東京医科歯科大学名誉教授・の藤田紘一郎先生。腸内細菌の著書も数多く執筆する藤田先生は55歳でハゲ始めて大変に落ち込んでいたそうだが、なんと76歳で髪を取り戻した。
そのキーワードは“腸内細菌”。なぜ腸が元気だと髪の毛が取り戻せるのか?
■糖質制限食が毛髪を救った!
藤田先生が薄毛の足音を最初に聞いたのは55歳の頃。地肌が透けて見えるようになったのだ。普通に考えればそれから20年経てば、すっかりハゲでもおかしくないが、藤田先生は現在も毛髪量をキープしている。
著書『55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由』(青萌堂)によると、55歳から10年間は頭皮マッサージや発毛剤、育毛剤など「ハゲに効く」と巷(ちまた)で言われているものはひと通り試したという。医者であり腸のエキスパートといえども、この時点ではハゲを心配するいちオヤジ…。
当時は大学教授として忙しく生活は不規則、ランチはこってりラーメン・半ライス・餃子、間食は大好きなアイスやチョコ。ついには、重度の糖尿病を患(わずら)うまでになってしまった。ところが、このことが腸内細菌と毛髪の関係に気づくキッカケにもなったという。
「糖尿病から脱しよう、健康になろうと当初はカロリー制限ばかり考えて食事をしていました。主食も摂るように言われていたので、白米もラーメンも餃子もパンも食べていましたが、実はこれが体にも髪にも良くなかったんです。“糖尿病患者には薄毛が多い”という話もありますが…」
医学的知識に基づいて、糖尿病を患ってからしばらくして糖質制限食が治療に良いと気づいた藤田先生。
「糖質制限を始めてわずか2週間で糖尿病にまつわる様々な数値が落ち着き、徐々に体重は減り、さらに髪の毛に元気が戻ってきたのです。加齢による薄毛に、糖質制限食は一定の効果がありました」
なぜなのか? 読み解くキーワードは「活性酸素」だ。
活性酸素は“体のサビ”と表現され、ストレスや激しい運動、喫煙や紫外線を浴びる、食生活の乱れなどにより増えると言われている。適量を超えた活性酸素は、強すぎる酸化力により細胞にダメージを与えて老化を促すのだが…。
では腸と糖質と活性酸素――この3者は毛髪とどんな関係があるのか?■腸内細菌が大敵・活性酸素を撃退する!
「腸は糖質が嫌いです。腸は免疫や毛髪に重要なビタミン類、ホルモンを生成しますが、スムーズに動かすためには腸粘膜に多い“ミトコンドリアエンジン”を働かせなくてはいけません。ところが、糖質である炭水化物を多く摂取すると、“解糖エンジン”が活発になり、その働きを弱めてしまいます」
解糖エンジンとは、ごはんやパンなどの炭水化物を糖に変えて、精子や皮膚などの細胞のエネルギーを作り瞬発力を生む。40代までのメインエンジンである。
ミトコンドリアエンジンとは腸粘膜に多く存在し、酸素をエネルギー源にして腸を主に動かすエンジン。そして、50代になると徐々に人間のメインエンジンに切り替わる。
糖を多く摂取すると解糖エンジンが活発になり、ミトコンドリアエンジンがうまく働かなくなる。取り込んだ酸素は使われないまま活性酸素に変化してしまい、体を酸化させ老化を早まらせてしまう。
さらに、老化を進ませると言われるAGE(終末糖化産物。糖質が体内のタンパク質と結びついて変化する)も、過剰な糖質の摂取が原因だ。糖質の多い食事をしているとAGEと活性酸素のダブルパンチで薄毛を促進、マイナス成長しかもたらさない。
「健康な毛髪を作る頭皮や毛球は、人体の組織の中でも特に老化しやすい繊細な組織で、活性酸素のダメージを受けやすいのです」
かくして、毛髪を直撃! そんなこわ~い人体のマイナス成長を唯一、食い止めるのが腸力の強化だという。
「最近の研究によって、腸内細菌には活性酸素を消す強力な抗酸化力を持っていることがわかってきました。腸内細菌の働きを活性化させて抗酸化力を高めれば、髪の大敵である活性酸素を消去することができます」
そのため、食べ物から必要な栄養素を腸内細菌が取り出し、毛髪を作るのに必要なビタミン類の合成をしやすい環境を整える必要がある。では、そこでどんな生活をすればいいのか?
