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習近平も恐れ震える…米の経済制裁から始まる「中国崩壊」のシナリオ
制裁は家族にも及ぶ
長谷川 幸洋(ジャーナリスト)
習近平も恐れ震える…米の経済制裁から始まる「中国崩壊」のシナリオ(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
共産党幹部への「個人制裁」
米国のドナルド・トランプ政権が中国と香港の高官に対する制裁を連発している。空母2隻を動員した南シナ海での軍事演習や中国総領事館の閉鎖などと比べると、一見、地味で小粒な対抗手段のように見えるが、中国共産党には、実はこれが一番効くかもしれない。
まず、最近の動きを確認しよう。 第1弾は米国務省と財務省が7月9日、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を理由に実施した制裁だった(https://www.state.gov/the-united-states-imposes-sanctions-and-visa-restrictions-in-response-to-the-ongoing-human-rights-violations-and-abuses-in-xinjiang/、https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1055)。
グローバル・マグニツキー人権説明責任法に基づいて、中国共産党中央政治局委員であり、同自治区の党委員会書記でもある陳全国氏のほか、同自治区の現・元公安部ら計4人を対象に、米国内の資産を凍結し、米国企業との取引を禁止した。
続いて、7月31日には新疆ウイグル自治区の準軍事組織である新疆生産建設公団と、その幹部である彭家瑞氏と元幹部の孫金竜氏の2人を制裁した(https://www.state.gov/on-sanctioning-human-rights-abusers-in-xinjiang-china/、https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1073)。トランプ政権は、公団がイスラム系少数民族の大量強制収容に直接関与した、とみている。
さらに、香港に国家安全維持法が施行されると8月7日、米財務省は香港の自治と自由、民主主義に対する弾圧を理由に、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や香港警察トップら11人を制裁した(https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1088)。
トランプ大統領は7月中旬、中国との関係を極端に悪化させたくないという理由で一時、中国高官に対する制裁を見送る方向に傾いた、と報じられた。だが、以上を見れば、制裁続行は明らかだ。むしろ、今後も制裁は追加されていく可能性が高い。
こうした制裁は本人と中国に、どれほど打撃になるのか。
クレジットカードが使えない香港高官
米財務省には、制裁実務を監督する外国資産管理局(OFAC)という部局がある。制裁対象に指定された個人は「特別指定人物(SDN)」と呼ばれ、OFACの公開リストに掲げられる(https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20200807.aspx? src=ilaw)。
リストを見れば、各国政府はもちろん世界中の企業や個人、団体は、だれが米政府の制裁対象になっているか、ひと目で分かる仕組みだ。企業や個人は、自分が制裁されないように、SDNになった人物とは取引を中止せざるをえない。実際に、クレジットカード会社は林鄭月娥長官のカードを使用停止にした。
その点は、彼女自身が8月18日の記者会見で「個人的なことで多少の不便はあるが、気にするものではまったくない。たとえば、クレジットカードの利用が妨げられる」と認めた。この発言を受けて、米ブルームバーグはVISAとマスターカードにコメントを求めたが、返事はなかったという(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-18/hong-kong-s-leader-has-credit-card-trouble-after-u-s-sanctions)。
クレジットカードの使用停止くらいなら、大した痛手ではないかも知れないが、次に大きな制約は、たとえば住宅ローンだ。SDNに指定された人物と銀行が住宅ローン契約を結んでいると、その銀行が制裁対象になる。それだけでなく、ローンごと住宅も没収されかねない。ローンが凍結されたら、銀行は担保の住宅を差し押さえざるをえないからだ。
では、どうするか。香港紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストは8月18日付の記事で「制裁された香港警察のトップは、制裁の発動直前に別の中国系銀行にローンを乗り換えた」と報じている(https://www.scmp.com/business/banking-finance/article/3097848/hong-kongs-police-chief-shifted-his-mortgage-bank-china)。
