「日朝正常化の密約」・誰も知らない日朝平壌宣言の亡国

青木直人

「日朝正常化の密約」・誰も知らない日朝平壌宣言の亡国

日朝正常化の密約(祥伝社新書)

正常化なのか、それとも日本人奪還なのか

・・・・国連制裁下の北朝鮮にとって、最後の頼りは中国。だが、金正恩は中国製の「餌」に巧妙に毒が塗り込められていたことに気付いた。それが張成沢国防副委員長の粛清である。
中国が援助に塗り込めた毒とは金日成以来の国策「チュチェ」の放棄である。援助はする。だから市場経済を進めろ、中国資本を入れろ、そして核実験を中止せよ。中国はこう迫ったのである。
中国からの援助は労働党内において窓口にいた張成沢国防副委員長の政治的影響力を強め、金正恩「唯一指導体制」の最大の地雷原となりつつあった。
中朝両国の関係冷却化。それは「売国奴」「中国の犬」張成沢の粛清劇で決定的となった。これがこの1年の北朝鮮の姿であった。だから、張処刑の直後、北の 国家安全保衛部は日本にアプローチしてきたのである。理由は日本が平壌宣言で経済支援を約束していたからである。これが事実の全てである。

冷静に考えれば、追い込まれていたのは北の方であり、日本側ではなかったのである。
ならば、北が体制の生き残りをかけて対日接近をしてきたことをうけて、日本側はこれを好機として、さらに交渉のハードルを上げて北を拉致解決に一挙に追い 込むことだったはずである。だが、外務省はそうはしなかった。彼らは北が喉から手が出るほどほしかった言葉、すなわち経済援助を保証した平壌宣言の再確認 と遵守を早々と約束してしまったのである。俗に「慌てる乞食はもらいが少ない」という。なんという稚拙な対応なのだろうか。日本外務省のこうした動向を見 て、追いつめられていた北朝鮮は再び余裕を取り戻し、こう確信したはずだ。「これなら勝てる」と。

それほど平壌宣言は北にとっておいしい。だからこそ、最後の最後まで温存すべき外交カードだったのだ。ではその宣言には何が書かれているのか。ここが最も重要な点なのだ。拉致被害者家族や救援団体、そしてほとんどの国民は今も日本の北朝鮮外交を拘束する平壌宣言の中身を知らない
それでいて、12年前に締結され、拉致が北朝鮮の巨大な国家犯罪であることに世界が気づいた今でも、宣言は日本外交を束縛している・・・・

まず、ここには冒頭から長々と「日本の植民地支配への謝罪」の言葉が述べられている。その延長線上に「正常化以後は日本からの経済支援」が約束され、支援をどういう方法で行うのかまでが、実にこまごまと書き込まれているのである。

それでいて、肝心の拉致についてはどこにもそんな言葉はなく、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」とだけしか書かれていない。これがどうも「拉致」のことを指しているようなのである。自国民を不当に拉致、連行され、その数は警察庁の調査でもいまでは900人近い。
それでいて、日本の外務省当局は拉致のらの字もない誓約を問題解決の気配すらないにも関わらず、見直しも破棄もしないというのである。バカが考えてもこれ で北に勝てるわけがない。北が最も恐れるのは日本側が平壌宣言を無効であると公式に通達することであるからだ。日本外交は自分の両手両足を自分で縛りなが ら海に飛び込もうとしているのである。
なぜ北が日本を舐め続けるのか。その理由はまさしくここにある。・・・・

宣言にはこの12年間に明らかにされた拉致の底知れない深い闇への怒りも非難も何ら反映してはいないからである。・・・

宣言のオリジナル文書は田中均元外務省アジア太洋州局長とミスターX間で30回の交渉を通じてまとめられた。だが協議当初、日本側の交渉者は田中ではなく、前任の槙田邦彦であった。彼が最初にとコンタクトしたことで水面下の交渉が始まった。


