コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性 なぜ 副反応? 患者のせいにするため

 

コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性|壁の無い談話室

 コロナ禍が3年目に突入し、今なお31都道府県が「まん延防止等重点措置」の適用下にある。この間、さまざまな事件、現...

日刊ゲンダイDIGITAL

 

 

【東大理Ⅲ信仰」の危うさが引き起こした悲劇

 コロナ禍が3年目に突入し、今なお31都道府県が「まん延防止等重点措置」の適用下にある。この間、さまざまな事件、現象があり、あらためて現代社会が抱える諸問題が浮き彫りになった。賢者のおふたりにコロナ禍を振り返りながら、日本社会の本質について語り合っていただいた。


 ──昨年の秋以降、「京王線刺傷事件」「大阪クリニック放火殺人事件」「東大前刺傷事件」と、他人を巻き込んで自殺を図ろうとする事件が相次ぎました。

名越 事件後、いろんな人に「先生、取材が殺到して、大変でしょ」と言われるんですよ。ところが、最近は一切ないんですね。かつては異常な事件があると、精神科医に話を聞くということが当たり前でしたが、それがなくなってきている。なんか、地続き感というか、日常的な感じになってきていますね。

養老 東大前の事件でいうと「東大理Ⅲ信仰」みたいなものは、僕が現役(教授)のころから非常に気になっていましてね。要するに成績がある程度良い子は理Ⅲに行けるということで、そういう学生が入ってくるようになったんです。医者に適性があるとかないとか、関係ないんですよ。成績が良いからと。僕なんか生き物が好きだから医学部に行っているんだけれども、そうじゃない。で、どうなるかというと、物理とか化学とかは非常にできる。でも医学は物理や化学と違ってややこしくて、とくに解剖なんかは暗記ものばっかりですから、気の利いた学生はあまり評価しない。そんな子が増えちゃったから、「こんなところでやってけねえよ」と思うようになりましたね。

 ──最近はテレビ番組でも東大生をブランド化している風潮があります。

養老 なぜか知らないけど、理Ⅲは特別なものだってことになっている。今度の事件に関していえば、(東大を目指す受験勉強の中で)高2ぐらいからちょっとおかしくなってくるというのは、ごく普通にあるわけです。中学、高校でおとなしい優等生というのは一番気をつけなきゃいけない。ただ、僕らのころだと入学してから問題を起こしていました。今は入学する前になってしまっている。

名越 知識の集積を競う方法は、AIが社会を動かそうとしている現代において、もうかなり、むなしさが漂ってきている気がします。そもそも考えるとは何かとか、人生において意味のある発想の持ち方とは何か、ということを考えることで人間として自立していく、という過程が必要な気がします。

コロナ禍で多用される「科学的根拠」の信憑性

 ──コロナ禍では専門家の方々、あるいは政治家の口から「科学的根拠」という言葉が頻繁に聞かれました。それを真に受ける人も少なくないと思いますが。

名越 コロナは怖い病気ということを論説している人もいれば、恐れる必要はないということを論説している人もいます。本当に同じ病気の解説なのかと思うぐらい内容が違うんですよ。普通だったら6割ぐらいはかぶるだろうに、もう本当にバラバラで、それ自体、十分興味深い現象が起きています。

養老 いま言われた「科学的根拠」というものが入ってきたら絶対に信用しない(笑い)。

名越 僕もね、いろいろ読んでたんですけど、だんだんと自分の頭が割れそうになってきて。これはもう、まとめたり単純化して統一しようとすると誤るなと思うしかないわけです。

 ──メディアの報じ方はいかがでしょうか。

名越 テレビに出ていて思ったのは、それまで一貫性がないことがメディアであって、だからこそ日に日に変わる情報の中で中立でいられるわけですし、我々も冷静でいられたのですが、コロナに関してはまったく反対で、一貫しなければならないという強迫性を感じます。たとえば、副反応という言葉。最初のころは「副作用」と言う人もいましたが、協定も結ばれていないのに1週間ぐらいですべてのテレビが「副反応」と呼びだしたという印象です。

養老 副作用だと薬についてということになる。副反応だと患者のせいだということになるからです。体が勝手に反応したんだ、薬のせいじゃないんだということです。これは裏がありますね。

名越 明らかに操作的ですね。

 ──科学的真実はどこにあるのか、どうやったら見極められるのでしょうか。

養老 分野によると思いますね。何もかも一緒にして科学的とやろうとするから、できない。「おまえ、科学的に生きているか」と聞かれたら、どう答えますか。私が若いときに一番悩んだ問題です。基礎科学をやっていたから生き方も科学的でなければならない。ところが現実は全然違う原理で生きているわけです。それを上手に割り切ることができる人、あるいは二重基準で生きられればいいのでしょうが、僕は不器用でそこはできない。そのストレスの中でほとんど暮らしてきたようなもので、そのストレスがいろんな本を生み出したのです。

 ◇  ◇  ◇ 

「科学的根拠」をふりかざす日本社会の欺瞞と脆弱性が次々と露呈してきている。(つづく)

▽養老孟司(ようろう・たけし) 1937年、神奈川県生まれ。医学者、解剖学者。東京大学医学部卒。95年に同大学医学部教授を退官し名誉教授に。450万部を超える国民的ベストセラーになった「バカの壁」、サントリー学芸賞を受賞した「からだの見方」など著書多数。

▽名越康文(なこし・やすふみ) 1960年、奈良県生まれ。精神科医。近畿大学医学部卒業。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。臨床に携わる一方でテレビ・ラジオのコメンテーター、雑誌連載などさまざまな分野で活躍している。

 

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