積荷のEVが発火…!? 「自動車運搬船火災事故」を機にドイツで噴出した“EV危険かもしれない論”の危険性

知らなかったら 読まねば

 

積荷のEVが発火…!? 「自動車運搬船火災事故」を機にドイツで噴出した“EV危険かもしれない論”の危険性(川口 マーン 惠美) @gendai_biz

 

 

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積荷のEVが発火…!? 「自動車運搬船火災事故」を機にドイツで噴出した“EV危険かもしれない論”の危険性 - ライブドアニュース

積荷のEVが勝手に燃え出した?

7月26日未明、北海のオランダ沖で、3783台の車を積んだ自動車運搬船「フリーマントル・ハイウェイ」が火災を起こした。その中には498台のEVが含まれており、その1台から発火したと言われている。

最初、船員が消火を試みたが成功せず、避難の途中に1人が死亡。残りの22人は30mの高さから海に飛び込んで救助された。

EVのバッテリーは何もしなくても突然、発火することがあるという。また、一旦火が点くと消火が難しく、しかも、非常に高温になる。26日の夜のニュースで公開された熱感知カメラで撮影した映像では、火災はすでに船全体に広がっていた。

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ガソリン車の方は、燃料は乗船と下船のためだけなので、せいぜい5リットル程度しか入っていないというが、いずれにせよ、3783台の車が次々と燃えていたことは確かで、全長200mにもなる船の全体からは、白い煙がものすごい勢いで噴き出していた。火勢がだんだん鎮まったのは、1週間以上、燃え続けた後だった。

この貨物船は北ドイツのブレーマーハーフェンの港を出発し、エジプトに向かう予定だったが(最終目的地はシンガポール)、150kmほど西進し、オランダ領海を航海中に事故が起こった。

なぜか当初、この事件は日本ではほとんどニュースにならなかったが、実はこの自動車専用の貨物船は、愛媛県の正栄汽船が船主で、チャーターは川崎汽船、船籍はパナマだという。

もし、積荷のEVが勝手に燃え出したのだとすると、ひどい災難だが、果たしてそれを証明することはできるのだろうか? 保険は効くのか。あるいは、火災元を証明できなかったら? 疑問が満載だ。

消火活動は遅々として進まず

しかし、ドイツ人、オランダ人にとって何よりの大問題は、火災が起こった場所が、ユネスコの世界遺産に指定されている重要な自然保護地域、ワッデン海からわずか25kmほどしか離れていなかったことだ。

ワッデン海というのは、北海のデンマーク、ドイツ、オランダを跨ぐ500kmにもわたる海岸沿いの細長い海域を指す。沖合には、延々と鎖のように群島が並び、それらと陸地に挟まれた海域がワッデン海で、干潮の時には水が引き、その一部は裸足でペタペタと歩ける。

つまり、日本でいうなら潮干狩りのような浜辺の風景が、見渡す限り延々と続くピュアな自然環境だ。そして、ここには、湿地帯ならではの豊かな動植物、鳥類、そして魚類が数多く生息している。

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この貨物船火災のニュースは、その後1週間、必ず夜のニュースに登場した。ドイツでは普通、殺人や強盗程度ではニュースにもならないから、メインの時間帯に1週間も報道されたというのは、まさしく重大ニュースだ。

ニュースを見ているドイツ人の心を満たしていたのは、沈没という懸念だった。高温になり過ぎれば、船自体が壊れて沈没する可能性がある。港を出て間もない事故なので、船の燃料もほぼ満タンだ(160万リットルの重油)。これが流出したなら、環境汚染の被害はいかばかりかという想像は、まさに悪夢だった。

あまり水を掛けすぎると、船体が重くなって沈没の危険が高まるため、消火活動も遅々として進まなかった。また、燃える貨物船を比較的安全な港まで曳航しようという試みも、一度めは強風で実行できず、要するに手のつけようがなかった。

国民がようやく一息ついたのは、8月3日、2艘の特殊船が曳航に成功してからだ。満身創痍といった様相の貨物船は、時速5.5kmで緩々と移動し、損壊することもなく目的地であるエームスハーフェン港に着いた。

レムケ環境相が「ワッデン海が壊滅的な環境破壊に見舞われる可能性はなくなった」と、安堵の会見をした。

EVの火災は消火できない

ところが、この頃、ドイツではすごい勢いで、EVのバッテリーの危険性という話題が噴出し始めた。

8月1日、まだ船が燃えていた最中、早くも国連の下部組織であるIMO(世界海運機関)が、「同様の事故が最近多発しているため、EVの船舶輸送に関する規制強化を検討している」と発表したことも、その不安に輪をかけた。

