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経済効果は10兆円!?民泊が日本に「生産性革命」を起こす可能性
■長谷川幸洋「ニュースの深層」経済効果は10兆円!?民泊が日本に「生産性革命」を起こす可能性
厚労省も否定しなかった新ルールの可能性
住宅の空き部屋を宿泊サービスに提供する「民泊」が広がっている。「10兆円台の経済効果を生み出す」との試算がある一方、騒音やゴミ出しなど近隣住民への迷惑や、テロなど防犯上の心配を指摘する声もある。民泊に可能性はあるのか。
政府の規制改革会議は3月13日、東京・霞が関で「民泊サービスにおける規制改革」をテーマに、関係省庁はじめ仲介サイトを運営する「Airbnb Japan」、旅館・ホテル業界などの関係者を招いて公開ディスカッションを開いた。私は司会を務めた。そこで論点を整理してみる。
まず政府の立場はどうか。安倍晋三政権は民泊について、2015年から問題点の洗い出しを始めている。そのうえで「国家戦略特区の先行事例(注・東京都大田区)を踏まえて民泊サービスの規制を改革していく」(規制改革会議での首相発言)という基本方針を決めた。
たとえば空き部屋を提供するといっても、業として貸すなら旅館業法上の許可を得る必要がある。だが、実際には無許可のケースが多い。
厚生労働省・観光庁は当面、旅館業法に定められた簡易宿所の枠組みを使って民泊提供者に許可取得を促す一方、業法上の客室面積基準(延床面積33平方メートル以上)を収容定員に応じた面積基準(3.3平方メートル×収容定員以上)に緩和する方針を説明した。
将来は所有者が居住している一戸建てのようなホームステイタイプの民泊について、旅館業法の適用対象から除外する方向で新ルールを検討する、という。それ以外のタイプの民泊についても、厚労省の担当者は新ルールを考える可能性を否定しなかった。
旅館業法ができたのは、68年前!
そもそも旅館業法ができたのは、いまから68年前の1948年だ。当時はインターネットもなかった。いまはネットを通じて世界的規模で簡単に空き部 屋の提供者(ホスト)と宿泊者(ゲスト)をマッチングできる時代なのだから、それにふさわしい新ルールを考えるのは時代の流れと思う。
法規制が及ばない野放しのような現状に強い不満を表明したのは、旅館とホテルの業界団体である全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会だ。北原茂樹会 長は「我々は衛生や設備面などコストをかけて法令遵守に努めている。だが、民泊は無許可の宿泊施設になっている例がある。公正な競争になっていない」と訴 えた。
全国では「5年で2000軒の旅館が廃業した」(北原会長)という厳しい業界環境の下で民泊が拡大すれば、旅館・ホテルは一層、経営が苦しくなる。 そこで、連合会は民泊を制度化するなら①外国人観光客のみを対象とする②不在ホストの禁止③近隣住民の承諾④最大営業日数は30日まで~といった規定を新 ルールに盛り込むよう求めた。
これに対して、規制改革会議の委員からは「外国人観光客のみを対象にするのは厳しすぎる」「通商ルール上の問題も生じかねない」との指摘が出た一方「個人的には、営業日数制限は理解できる」という意見もあった。
ともあれ、旅館・ホテル業界が民泊の制度化に「何が何でも絶対反対」と頑なな姿勢でなかったのは、今後の議論に向けて一歩前進と言っていい。
田邊泰之「Airbnb Japan」代表取締役のプレゼンテーションをめぐっては、質疑が集中した。田邊代表は2015年に日本を訪れた外国人ゲストが前年比521%、日本人が 外国を訪れたゲストも290%増などと同社の現状を紹介しつつ「日本市場が世界でもっとも成長している」と民泊が成長分野である点を強調した。
苦情にどう対応するのか
一方で民泊が旅館業法の規制を受けた場合には、法律上の宿泊引き受け義務を課せられるので宿泊を拒否できなくなったり、空き部屋が住居専用地域にあ る場合には、サービスを提供できなくなるなどの問題点を指摘した。また今後、近隣住民からの苦情受付窓口を設ける方針も明らかにした。
民泊を広げていくうえで近隣住民とどのように調和を図っていくか、は重要な問題だ。田邊代表は、同社が提供しているのは「マーケットプレイス」にすぎない、という立場を強調したが、それで済むかどうか。
民泊にかかわる関係者はホストとゲスト、Airbnbのようなネット上のプラットフォーム提供者、民泊に関わる業務の代行業者、関係省庁、それに近隣住民である。
ホストやゲスト、代行業者だけでなく近隣住民もサービスに対して安全、安心かつ信頼できるかどうかが鍵を握る。近隣住民はけっして単なる部外者ではない。なにかトラブルが起きれば利害関係者そのものだ。
犯罪に使われるなど悪意の利用者をどう排除するか、トラブルが起きたときに誰が責任をもって対処するのかが明確になっていないと、世間に「民泊は危ない、はた迷惑」といった悪いイメージが広がりかねない。
現実に「マンションの共用部分であるゲストルームに民泊の外国人が友人を引き入れて騒いでいる」といった苦情も報じられている。こういう問題についてはホストとゲストだけでなく、私はプラットフォーマーや代行業者の責任も免れないと思う。
プラットフォーマーや代行業者としても、自分たちの事業に悪評が広まれば結局、事業継続が難しくなるはずだ。「行政当局の規制に任せていればいい」という話ではない。民泊を広げるためには、近隣住民を含めた関係者すべての間で信頼関係が築けるかどうか、が鍵になるだろう。
「おもてなし」を世界に広めるチャンス
民泊はどれほどの経済効果があるのか。新経済連盟の井上高志理事は「総額で10兆円以上の経済効果を生み出す」という独自の試算結果を報告した。
それによれば、物件数が約200万戸、外国人の受け入れ可能人数が約2500万人という想定の下で、ゲストによる消費が約3.8兆円、ホストによる投資が約1兆円、外国人のインバウンド関連消費が約7.5兆円という。
ゲストは地域のレストランや商店で外食、買い物をしたり、温泉などを利用すると見込まれる。ホストは貸し出す物件のリノベーション、補修、家具の購入・レンタルなどに投資する。さらに、掃除代行や鍵の受け渡し代行サービスなど関連業界の需要もある。
青森県のねぶた祭りや福岡県の博多どんたく、北海道のよさこいソーラン祭りなど、地方には100万人以上の集客力を誇るイベントが多くありながら、 宿泊施設が不足しているために、観光客を取り逃がしているケースがある。そうしたケースでは、民泊は有効な対応策になるだろう。井上理事は全国で820万 戸と見込まれる空き家対策としても「遊休資産を稼働資産に変える生産性革命になる」と指摘した。
外国人にとっては、民泊が日本の暮らしを知る機会になる。日本にとっては「おもてなし」を世界に広めるチャンスだ。課題は多いが、ここは関係者すべての前向きな議論を期待したい。
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