足りないみたいだ。時間が許せばずっと寝ていられると前に言っていたくらい。
起き抜けの兄貴はもっさりして正直格好良くない。普段の、ばりばり仕事モードの時を知っているだけに、ギャップにびっくりする。
今朝もジョウが最終ライン。
「おはよ」
「あ、おはよう」
目が開けきらない寝ぼけジョウを、アルフィンがひまわりみたいな笑顔で迎える。
アルフィンにとってはもっさい兄貴も、愛する男に上書きされまったく気にならないみたいだ。
ジョウはシンクの前で野菜を切っているアルフィンに歩み寄って、「ん」と軽くキスをする。
おはようのモーニングキス。至極自然な様子でアルフィンはそれを受ける。
婚約してから一番変わったところはこれ。
俺らやタロスの目を気にせず、二人は挨拶代わりにキスを交わすようになった。
おはようから、おやすみまで。
「……」
「……」
俺らが目顔でタロスを窺うと、タロスは、「んだよ」とうるさそうに俺らを見返した。
「目の毒か? それともうらやましいか。いい加減早く慣れろ、青少年」
「うっせえ。もう慣れたよ」
俺らはテーブルに肘をつく。あごを手のひらに乗っけた。
前はこんな風に俺らたちの前で堂々といちゃつく二人じゃなかった。もっとこう、恥じらいというか、遠慮があった。
だけど、婚約をきっかけにジョウがセーブしなくなった。アルフィンをチームのメンバーというより恋人として扱うようになった。アルフィンもそれをうれしそうに受け入れた。もちろんオフのときだけだけど。
だから、毎朝目のやり場に困るって訳。
俺らの表情を掬い上げるようにアルフィンが見た。そして、目玉焼きを崩さずきれいに皿に盛り付けて、俺らたちの前に並べながら言った。
「なあに? 面白くないの、リッキーってば。あたしとジョウがラブラブなのが」
「誰もそんなこと言ってないだろ。幸せそうでなによりですよ」
「そ、ありがと」
花がほころぶように笑う。
アルフィンは婚約してからますますきれいになったと評判。
アルフィンとコンタクト取りたくて、ミネルバの映像回線を使って通信が入ることが増えたくらい。
「独り身の俺らやタロスがちょっぴり拗ねたくなっただけだい。気にしないでよ」
「……あらあ」
アルフィンはそこで、しようがないわね、といった風な微笑を浮かべた。
そして急にかがみ込んでタロスの右頬にキスを刻んだ。
「!」
びっくりして、タブレットをタロスは取り落とした。目を剥き、青黒い顔を紅潮させて固まった。
そしてテーブルを回り込んで、アルフィンは俺らのところに来た。いすに座る俺らに屈んでちゅ、とキスをくれる。
おでこに。
俺らはあっけに取られて反応できない。
口をぽかんと開けてアルフィンを見た。そんな俺らにアルフィンはウインクをして、
「あんたたちにも幸せのお裾分けよ。今日がいい日だといいわね」
そう言ってジョウの向かいに座った。
ジョウは何事もなかったかのようにコーヒーを淹れて飲んでいる。
「び、びっくりしたあ! いきなりなんなんだよ、驚くだろ」
俺はなんだかジョウに引け目を感じてどぎまぎした。甲高い声が出る。
「あ、あたしになんか、そ、そんなことしなくても。もったいねえ」
タロスはえらく恐縮した。
でかい図体を縮める。
「何言ってんの。家族でしょ、あたしたち」
アルフィンが隣に座るタロスの肩を思い切りはたいた。
びたん、と派手な音が上がる。
「ぶっ」
「家族へのキスに、理由なんていらないの。大事な人だからするのよ」
ね? と正面のジョウに笑いかける。
ジョウは黙って微笑んだ。淹れたてのコーヒーをすする。
家族。
アルフィンの口から出た言葉に、俺らは、――柄にもなく感動していた。
胸を衝かれた。
「家族……俺らと、タロスが?」
兄貴たちの、家族? 思わず聞き返す。
「当たり前でしょ。あたしたちは家族よ。タロスがおとーさんで、あんたが弟でー」
アルフィンが金髪を揺らして歌うように言う。
「お、おとうさ?」
タロスの狼狽ぶりがひどい。目を白黒させて言語をなさない。
「血はつながってないけどもう家族じゃない。親愛のキスならいくらでもするわ。おはようのときも、おやすみのときも。あんたたちが寂しくないようにね」
「……遠慮すらあ。調子に乗ると、兄貴にどつかれるもん」
俺らはひどく幸福な気分でアルフィンの焼いた目玉焼きをフォークでつついた。
とろりと黄色い涙が皿に広がる。
「俺は別に構わないけど」
ジョウは余裕の顔。至極穏やかに俺らたちのやりとりを見守っていた。
そして、俺らだけにこっそり耳打ち。マグカップ片手に。
「……リッキー。なんで俺がアルフィンを選んだかわかるか?」
タロスをおとーさん呼ばわりで今もからかうアルフィンを見やる。
「こういうところだよ」
愛情深いまなざし。ジョウの目の先にはいつもアルフィンがいる。
「……うん。わかる」
俺らはあごを引いた。
わかるよ、兄貴。
天涯孤独だと思ってずっと生きてきた俺ら。心のどこかで今のチームを家族に見立ててた。
家族だって思いたがってたのは、俺らのほう。
なあ、兄貴、聞いた? アルフィン……。さっき、俺らのこと「弟」だって。
「家族」だってさ。
「リッキー? ぼんやりしてないで食べちゃって。片付かないじゃない」
「はあい」
俺らは何かを噛みしめるように目玉焼きを食べた。
塩をかけすぎた。少ししょっぱいや。
END
ジョウはアルフィンのこういうところが好きで、敬意を抱いてるんだと思うのです。
⇒pixiv安達 薫
とうとう婚約ですかっ❗️おめでとうっ🎉
家族設定に萌え🌱萌え🌱です😁
リッキー1人称好きです~💕
コミカライズ針井さんのリッキーが、私的にかわいくてかわいくて😁
ジョウにとって、タロス&ガンビーノは、
師匠であり、親戚のおじさん?かもね。
だって、実の父より長く過ごし、
仕事上の相談もし、命令もする。
結婚式は、どうするんでしょう。
派手にやるなら、ピザン国王夫妻の私的訪問で、
アラミスで挙式だな。
両国には、LIVE中継で←ジョウは、絶対嫌がるが..
そうそう、19歳ってこんな感じ。ジョウのつっぱらかっちゃってコワルスキーに食ってかかるところとか。アルフィンのおきゃんな感じとか。10代のそのもので目から鱗です。リッキー可愛いですよねv
安彦タッチも勿論よいんですけど、もう巨匠の手にかかると彼ら、10代には見えないんですよね。。。。
>結婚式
ジョウは、国を挙げての華燭の典を断固拒否。ミネルバの中でアルフィンにだけウエディングドレスを着せて、自分はクラジャケで人前挙式ですな。立会人はメンバーとバードかな。ピザンの国王&王妃のためにライブ中継のみ配信許可。これが私の想像するふたりの結婚式。笑 本気で。