【佐藤優の眼光紙背】民主党の完勝をどう見るか

【佐藤優の眼光紙背】民主党の完勝をどう見るか

・・・民主党の圧勝というよりも完勝である。

しかし、筆者は今回の民主党の完勝が、民主党の力によってなされたとは思っていない。2001年4月の自民党総裁選挙で、小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」という公約を掲げ、当選し、総理になった。その公約が、少し時差を置き、8年経ってようやく実現したのである。

権力は真空を嫌う。自民党が壊れた瓦礫の上にできた真空地帯に民主党の議員たちが立つようになった。それだけのことだ。

今回の選挙は、マニフェスト選挙と言われたが、これはまったく間違えた評価だ。マニフェストとは「絵に描いた餅」である。実際に注文しても絵に描いた通りの餅がでてくるという保証はない。出てきた餅もほんとうにおいしいのか、あるいは毒が入っているかは、食べてからでないとわからない

今回の選挙の争点は、ズバリ権力争奪であった。自民党・公明党の連立が続くならば、いままでの国家統治の枠組みが維持される。民主党が中心の政権ができれば変化が生じる。ただし、この変化がよい方向に向かう保証はどこにもない。自公連立政権よりも国民にとって悪い状況が生じるかもしれない。

政党は英語だとポリティカル・パ-ティー(political party)であるが、パーティーは部分(part)を代表する結社だ。イギリスの保守党、ドイツのキリスト教民主/社会同盟は、大企業経営者や地主の利益を主に代表している。これに対して、イギリスの労働党やドイツの社会民主党は、都市の勤労者の利益を主に代表している。日本の民主党はいかなる勢力の利益を代表しているのだろうか? 明確に見えてこない。

民主党、自民党の最大の欠陥は、全体の代表を指向していることだ。全体の代表は政治の否定である。その意味で、護憲を掲げる社会民主党、労働者階級による革命を指向する日本共産党、創価学会と緊密な関係にある公明党は、部分を代表しているので、政党である。それから、これらの政党とは切り口は異なるが、北海道という地域を代表する新党大地も部分を代表する政党である。

民主党の完勝により「権力党」が生まれた。権力党の目的は、獲得した権力を維持することだ。そのためにはマニフェストに書かれた事項など意味をもたない。例えば、民主党は沖縄の普天間基地移転の問題について、沖縄県外もしくは国外をマニフェストに書いているが、この方針を貫こうとすると、鳩山新政権は米国と正面対峙することになる。鳩山新政権が非核三原則を米国に承認させようとしても、それは不可能だ。外交にはこれまで積み重ねられてきた経緯があり、言葉でいうならば「文法」がある。この文法を無視することはできないのである。民主党政権の当面の課題は対米関係だ。米国は空恐ろしい国だ。ここで米国の剣幕に押され、鳩山新政権が、1年後に極端な対米追従外交を行うことになるのではないかと筆者は恐れる。

いずれにせよ、権力党となった民主党に対する国民による監視が重要になる
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