島田洋一『3年後に世界が中国を破滅させる』

 

宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和2年(2020)9月4日(金曜日)
       通巻第6636号 

 

書評   

 ソ連の命脈は共産革命以来、74年だった
   中国共産党体制の崩壊も、74年が寿命とすれば、あと三年だ

  ♪
島田洋一『3年後に世界が中国を破滅させる』(ビジネス社)

 全体が歯切れのよい文章で貫かれ、しかも分析と予測が断定調だから、読む速度も速くなる。
 米中激突に至った経緯を、著者が実際にアメリカで、あるいは中国で接した体験を通して判断し、真実に肉薄している。その内輪話の視点が、大手メディアの報道とまったく異なるので面白いのである
 日本にはまるで伝わらないアメリカにおける黒人暴動の裏に蠢く、その左翼集団の陰謀的な暴力の実態を知れば、メディアが伝えている反トランプの動きとはおよそ無縁の、極左集団の政治戦術が背景にあることがわかる。
 またボルトン回想録も、日本では反トランプの色合い濃く報じられていたが、実際のボルトン(前大統領安全保障担当補佐官)とは、いかなる人物かを、著者は何回も会見した経験があるので、独自の見立てを展開する。
 とくに著者が拉致被害者家族会や国基研の活動を通してなしてきた、アメリカの要人との会話は、多くのメディアが報じてこなかった陰の部分であり、真相に近いニュアンスをもたらしている。

 さて評者(宮崎)、この本の中で一番印象が深いのは西側スパイ網と、旧ソ連崩壊へ至った舞台裏の出来事を論じた箇所である。
 アンドロポフ急逝後、耄碌じじぃだったチェルネンコがしばし政権を担ったが、守旧派の代弁をしただけで、政治的成果はゼロ。そのあとに登場したのがゴルバチョフであり、グラスノスチ、ペレストロイカは西側の注目するところとなった。1989年、マルタ沖合のヨットでブッシュ大統領とゴルバチョフが会談し、冷戦は終わった。
二年後、ソ連が崩壊した。
この状況を現代の中国に置き換えれば、習近平はチェルネンコで、いずれ、中国版のゴルバチョフが登場する可能性があり、それは三年後ではないかと島田氏は大胆に予測する。
ところで、ソ連崩壊の裏側には、西側の諜報工作、二重スパイが絡む技術インテリジェンス戦争が密かに展開されていた
フランスの諜報機関はソ連側に「フェアウェル」という暗号名の協力者を得た。その人物、じつはKGB大佐だった。かれが四千件にも及ぶ機密文書をもたらし、1981年の米仏首脳会議で、情報の「共有」が秘かに申し合わされた。機密ファイルはCIAに引き渡された。
 「ソ連の産業スパイ部隊X戦線の手は、レーダー、コンピュータ、工作機械、半導体など広範囲に伸びており、収集予定リストの内、三分の二以上がすでに確保済み」だった。
 そこで米国は、偽技術情報を、意図的にX戦線に掴ませる
初期段階の製品検査も通るが、一定期間が経過すると異常な働きをする、要するにウィルスを仕込んだバージョンである」
 かくして「誤作動をおこすコンピュータチップがソ連の軍事施設に組み込まれたり、欠陥タービンが天然ガスパイプラインに取り付けられたり、偽の設計図に従って化学プラントやトラクター工場が建てられ、不良品を生産したりなどの『成果』が挙がった」(195p)
 イランの核施設のコンピュータシステムにウィルスを仕掛けて機能を麻痺させたように、 ソ連はマヒ状態に陥った。そのタイミングにレーガンはスターウォーズ計画をぶち上げたのだ。
 この裏話、次の中国の運命を予測するに多大なヒントを含んでいないのか。
 つまり同じ秘密工作をすでにアメリカは手を打ったと考えると、やがて中国の生産活動、とりわけ軍事技術現場はマヒ状態となるのではないのか

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