同紙によれば、彼は2017年3月、ローンで香港のマンションを購入したが、トランプ政権が制裁を発表する3日前にローンを別の銀行に移し替えた、という。事前に制裁情報が漏れていたか、危険を察知したのかもしれない。
ちなみに、このマンションは広さ41平方メートルで80万6000米国ドル(約8500万円)という。警察トップが住むマンションにしては狭すぎる、と思われるだろうが、これは居住用でなく、投資用だった可能性が高い。記事は、彼が過去20年間に不動産取引で数百万香港ドルを稼いでいた、と報じている。
習近平政権は「内側から」崩壊する
話は、制裁される個人だけにとどまらない。 彼のローンはもともとHSBCが提供していたが、中国銀行(香港)に移された。HSBCは国家安全維持法を導入した香港当局を支持する姿勢を表明したが、一方で、米政府にも逆らえない。彼との取引を続けていたら、HSBCは米国に制裁されてしまう。そうなったら事実上、国際金融界から追放されたも同然になる。
中国銀行は中国政府の機関のようなものなので、米政府の意向を無視できるが、HSBCはそうもいかず、中国と米国の間で股割き状態になってしまった。同じようなケースはこれから、頻発するだろう。金融機関だけでなくホテルや航空会社など、高官が利用しそうな企業は、いずれも「中国をとるか、米国をとるか」二者択一を迫られるのだ。
クレジットカードや住宅ローンより強烈なのは、もちろん米国内にある資産の凍結、それから米国への入国制限である。中国共産党幹部の多くが米国に不動産などの資産を保有しているのは、よく知られている。これらの資産が凍結され、事実上、米国に没収されたら、彼らは怒り狂うに決まっている。
もともと米国の不動産を入手したのは、引退後、あるいは逃亡した後、米国で暮らすためだ。そのうえ、入国まで制限されたら、彼らの人生設計は完全に狂ってしまう。しかも、である。本人だけでなく、多くの場合、制裁は家族にも及ぶ。つまり、留学の形で先に逃した子弟や愛人の生活までが破綻しかねない。
トランプ政権は高官制裁を通じて、本人はもとより、本人と家族の日常生活に関わる、あらゆる「米国コネクション」を断ち切ってしまおうとしているのだ。
以上から、米国の制裁がいかに中国要人を痛めつけるか、分かるだろう。だが、米国の真の狙いは制裁そのものではない可能性もある。制裁によって、中国共産党内部の対立と分断を促して、習近平体制の基盤を揺るがそうとしている。
制裁された個人が「オレがこんな目に遭うのは、習近平のせいだ」と不満を募らせれば、政権の求心力が失われていく。真綿で首を絞めるように、ジワジワと周辺から締め上げて、最後にトップを倒す。トランプ政権はまさに、そんな作戦を展開しているように見える。1発の銃弾も使わずに、自己崩壊を狙っているのだ。
中共の浸透工作が日本にも…
さて、最後に私の身近で起きた中国共産党の浸透工作を紹介しておこう。中共が世界にばらまいている英字紙、チャイナ・デイリーが私の自宅に配られてきたのだ。
最初は購読している日本の新聞配達店が読者サービスでポストに入れたのか、と思った。そこで、配達店に聞いてみると「そんな新聞は配っていない」という。ご近所にも配られている形跡があり「これは誰かがポストに入れたのだ」と分かった。中共の工作員が1軒1軒、配って歩いていたのである。
英字紙だから、誰もが読むわけでもないだろうが、ご近所は外国人も多い。ちらっと目を通してもらうだけでも効果はある、と踏んでいるのだろう。
私は、見覚えのある著名エコノミストの写真が付いた解説記事に目が止まった。モルガン・スタンレー・アジアの元議長でイェール大学教授のステファン・ローチ氏だ。「エコノミストは『ギャング・オフ・フォー』を非難する」とタイトルにある。 ローチ氏は記事で最近、相次いで中国批判の演説をしたマイク・ポンペオ国務長官らトランプ政権の要人4人をやり玉に挙げて「彼らは米国経済のお粗末さから目を逸らすために、中国を攻撃しているのだ」と批判していた(ネット版は、https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202008/10/WS5f309d28a3107831ec754257.html)。
これまで幾多の経済危機に際して、ローチ氏は鋭い見解を発信しつづけてきた。そのローチ氏がトランプ政権を厳しく批判し、中国の肩を持つとは、ファンの1人としてやや意外ではあった
だが、考えてみれば「経済合理性に至上の価値を見い出すエコノミストとすれば、イデオロギー闘争の次元に行き着いた米中冷戦など、とんでもないと思うのだろう」と合点もいった。これは日本のエコノミストも同じである。
というわけで、タダで配られてきたチャイナ・デイリーはすぐゴミ箱行きにならず、こうしてコラムのネタにもなっている。暑い最中、誠にご苦労さまだが、ぜひ工作員の方は引き続き、私の自宅に配っていただけたら、と思う。 ただし、私はエコノミストではなく、ひたすら経済合理性重視でもない。中国批判の矛先が鈍るのを期待したら、がっかりするだろう。
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