BCG接種で新型コロナが重症化しない?
第3の説明は、日本人が感染しても重症化する確率が小さいという可能性である。PCR検査で陽性になった(今ウイルスをもっている)人よりはるかに感染者が多いとすると、何らかの原因で日本人が重症化する確率がきわめて低いと考えられる。
そんな都合のいい話は考えにくいが、3月末からネット上に次のような「BCG地図」が出回り始めた。この原典は2011年の学術論文だが、それを分析したブログ記事が世界的な注目を集めた。
Vaccination Policies and Practices)
BCGというのは、子供のとき誰もが受けたハンコ型のワクチンである。これは結核菌の抗体をつくる予防接種なので、常識的にはそれとまったく種類の違うコロナウイルスの免疫ができるとは思えないが、この地図をみると驚くべき相関関係がある。
地図のA(黄色)はBCG接種を義務づけている国で、日本や韓国やタイなどは「日本株」、ロシアや東欧は「ロシア株」、中南米は「ブラジル株」、インドや韓国などは複数の併用で、いずれも死亡率が低い(100万人中1人以下)。イランの死者が多い(36人)が、これは独自の株を使っている。
B(青)はBCG義務化をやめた国。EUでは1980年代からBCGを任意にし、日本のようなハンコ型ではなく「デンマーク株」の注射になったが、死亡率のワースト10はすべてこのタイプの国である。
特にBCG義務化をやめたスペイン(死者201人)と義務づけているポルトガル(死者18人)、同じくイギリス(35人)とアイルランド(17人)、スウェーデン(24人)とノルウェー(8人)、ドイツ(11人)とポーランド(1人)などの隣国の差は印象的であり、とても偶然とは思えない。
C(赤)はBCGを義務づけていない国で、イタリア(死者218人)、オランダ(死者68人)、アメリカ(死者15人)。最悪なのは今まで義務化したことのないアメリカで、この傾向から考えると、死者は数十万人になるおそれが強い。
医学的メカニズムは未知だがBCGの可能性は大きい
このBCG地図の例外は武漢や大邱など、局地的に感染爆発の起こった地域である。中国は独自の株を使っており、武漢では感染爆発が起こったが、100万人当たり死者は2人。韓国は複数の株を使っているが平均3人で、全体としては死者が少ない。
日本でもダイヤモンド・プリンセスでは乗員・乗客3711人のうち日本国籍1341人のうち712人が陽性(うち331人が無症状)で、11人が死亡したので、日本人がコロナに対して免疫をもっているとはいえない。感染爆発で高密度のウイルスが拡散すると、BCGの効果は弱いようだ。
この地図で見る限り、感染爆発のケースを除いて日本株やロシア株のBCG接種を義務化している国の死亡率が低いという疫学的な相関関係はほぼ完璧だが、これは医学的な因果関係の証明にはならない。何か別の本当の原因があり、擬似相関が見えているだけかもしれない。
しかし大隅典子氏(東北大学副学長)や平野俊夫氏(大阪大学元学長)のような主流派の専門家も、検討の価値があると認めている。
そのメカニズムは不明だが、BCGがコロナの抗体をつくるわけではなく、結核にもコロナにも共通の免疫記憶をつくるのではないかと推測されている。これは特定の病原体に対する抗体ではなく、多くの病原体に幅広く抵抗力を示すもので、BCGにそういう作用があることは昔からわかっている。
これについてもドイツやオランダやオーストラリアの医療機関で臨床試験が始まっており、今の段階で断定的なことはいえないが、リスクの大きい医療従事者に接種すれば、感染を防止する効果が期待できる。BCGの免疫効果は15年なので、ツベルクリン反応が陰性なら副反応はほとんどなく、結核の予防にもなるので、接種しない理由はない。
BCGはほとんどの日本人が接種しているので、普通の大人がこれから接種する必要はないが、新型コロナ死亡率の高い高齢者に接種することが考えられる。日本の全面的なBCG接種は1951年以降なので、70歳以上の高齢者が危険である。
日本のコロナ対策が今まで成功した最大の原因が自粛や移動制限ではなく、以上のような生物学的要因だとすれば、ロックダウンのような私権制限は必要ない。菅官房長官は記者会見で「オーストラリアでBCGの臨床試験が行われることは承知している。厚労省が内容を確認している」と述べたので、政府も検討しているようだ。
ただし抗体検査もBCGも、個人が濫用することは禁物である。感染症対策でもっとも重要なのは医療資源を守ることであり、無症状の人が「安心」のために抗体検査やBCG接種を受けてはいけない。