マツダが「夢のエンジン」開発 / 「世界一を目指した」と自賛

産経

【経済インサイド】「火力発電+EVは本当にエコ?」と疑問を呈すマツダが「夢のエンジン」開発

 火力発電による電気で電気自動車(EV)を走らせることが本当にエコなのか-。自動車大手のマツダが、世界的なエンジン車の生産・販売規制の流れに疑問を呈し、環境問題解決の“切り札”としてガソリンエンジンの性能アップを進めている。EVシフトが進みそうな中でも、「夢の次世代エンジン」を開発するなど独自路線を突き進んでいる。一見、“逆走”にも見える戦略の成否はいかに-。

 EVは、二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)」の代表格とされる。しかし、使用する電気の供給を考慮に入れると、火力発電で石油や石炭、液化天然ガス(LNG)を燃やす際にCO2を大量に排出している現実がある。

 平成29年10月、マツダの小飼雅道社長は東京モーターショーの記者向け説明会で環境問題について、「『Well to Wheel(井戸から車輪まで)』の考え方に基づき、本質的なCO2削減をはかる」と話した。これは、自動車の排ガスだけではなく、燃料の採掘から車両の走行まで、大きなくくりで問題をとらえるという意味だ。EVの環境性能については発電時のCO2排出を含めて考える必要がある一方、絶対数の多いガソリン車の環境性能向上が重要だとの立場だ

マツダは8月に発表した「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」で、Well to Wheelの企業平均CO2排出量を、平成42年までに22年比50%、62年までに90%削減する目標を掲げた。

 「『火力発電所による発電がなくなるまでEVは不要だ』といえるレベルまで、内燃機関(エンジン)を改善する

 29年10月10日、山口県美祢(みね)市のマツダの自動車試験場。社内で「ミスターエンジン」と呼ばれる人見光夫常務執行役員は、こう強調した。人見氏は「あくまで内部の目標だ」とくぎを刺したが、「EVこそが環境にとって善で、ガソリン車は悪」という風潮に対する異議申し立てに他ならない。

 そして同日、マツダの“切り札”が姿を現した。人見氏が主導して開発した次世代ガソリンエンジン「スカイアクティブX」を搭載した車両だ。

 このエンジンは、24年発売のスポーツ用多目的車(SUV)「CX-5」を皮切りに同社の車両に搭載され、業績回復の原動力となった「スカイアクティブ」の後継という位置づけ。ガソリンと空気の混合気を圧縮して着火する。これはディーゼルエンジンで用いられる燃焼方式で、ガソリンでは応用不可能といわれてきたが、プラグによる点火で燃焼室内の圧力や温度を制御することで実用化にこぎつけた

 試乗では、アクセルを踏み込むとすぐに勢いよく加速するが、車内は不思議なほど静かだった。スカイアクティブからさらに2~3割燃費性能を向上させたこのエンジンを搭載した車は、31年から順次、市場に投入される予定だ。

 一般の人向けには、29年10月末~11月初旬に開催された東京モーターショーで、同エンジン搭載の試作車「魁(かい)コンセプト」が公開された。小飼氏はスカイアクティブXについて、「優れた環境性能と出力・動力性能を両立、世界一を目指した夢のエンジンだ」と自賛した。魁コンセプトはデザイン面でも高く評価され、今回のモーターショーを代表する試作車の一つとなった。

 マツダがエンジンの性能を追求するのは、環境への配慮だけではない。「EVシフト」といわれるが、自動車に占めるEVの割合は、15年後でも20%前後にとどまるとの見方が多く、ガソリン車が大勢を占める時代は当面続く見通しだ。

 次世代車の“本命”の行方が混とんとしている中、自動車大手では中堅に位置し、投資余力が限られるマツダにとって、「あれもこれも」と経営資源を分散するのは愚策といえる。得意分野のエンジンに注力し、差別化を進めて存在感を発揮していく戦略だ。ハイブリッド車(HV)についても、補助的なモーターでエンジンの性能を引き出す「マイルドハイブリッド車」で勝負する構え。

一方でマツダは29年、トヨタと資本提携し、EVの基幹技術を共同開発することで合意した。一見、基本姿勢と矛盾しているようにみえるが、実はこれこそ、ガソリン車の追求に不可欠な戦略だ。米カリフォルニア州や中国では、EVや水素を燃料として使う燃料電池車(FCV)など、CO2を排出しないZEVを一定割合、販売することが義務づけられる。このため、EVを無視するわけにはいかないが、「他社との共同開発なら、投じる経営資源を抑えられる」(関係者)という狙いがあるのだ。

 得意分野のガソリンエンジンを磨き、EVについても手当てするというマツダの戦略は理にかなっている。ただ、EVシフトがどのようなスピードで進むかは予測が難しいうえ、競争環境も依然として厳しい。環境問題への姿勢についてマツダの主張が正当でも、中国などは自国のEV産業育成を視野に、規制を強めていく可能性が高い。勝ち残りに向け、緻密な経営戦略と確実な実行が迫られる正念場は続きそうだ。(経済本部 高橋寛次)



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