槙田邦彦と言う男の正体
槙田はどういう男なのか。彼は外務省チャイナスクールの代表的人物で、李登輝台湾総統の来日を徹底的に妨害したばかりか、「たった10人の(拉致被害者) ために、北朝鮮との国交正常化が止まっていいのか」とも公言した外務官僚である。媚中朝外交官の典型がこの槙田である。彼は退任後、中国政府との良好な関 係を財産に、総合商社「丸紅」の中国ビジネスの顧問(アドバイザー)のポストに天下りしている。丹羽宇一郎前中国大使が伊藤忠出身なら、こちらは丸紅顧問 というわけだ。
●中国政府の代理人
槙田はかって日本経済新聞紙上でこう言い切っている。
中国政府は天安門事件時に撤退した企業よりも、残った企業のほうを大事にした」。これは2010年、中国石家荘で、日本のゼネコン・フジタの現地日本人 スタッフ3名(別に中国人1名)が人民解放軍の軍事施設に対してスパイ行為を働いたとして、中国当局に逮捕された際のコメントである。
事件は在中日系企業に不安を与え、彼らは中国側の恣意的な逮捕劇に警戒感を強めた。それに対して槙田は天安門事件の際のエピソードを引用することで、中国を批判するな、そんなことをすればマイナスになるぞ、と恫喝したのである。露骨な話である。
●次は金正恩のスポークスマン?
いずれ日本が北と国交を樹立し、経済支援が始まれば、槙田はこう言い出すだろう。「円借款を日本政府がいくら供与しても、裁量権は北朝鮮側にあるのだから、彼らを怒らせたら援助プロジェクトの受注はできませんよ。だから。もう拉致の話は言いっこなし」と。
なぜ日本の北朝鮮支援の案件に北が一方的な影響力を持つのかはこの本の中で繰り返し指摘している。そういう構図になっているのである。理由はこの本を参考にしてほしい)。


●亡国の外務省
槙田~田中そして外務省。彼らは拉致された自国の同胞の運命には何の関心もなげに、ひたすら外交関係樹立だけを目的に、宣言をまとめ、さまざまな援助手形 を乱発した。この公約は今も生きている。援助の中身がどれほどおいしいのか、詳しくは本書を参考にしてほしい。この信じがたいほどの「経済支援」には、いずれも私たち国民の血税が充てられるのだ。


●日本政府をほめたたえる秘密警察のトップ
日朝協議第1日目。
特別調査委員会の徐大河委員長は次のような挨拶を行っている。
「皆さんの我が国訪問について日本ではいろんな食い違う主張があると承知しています」「そのような中で皆さんが平壌を訪問したのは日本政府の意志を反映し たものであり、日朝平壌宣言に従って、日朝政府間のストックホルム合意を履行しようとする日本政府の意思の表れとしてよい選択だと考えている」。
徐委員長は実にフランクに北側の思いを表明している。「日本ではいろんな食い違う主張」があった。それは拉致被害者家族会からの反対と危惧の声だった。
にも拘らず、日本政府は代表団を北に派遣した。「それは(家族会の反対にもかかわらず)日本政府の意思を反映したもの」だった。
そうした日本政府の意思とは「日朝平壌宣言に従って、日朝政府間のストックホルム合意(ここで平壌宣言が再確認されている)を履行しようとする内容である。これは北朝鮮にとって「よい選択」なのだと秘密警察のトップ徐大河は褒めて見せたのである。

彼らの最大の不安。それは再び拉致被害者家族会の反対で政府の訪朝が頓挫し、批判と怒りの標的が日朝平壌宣言に及ぶことだったのである。だが9月ま での拉致報告を無視した北は再び日本側の足元を見た。日本の側から訪朝団がやってきたのである。宣言の破棄もない。このまま拉致でひっぱれば、日本政府が 交渉のテーブルを去ることはない。関心のある方は徐委員長の発言を動画で再度見直してほしい。彼の言いたいのはこういう意味なのである。
●売国なのか、それとも愛国なのか
長い解説はこれで終わる。
最後に。私は怒りの中で本書を書き上げた。北との密約を国民の前に明らかにしない外務省とメディアの無責任に対してもそれは向けられている。
まだまだ闘いは終わらない。闘いは情勢の正確な理解から始まる。
この国と同胞を愛する全ての方に強く一読願うものである。

10月29日 青木直人


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