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腸が元気だと毛髪も元気になる!?
老化を早め、毛髪が寂しくなる原因となる「活性酸素」。あらゆるアンチエイジングのシーンで敵視されているが、これまでは増やさないようにする対処療法的なものしかなかった。
ところが、腸内細菌の働きにより活性酸素を弱めることができるという。その方法を腸内細菌のエキスパートであり東京医科歯科大学名誉教授・医学博士の藤田紘一郎先生に聞いた。
■野菜の力で腸内環境を整えよ!
前回の『76歳で毛髪がよみがえった! 医学博士が提唱する糖質制限の“腸力強化”とは』では、糖質制限によって腸を主に動かすミトコンドリアエンジンの働きをスムーズにし、酸素を多く使わせて老化の原因となる「活性酸素」を増やさないことを藤田先生から教えてもらった。
そのためには、白米、うどん、パスタなどの精製した炭水化物を避けるなど、今、巷(ちまた)にあふれている糖質制限食を参考にすればいい。
では、最新の研究結果によってわかった「活性酸素を消すほどの強力な抗酸化力を、腸内細菌が十分に発揮できるように活性化する」には、どうしたらいいのか?
「腸内細菌に“エサ”を与えることが必要です。それは、モロヘイヤ、ブロッコリー、にんにく、玉ねぎなどのフィトケミカルの野菜をしっかり食べることですね」
フィトケミカルとは、野菜が紫外線により発生する活性酸素から自らを守る自己防衛機能として、体内で生産しているもの。抗酸化作用・抗がん作用・免疫力の強化などの効用があり、人間にも有効とされている。
「腸内細菌は海藻類や豆類、発酵食品も大好物です。中でも発酵食品は腸内細菌そのものと言えますね」
腸内細菌は外から仲間の菌などが入ってくると、働きを活性化させる。また、生きてなくても菌が腸に届くだけで効果があるのだ。
発酵食品の中でも納豆の菌は、腸内にいる細胞のエサになり“日和見(ひよりみ)菌”を増やす。この菌は善玉菌優位の時は善玉菌に味方するため、腸内環境を健康に保ちやすくする。
そして、食事面で何より気をつけることは、腹八分目を心がけることだという。
■ミネラルウォーターにも注目せよ!
生活面で気をつけることはあるのだろうか?
「規則正しい生活です。腸は人が寝ている間に、ビタミンの合成や免疫の生成など人間が生きるために必要なことを全て行ないます。ただ、今は仕事によって働く時間も様々なので、もし昼夜逆転生活でも一定であれば構いません。また、寝る前の食事も避けましょう」
さらに、ミトコンドリアエンジンは温かい場所を好むため、スムーズに活動してもらうには腸を冷やさないことが大事だという。
「それとケイ素(シリカ)を摂ることです。実は糖質制限の次に大事です。なぜなら、ケイ素はコラーゲンをつなぐ物質のため。コラーゲンが弱ければ、頭皮が弱くなり毛が抜けやすくなってしまいますからね」
昔はケイ素が豊富なアワやヒエを食事として摂っていたが、現在は食事から摂るのが難しい。
「シリカ入りの水を飲めばいいんです。水のほうが体に取り込みやすいですよ」
海外セレブなど美容感度が高い女性に今、人気のシリカ水は髪の毛にもよかったのだ!
糖質制限とフィトケミカル、発酵食品で腸内細菌にエサを与えて環境を整え、シリカ水を飲む。これが抜け毛を防ぎ、毛髪を甦らせるのだ。