教壇に立つ性犯罪者/高山正之(ジャーナリスト)

2010年2月26日 VOICE
教壇に立つ性犯罪者/高山正之(ジャーナリスト)

 ちょっと前のロサンゼルスでいちばん評判のいい、そして注目された社会奉仕活動に「ビッグ・ブラザー」というのがあった。
 
 米国は結婚したら離婚するのが当たり前みたいな国で、ロサンゼルスでは離婚率が50%を超えていた。ただ離婚したからといって、エリザベス・テーラーみたいにすぐ再婚の口があるわけもなし。元妻は子供と一緒に元夫からの養育費で食っていくというかたちになる。
 
 ところが母親と暮らす男の子は、裁縫とか編み物は得意になっても、男の子らしくギャング遊びをしたり模型飛行機を飛ばしたりは下手だった。
 
 それで元夫たちが集まり、ひと夏、男の子を山のキャンプに連れて行き、崖を登り、渓流を筏で下って、逞しさを身につけさせる、という活動がこの「ビッグ・ブラザー」だった。
 
 その基金を集めるのにハリウッドも協力し、トム・クルーズなど若手スターとの1日デート権を競るオークションも行なわれた。
 
 西海岸の空のようにどこまでも明るく善意に満ちた社会奉仕活動に見えたが、あるとき、この活動に幼児性愛者が紛れこんで、山奥のキャンプのなかで男の子を何人も餌食にしていたことが発覚した。
 
 被害を受けた男の子は一生そのトラウマを引きずる。世間は驚愕した。念のため警察当局が捜査してみたら、ほかにもそういう性癖をもった者が何人も見つかり、被害が思ったより根深いことが判明した。
 
 あれほどもてはやされた「ビッグ・ブラザー」は、この事件を機に消滅した。その名をいまロサンゼルスで語る者は一人もいない。
 
 性犯罪者がその辺に蠢いているという恐怖は、子をもつ親を震え上がらせた。
 
 同じころ、ニュージャージー州ハミルトン郊外の住宅街で、7歳の女の子メーガンが自宅からそう遠くない草むらのなかで強姦され殺される事件が起きた。警察はすぐにメーガンの家の真ん前に住む若者を逮捕した。彼は幼女強姦の犯罪を重ね、刑務所から出所してここに引っ越してきたばかりだった。
 
 市民は「わが子を守るために狂犬がどこにいるのか知る権利がある」と訴え、性犯罪の前歴がある者は氏名と顔写真と住所をインターネットで公表することを義務付けるメーガン法が議会で制定された。
 
 それがいかに徹底しているか。グーグルでどこかの州の街の名を入れ「registered sex offenders」と打ち込んでみればいい。性犯罪者が顔写真付きでずらずら出てくる。ある種、壮観だ。
 
 その点、日本は『朝日新聞』のおかげで犯罪者の人権はじつに手厚く保護されている。 
 じつは学校の先生も性犯罪の経歴はノーチェックだったことが昨年4月、横浜市立中学で起きた女子生徒盗撮事件で明らかになった。この教師は性犯罪で有罪になりながら教員採用試験を受け、犯罪歴はなしと申告してまんまと教員になって、盗撮を含むいかがわしい犯行に及んでいた。
 
 先日の『産経新聞』は、大田区立の小学校臨時教諭も性犯罪の執行猶予中だったと伝えた。
 
 東京都教育委員会では、性犯罪者が簡単に教員になれないよう過去、本人の申告だけだった犯歴の有無について、今後は「本籍地の自治体が発行する公的な証明書の添付」を求めていく方針という。
 
 この「本籍地の自治体が発行する公文書」は初耳の人も多いだろうが、正確にいうと戸籍に付随する「犯罪人名簿」のことで、ここには交通違反の罰金刑から性犯罪を含む懲役刑、禁固刑の記録が綴られる。ただし罰金刑は5年を、その他の刑は刑期満了から10年を経過すると記録は抹消される。
 
 ちなみに自分が犯罪者かどうかは戸籍を取りに行ったとき、職員が一般とは別の戸棚に取りに行くからすぐ分かる。
 
 別の戸棚に入っている者は教員になるな。

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