【大手町の片隅から】乾正人 まず空襲警報に名を改めよう

乾ぶし 冴えてます

 

【大手町の片隅から】乾正人 まず空襲警報に名を改めよう

洋の東西を問わず、お上は「真実」を糊塗(こと)するため、さまざまな言い換えをする。

ロシアによるウクライナ侵攻を、プーチン大統領が「特別軍事作戦」と称しているように、旧日本軍は全滅を「玉砕」、撤退を「転進」(これは今のロシア軍も同じ)と表現した。中でも日本政府の最高傑作は、敗戦を「終戦」としたことだろう。

「終戦」という用語は、当時の「いくさがやっと終わった。今日からは空襲もなくなる」という庶民感情にぴったりと寄り添う形となり、8月15日は、今も「終戦記念日」であり続けている。

役に立たないJアラート

お役人の造語能力は、戦後も衰えなかった。「Jアラート」もその一つ。正式には「全国瞬時警報システム」といい、弾道ミサイル情報や緊急地震速報、津波警報などに関する情報を携帯電話に配信したり、市町村防災行政無線で放送したりするなどして「瞬時に」国民へ伝達するシステムのことである。しかし、3日早朝の北朝鮮による弾道ミサイル発射で白日の下にさらされた通り、「瞬時に」情報は伝わらなかった。

Jアラートを出した時点で、ミサイルは既に日本の上空を通過した後と推定され、しかも日本の領空に達する前に爆発したというのだから、午前6時に起きようと目覚まし時計をセットしたら7時に鳴ったようなもの。これでは、何の役にも立たない。

松野博一官房長官は、「システム改修も含めた改善策を検討している」と述べ、改善する意向を示したが、問題の根は深い。

そもそも弾道ミサイル情報と地震・津波情報を同じプラットフォームで処理しようというところに無理がある。しかも所管が消防庁では、かゆいところに手が届かない。

 

端的な例が、消防庁が主管する「地方公共団体の危機管理に関する懇談会」での議論だ。この懇談会は、18年前に施行された国民保護法に基づき、都道府県や市町村での住民保護施策をフォローアップするために設置され、元消防庁長官のほか有識者がメンバーとなっている。

今年はウクライナ戦争が勃発してから約2カ月後の4月25日に開かれたが、役所側が用意した議題は、①静岡県熱海市の土石流災害の対応②東京五輪対応の総括―の2点だけ。

ウクライナ戦争をきっかけに、国民の関心が高まったミサイル攻撃への対応やJアラートに関する資料はまったく提出されなかった。

あまりの能天気ぶりに、委員からは「ロシアのウクライナ侵略をみていると、国民保護を要する事態への備えが必要で、より現実的な訓練を実施することが重要だ」「国民保護に関する機運が高まっている今こそ避難訓練を実施すべきだ」などと、役所を叱咤(しった)激励する意見が相次いだ。しかし、懇談会後に大規模な訓練が実施されることもなく、今回の失態につながった。

防衛省が責任もって出せ

戦時中の空襲警報は、地域ごとに置かれた陸海軍の司令部が発令し、NHKが即座にラジオで放送、住民が近所の防空壕(ごう)に逃げ込むことによって多くの人命が救われた。

もうくだらない偽装はやめ、Jアラートを空襲警報と言おう。そして防衛省が責任をもって警報を出してもらいたい。そうすれば、伝達ルートに消防庁を介さない分、国民への伝達速度は早まる。餅屋は餅屋であり、岸田文雄首相の決断ひとつでできる。

 

では、また再来週!(コラムニスト)

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