何が「電子政府」だ? 日本政府のITはなぜこうもダメダメなのか

癌は官庁のトップと政治家だ

癌は官庁のトップと政治家だ

 

何が「電子政府」だ? 日本政府のITはなぜこうもダメダメなのか(野口 悠紀雄) @gendai_biz

癌は官庁のトップと政治家だ

コロナをめぐるさまざまな対策で、日本政府のITの実力のなさが暴露されている。

日本の生産性が低い基本的な理由は、日本政府のオンライン化が、この20年間まったく進まなかったことだ。

行政のトップや政治家が正しいIT感覚を持たない限り、現状を変えることはできない

接触確認アプリが初日から躓く

接触確認アプリは、うまく機能すれば、コロナと共存する社会での強力な武器になる。ただし、使われるかどうか疑問だ。6月21日公開の「コロナ長期戦の切り札『接触確認アプリ』は機能するのか?」でこのように書いた。

しかし、実際には、私が心配していたことが起こる以前のトラブルが生じてしまった。

このアプリは6月19日に運用が始まったのだが、早くも初日に不具合が生じて、運用停止になってしまったのだ。

厚生労働省HPより

感染を自己申告する際に必要な8桁の「処理番号」の発行を受けなくても、任意の数字を入力すれば「完了しました」と表示されてしまう。これでは、感染していない人でも「感染した」という情報を入力できることになり、混乱が生じる。

厚生労働省は、不具合を認めて、修正を進めている。修正を終えるまでは感染を申告できず、通知もされないという。つまり、アプリは使えない状態なのだ。

6月26日 の段階では、アプリの修正に1週間はかかる見通しだ。

10万円給付にマイナンバー機能せず

4月17日、安倍晋三首相が「10万円」の特別定額給付金を発表し、「スピードを重視し、手続きは郵送やオンラインで行う」とした。

しかし、この時点で、全国1741市区町村の半数近い806市町村がマイナンバーの専用サイト「マイナポータル」に未接続だった。突貫工事で、679市区町村が5月1日のオンライン申請開始に間に合った。

しかし、オンライン申請は市区町村の住民基本台帳と連携していなかった。このため、自治体の職員は、台帳と照合する膨大な手作業を強いられた。誤記や二重申請もあったため、現場は大混乱に陥った。

結局、多くの自治体が「オンラインより郵送の方が早い」と呼びかけて、60近い市区町村がオンライン申請受付を停止した。

まったく、ジョークのようなことだ。

6月末の段階で、大阪市での給付率は3%程度でしかない。

私が不思議に思うのは、こうした実情にありながら、なぜ「スピードを重視してオンラインにする」と見栄を切ったのかである。

日本政府のトップは、マイナンバーの実情をまったく知らなかったとしか考えようがない。自分の実力を知らずに見栄を切るとは、ずいぶん乱暴なことをしたものだ。

政府はマイナンバーのシステム構築に約6400億円を投じてきた。しかし、カードの普及率は16.8%にとどまっている。

最大の要因は利用の機会が少なく、使い勝手が悪いことだ。カード取得が実質義務化されている国家公務員でさえ、取得率は58%にすぎない。

雇用調整助成金のシステム不具合

厚生労働省は、5月20日、雇用調整助成金のオンライン申請の運用を始めた。

しかし、個人情報が漏洩するシステム障害が初日に起きた。申請する人が、他人の名前や電話番号、メールアドレスなどを閲覧できる状態になっていたのだ。このため、システムの運用は停止された。

復旧後の6月5日、関西地方の1社の従業員2人分の給与明細など個人情報が漏洩した。原因の究明と再発防止に向けて調査するとされている。

オンライン申請のシステムは約1億円で発注したものだ。それが機能しないのである。

こう失敗ばかりが続くと、「一体どうなっているのだろう?」と心配になってしまう。

コロナ対策の行政を効率的に進めている台湾、韓国、ドイツなどに比べると、日本政府の失敗ぶりは、不思議なほどだ。

テレビ会議も使いこなせないような政府

コロナ対応で、民間企業の多くが在宅勤務を始めた。そこで使われたのがテレビ会議だ。しかし、政府はこれをうまく使えていないようだ。

各省庁は、個別にネットワークを構成している。このため、他の省庁や民間企業との間のテレビ会議が難しいという。

「自民党が開いたテレビ会議に、ある官庁の職員が職場のシステムからは参加できず、党本部に出向いて端末とネット回線を借りた」というジョークのような話を日本経済新聞が報道している。