さらに、ノルウェーの海運業者が「今後EVは運ばない」と宣言し、「火災が起きることが怖いのではなく、EVの火災は消火できないことが怖いから」と説明した。

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その頃には、今までEVについての否定的な事柄はほとんど書かなかった主要メディアが、ぼちぼちとEVの危険の可能性を書き始めた。ただ、現実はというと、EUでは2035年から、EV以外の車の販売が禁止される予定だ。

EVシフトは、気候温暖化防止の一環として、“惑星の救済”のために避けられないとされており、つまり、メルセデスやBMWやポルシェを産んだドイツでも、ガソリン車は土俵際まで追い詰められ、また、お家芸であったディーゼルも、2度と市場に復活できないほど叩きのめされていたのだ。

実はEVシフトというのは、国民の意思も自動車メーカーの意思も汲んでいない強権的な政策だ。EVは補助金が付いても高価であり、ガソリン車でさえ新車では買えない学生や収入の少ない人にとっては、車を持つなというに等しい。

車は贅沢品ではなく、多くのドイツ人にとっては、日本の地方都市の場合と同じく生活必需品だ。一家に2台も珍しくない。そのせいもあり、ドイツでは中古車市場が非常に発達しており、一生、新車など買わない人も少なくない。

しかし、EVの中古車市場はまだ無いに等しく、そもそも古いバッテリーを積んだEVの中古車に、どの程度の価値があるのかもわからなかった。

そもそもEVは安全なのか?

一方、ドイツの自動車メーカーにとっても、EVブームは好ましくない。EVの世界市場では、中国が一人勝ちする仕組みがすでに出来上がっており、ドイツの敗北は透けて見えていた。これ以上進めると、さらに墓穴を掘る危険が高かった。

需要の有無や消費者の要求を完全に無視して、生産すべき物を政治決定するという現在のEUの動きは、自由市場経済ではなく計画経済だ。しかも、ここまで燃費の良くなっているガソリン車や、CO2削減に役立つディーゼル車を一斉に葬るという決定は、それらの技術の先鋒であるドイツが払う犠牲が一番大きくなることを意味した。

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当然、多くの国民や自動車メーカーは、EVシフトに心から納得している訳ではなかった。それも、本当にCO2が減り、地球環境が改善されるならまだしも、現在、ドイツのCO2排出量は世界全体の2%だ。これが仮に0%になっても、ドイツ人の自己満足以外、何かが決定的に変わるとは思えなかった。

しかし、それに対する反対意見など絶対に言い出せない雰囲気が、ドイツではしっかりと出来上がっていたのだ。

ところが、今回の火災でその空気が一気に変わり始めた。EVがクリーンか否かというこれまでの議論では、EVに賛成しない人々が 常に“モラル”を問われたが、危険か否かの議論では、今度は彼らが問う番だ。

「そもそもEVは安全なのか?」「船の中で起こったことは、マンションの地下の駐車場でも起こり得るのではないか?」と。

そして、この動きは自動車メーカーにとっても、場合によってはガソリン車(あるいは合成燃料車)復活という捲土重来のきっかけになるかもしれなかった。

EUが「35年目標」を見直す可能性

こうなると、極端なCO2削減政策でヨーロッパ経済を弱体化させてきたEU自体が、この「35年目標」を見直す可能性さえ無きにしも非ずだ。

来年の6月は、5年に一度のEU議会の総選挙だ。その時、現行の過激な気候保護政策をそのまま進めれば、それを行き過ぎだと主張してきた右派の勢力が強まる可能性がある。つまり、それを懸念した欧州委員会が勢力保持のため、この“EV危険かもしれない論”を利用することも大いに考えられるのである。

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ヨーロッパの政治家は、いくらモラルを説いていても、利益がなくなると、何か他の理屈を捻り出し、掌を返すように方向転換をすることがよくある。だからこそ、EUの加盟国でもない日本が、闇雲に追随するのは危険極まりないと、私は常々主張してきた。

日本も現在、35年でガソリン車の新車販売が中止されるということだが、今や、EUがそれを骨抜きにしてくる可能性も計算に入れるべきだろう。

EVシフトは、日本はヨーロッパに言われる前から、消費者の要求と企業の方針に基づいて、ヨーロッパよりもずっと上手に、静かに、スマートに進めてきた。それによって、モラルなど持ち出すことなく、ハイブリッドという、燃費も利便も良い車が、すでに日本でたくさん安全走行しているのである。

そのやり方を、自信を持って真っ直ぐに進めていくのが、日本の経済のためにも、ひいては国民の幸せのためにも一番良いことではないかと、現在ドイツで起こっているEV騒動を見ながら思う。

 

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