ドイツメディアが「コロナしか報じない」のには裏がある、という疑念 メルケルがやつれて見えるのはなぜか

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これを 読めば 氷解

川口 マーン 惠美

ドイツメディアが「コロナしか報じない」のには裏がある、という疑念 メルケルがやつれて見えるのはなぜか - ライブドアニュース

コロナ以外にニュースはないのか

ドイツでは、夜7時に第2テレビのニュース、夜8時には第1テレビのニュースが流れる。前者は15分、後者は25分ほど。日本で言えばNHKの夜7時のニュースのような位置づけだ。ドイツの第1と第2テレビはどちらも公営放送で、国民は視聴料を払う義務がある(視聴料はオンデマンドや公営ラジオの視聴も包含しているので、たとえ車にラジオが付いているだけでも支払い義務は生じる)。

さらにいうなら、どちらも中立報道であるとしながら、多かれ少なかれ政府の応援団的存在だ。多大なお金を回してもらっているのだから当たり前かもしれない。同じ立場であるNHKが一貫して反政府のスタンスであることの方が例外なのだろう。というわけで日本もドイツも、たとえ公営放送でも報道内容は必ずしも中立とは言えない。

メディアと政府が共闘するというのは大変恐ろしいことで、最近、それに気づいたドイツ国民が抗議活動を強めている

ドイツ人はデモ好きで、何かというと市民が街に繰り出すが、ここ数年はデモの場で必ずと言って良いほど、「嘘つきメディア」という抗議プラカードが掲げられる。そして、メディアがそれを、極右のプロパガンダとして糾弾したり、あるいは無知蒙昧な人々の愚かな行為として過小評価したりというのが、ドイツの日常風景となりつつある。

ちなみに、現在のドイツ政府と大手メディアは、リベラルを通り越して、かなりの左派である。

さて、そんなドイツの報道でここ数ヵ月おかしいと思うのは、ニュースの内訳だ。春以降、前述の夜7時と8時のニュースでは、トップニュースはもちろん、ニュース全体の半分か、時にはそれ以上の時間がコロナ関連のニュースで占められている。まるで、ドイツにはそれ以外に何も重要なことが起こっていないかのようだ。

そうでなくても、15分や25分ほどのニュースの時間に、ドイツと世界で起こっていることをコンパクトに纏めるのは結構難しい。ところが現在、前半分がコロナで、後の半分にスポーツやら天気予報までが詰め込まれるのだから、実際問題として、その他のニュースは極力省かれている。

ちゃんと知りたい人は、もっと遅い時間帯の詳しいニュースを見れば良いとも言えるが、これまでは、まずは7時と8時で、重要なニュースの触りだけはやっていた。

国会さえもコロナ討議の場に

コロナは国民の生活に直接影響するので、皆の興味が大きいことはわかるが、しかし、連日、多くの時間を割いて報道するほど次々と新しい話が出てくるわけでもない。だからだろう、春から半年間、ニュースで例外なく出てきたのが、検査場で上を向いて鼻やら口に綿棒を突っ込まれている人たちのシーン。

ここ2ヵ月ほどはそれが、誰かの腕に注射針がブスッと刺さるシーンに変わった。ワクチンがニュースの主流に入ってきたからだ。ただ、この映像はコロナのワクチンとは無関係の、要するにイメージ映像だ。ニュースの時間に、毎日こんなものばかり見せられるのは、何だかおかしくないか?

その上、ネタ切れになると、「完治したと言われたのに、その後、息切れが続く人の生活」を追ったりする。こんなのは、ドキュメンタリー番組でも組んでやればいいことだ。そもそも、万病の元の「風邪引き」でも、拗らせると長いあいだ尾を引いたり、あるいは、心臓病など深刻な疾病を引き起こしたりすることはある。

そして、現在の最大テーマは、もちろん、クリスマスをどう乗り切るか。つまり、ロックダウンを、いつ、どの程度強化するか、クリスマスに規制を緩和するか否か。普段ならパーティーの日となる大晦日はどう扱うか? 目下のところ、ニュースの時間はこれらのテーマに占領されている。

それどころか、12月9日、次期予算を決める国会では、メルケル首相がコロナ対策の強化を求めて絶叫し、結局、コロナ討議になってしまった。私には、拳を振り上げて感情的に叫び続けたメルケル首相の姿は、どう見ても演技のようにしか映らなかった。

しかし、当然のことながら、ヨーロッパでは毎日、コロナ以外にも多くのことが起こっている。12月10日と11日、延び延びになっていたEU首脳サミットが、ようやくブリュッセルで開催されるが、EUでは問題が山積みだ。