隣の官庁との間でシステムが違うため、双方のLANで業務をするため2台のパソコンを使うケースもあるという。

テレビ会議の途中で音声が切れたりするので、重要な会議は、対面での開催が続いた。

麻生太郎副総理兼財務相は、6月26日午前の記者会見で、政府のテレビ会議の通信環境について「一番ひでえのが(首相)官邸だな。しょっちゅう音が切れる」と述べた。

菅義偉官房長官は、会見で「時々つながりにくくなることがあり、必要な対応をとるよう、その都度指示している」とした。

われわれが普通に使っているテレビ会議のシステム(zoomやteamsなど)では、音声が途切れることなど、滅多にない。日本政府はずいぶんと出来の悪いシステムを使っているようだ。

日本政府がテレビ会議を使えなかったのは、いまに始まることではない。

2016年に、消費者庁は、徳島市への移転検討のため、7月にテレビ会議の実験を行なった。約1カ月の実験で、職員43人が参加した。

結果の報告書では、「首相官邸や他省庁が東京に集中する現状では、テレビ会議システムを活用しても業務を補いきれない」とした。

この実験では、宿泊費やテレビ会議システムの構築費などに、2760万円の費用がかかった。なぜ3000万円近い経費がかかるのだろう? その当時でも、skypeなどを使えば、すぐにでもできたろうに。自前のシステムを作らなければ安心ができないということなのだろうか?

このときと同じ状態が、いまにいたるまで続いているわけだ。

紙とハンコから抜け出せない

5月24日公開の「コロナ時代には『紙とハンコ』の文化はヒトの命をおびやかす」などで述べたように、日本では、紙とハンコによる事務処理が続いている。

いくら企業内で改革を進めても、結局は役所が紙とハンコしか認めないので、進めない。OECDの生産性に関する統計では、日本は最下位のグループだ。こうなってしまう大きな原因は、事務処理のデジタル化を進められないことだ。

日本総研「新型コロナ禍が促す公的セクターのデジタル革新 」によると、中央省庁全体で行政手続きは5万5000以上あるが、役所に出向かずネット上で完結できるのは4000件強であり、全体の7.5%でしかなかった。

デジタル政策の旗振り役の経済産業省(7.8%)や総務省(8.0%)も、1割に届いていない。国土交通省は2.8%、農林水産省は1.3%だった。

「IT先端国家」を目指したのは20年前のこと

日本政府は、 2001 年の 「e-Japan 戦略」以来、電子政府の実現を目指してきた。これは、もう20年も前のことになる。

この間に世界は大きく変わった。しかし、日本は少しも変わらなかったのだ。このとき、「2003年までに実質的にすべての手続きをネット化する」とした。しかし、実態は遅々として進んでいない。

なぜダメなのか? 誰がダメなのか?

もともと日本は、ハードは強いがソフトは弱い。とりわけ、ITに弱い。それが行政の仕組みにも反映しているだけとも言える。

しかし、日本が弱いなかで、とくに行政が弱いのだ。だから、その理由を探る必要がある。

もっとも大きな原因は、行政は、IT化を進めて生産性をあげるインセンティブを持たないことだ。これが民間企業との本質的な違いである。

しかし、担当者は苦労しているに違いない。だから、現状を改革したいのだが、官庁のシステムはあまりに大きく、1人ではどうしようもないのだ。

したがって、官庁のトップ、あるいは政治家が改革を進めなければ、事態は変わらない。ところが、こうした人々でITの感覚がない人がほとんどなのだ。
 
彼らはITを政治や行政に利用することを目的にしてこの世界に入ったわけではない。彼らの目的は、別のところにある。そして、仕事をアシストする人は大勢いるから、自らはコンピュータを用いない

ITが重要とは聞かされていても、最新技術の中身を詳しく知っているわけではない。だから、重要な決断であっても、専門家にまかせることになる。

こうした環境は、納入業者にとっては最適の環境だ。専門家は、自分の領域を守ろうとする。発注の責任者にITの知識がないと、仕様は自由に決められる。仕事の効率化にはあまり役立たないシステムが導入され、価格が高くなってしまう。

改革をしようとしても、既得権を持つ納入業者が抵抗する。

以上で述べたのは、日本がもともと持っていた問題が、コロナで明らかになったというだけのことだ。

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