中国の腐敗は「永遠不滅」なのだ

石平

中国の清明節に見る腐敗蔓延の文化的背景 ご先祖さまにドル紙幣、別荘、愛人を供える心理

015.04.20

  今月5日は中国の清明節である。古くからの祭日で先祖の墓参りをする日だ。「文革」の時代、それは「封建的迷信」として禁じられていたが、今や「民族の伝統」として復活し盛んになっている。
 日本の場合、お盆などで先祖の墓参りをするときは花を持っていくのが普通だが、中国では事情が違う。

 銅銭をかたどった紙の「冥銭(めいせん)」を先祖の墓に持ってゆき、燃やすという昔からの習わしがある。先祖があの世でお金に困らないための供えだ。今は冥銭もかなり進化して、額面の高い「人民元」や「米ドル」の市販品が主流となっている。
 今年の清明節、「人民元百億元」の冥銭があちこちで「発行」され、「9800億元」のモノまで出回っている。日本円にして約19兆円の額面だが、それを「額面通り」に受け取れれば、ご先祖様(さま)は一気に冥府一の大金持ちとなろう。

 こうした巨額の冥銭に負けないように、「冥府専用のクレジットカード」を作って販売する業者もある。利用金額無制限のゴールデンカードで、先祖はそれを手に入れれば、冥府での「大富豪生活」を永遠に楽しめるわけだ。
 冥府での「良い生活」に必要な「贅沢(ぜいたく)品」を供え物として持っていく人も多い。もちろん全ては紙の作り物であるが、最新鋭のiPhoneから運転手付きの外車(模型)まで何でもある。
 美女の紙人形の背中に「愛人」と書いて先祖に供える人もいる。その際、先祖への心遣いから精力剤の「引換券」を添えるのは普通である。
 高級別荘の紙模型も供え物として大人気である。大抵はプール付きの豪邸で、中には男女の使用人や愛人の「第2号、第3号」の紙人形がきちんと備えられている。先祖は別荘の中で「酒池肉林」の生活を楽しめる。

 このように墓参りをする今の中国人たちは、花の一束で先祖への気持ちを伝えればよいとは考えていない。ご先祖様を喜ばせるためには、お金はもちろんのこと、高級外車も豪邸の別荘も美女の愛人も必要だと彼らが思っている。
  もちろんそれは、墓参りをする人々自身の欲望の反映であり、現世における彼ら自身の価値観の投影でもある。生きている人たちはお金や高級外車、美女の愛 人、豪邸の別荘を何よりも欲しがっているからこそ、それらのモノに最高の価値があると思っているからこそ、先祖への感謝の気持ちを込めてこのような供えを しているのであろう。
 赤裸々な欲望を満足させるモノに最高の価値がある。これは今の中国人の「普遍的な価値観」なのである。

 人々は先祖に前述のような供え物を捧(ささ)げるのにもう一つの思惑がある。先祖に「大富豪の生活」を提供する見返りとして、今度は自分たちも先祖からのご加護でこのような生活ができるようになるのを願っているのである。
  その際、人々と先祖との関係は、お金と高価な贅沢品を介した一種の「賄賂の収受」と化している。この世で大富豪となるためには、まず党と政府の幹部に賄賂 を贈って彼らから金もうけのチャンスを与えてもらうのと同じように、ご先祖様にお金と別荘と美女をちゃんと供えれば、それらのモノはいずれか自分たちの手 に入ってくるのではないか、という期待が人々の心にあるのである。

 そういう意味では、「腐敗」というのはそもそも現代中国人の価値観の一部であり、中国流の即物的な実利主義精神に深く根ざしているものである。党と政府の幹部における腐敗の蔓延(まんえん)は、このような文化的背景があってのことであろう。

 従って習近平政権が腐敗の撲滅にいくら力を入れても、腐敗は撲滅されることはまずない。中国人の精神と文化を変えない限り、腐敗は「永遠不滅」なのである。

【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。


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