EUの司令塔ともいうべき欧州理事会は、各国の首脳が集まっている最高決定機関で、理事長は半年ごとの輪番制。今年後半の理事長国はドイツである。理事長国になると、どの首脳もその半年間に何らかの政治的成果を残そうとするのが常だが、来年、政治から引退すると表明しているメルケル首相にとって、今年のサミットはまさに最後の晴れ舞台だ。

理事長国ドイツに由々しき事態

メルケル首相は今回のターゲットを、大枠で次のように定めていた。

1)EUの対中国政策の一本化
2)コロナ救済のためのEUの大々的な財政出動
3)EUの次期予算やコロナ救援金の分配の指針に、EU各国が真の法治国家であるかどうかという基準を入れること

ところが、これらがすべて破綻しかけている。理事長国としては由々しき事態だ。

1)の対中政策に関しては、元々、EU各国がそれぞれの形で中国に依存しており、しかも、一番依存しているのがドイツだ。要するに、ドイツ企業は中国からは撤退する気はないし、もちろん政府も、口はともかく、本気で中国の人権問題に抗議する気もない。だからこそ、中国の力を削ごうとしていたトランプ大統領との関係も激しく悪化してしまったのだが、そんなドイツがEUの対中政策の何をどう纏めるのかは興味深い。

2)のコロナ救済のために大々的な財政出動を決めたのは、フランスに対する歩み寄りもあったが、おそらくメルケル首相は、ギリシャ金融危機以来、自分にこびりついていた「ドイツ・ファースト」や「冷たい女」の頑迷なイメージをきれいさっぱり脱ぎ捨てるチャンスだと思ったのではないか。確かに、財政出動案はEU諸国の喝采を浴びた。

しかし、そこに3)の、「お金は法治国家にしか配らない」という条件をつけたことが失敗の元だった。これに腹を立てたハンガリーとポーランドが承認しなかったので、現在、コロナ援助金だけでなく、次期の予算までが宙に浮いている。欧州理事会では、何かを決めるときには全会一致が原則だ。

もっとも、怒っているハンガリーとポーランドにも一理ある。どちらも中国とは違って選挙で国民に選ばれた政府であるし、ドイツやフランスとは違って国民の支持率も高い。その政策や考え方が、現在のEUの主要国と異なるところはあっても、法治国家ではないと決め付けるには無理がある。

彼らにしてみれば、主権国としての当然の権利に基づいて国を治めているだけで、非難される謂れはないと思っている。なのに、ドイツの報道では、ハンガリーやポーランドの言い分は一部だけしか知らされず、ほぼゴロツキ国家のような扱いになっており、ここでも報道はあまり公平ではないと感じる。

実際問題としては、理事長国ドイツは、すでにハンガリーとポーランドに妥協策を提案している。それについてオルバン首相が火曜の夜、「解決への距離はあと1cmとなった」と言ったというから、おそらく適当な落とし所は見つかっているのだろう。

メルケル首相がやつれて見える理由

もちろん、メルケル首相が会議の破綻を恐れて大きく妥協した可能性があり、オランダやルクセンブルクは、法治国家の定義が薄められてしまうことに難色を示しているという。しかし、ハンガリーやポーランドにしてみれば、そもそも法治国家の定義をEUが定めることに反対しているわけなので、まさに三つ巴状態だ。

万が一、これがまとまらなかった場合には、1月に非常措置としての予算が通されるらしいが、多くのプログラムは開始できないままになる。

なお、コロナ援助金のほうは、別の配布の方法を考え出さなくてはならない。フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギーは、コロナの被害が甚大な上、元々の借款も返済しなければならず、経済的にギリギリまで追い詰められている。予断は許さない。

今回のEUサミットのテーマはその他にも、コロナ防疫、気候温暖化対策、貿易促進、安全保障、トルコに対する制裁など盛り沢山だ。議長メルケル首相の肩に掛かっている荷は重い。

なお、今日は触れないが、ドイツには現在、報道されていない深刻なニュースがいくつかある。夜のニュースにおけるコロナの比重が異常に大きいのは、それら他の問題から国民の目を逸らすことが目的ではないかと私は邪推している。最近、メルケル首相がとてもやつれて見えるのは、おそらくコロナとオルバン首相のせいだけではないはずだ。

いずれにしても、まずは11日、サミット後にメルケル首相がどのような声明を発表するのか、そこに皆の注目が集まっている。大手メディアがそれをいつも通り、それをメルケル賞賛記事に仕立て上げるのか否か、私はそれにも興味を持っている。

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