視覚が敏感過ぎて、文字が消え、動く…「アーレンシンドローム」とは?

 知りませんでした

病名も 「特定色過敏症」とかで いいのでは?

読んでおきましょう

上條 まゆみ

視覚が敏感過ぎて、文字が消え、動く…「アーレンシンドローム」とは?

さまざまな発達障害と誤診されることも 

ある波長の光に対する感受性が高すぎる

見えすぎることで生きづらさを感じている人がいる!? 

いや、見えすぎるといっても、アフリカのマサイ族がサバンナのはるか遠くまで見通せるといったような「視力」の話ではない。光に対する感受性が高すぎて、一般の人にとってふつうの明るさが、眩しくて眩しくて仕方がないのだ。

それが、アーレンシンドローム(視覚の過敏症)だ。1980年代に、カリフォルニアの学校心理士、ヘレン・アーレンによって明らかにされた。

この聞き慣れない症例のことが知りたくて、筑波大学心理・発達教育相談室でアーレンシンドロームの相談に応じている熊谷恵子教授の研究室を訪ねた。

「赤と緑の見分けがつきにくかったり、色がよく見えなかったりする色盲・色弱については聞いたことがある方は多いと思います。これは光の一部に対する感受性が低いために起こる症状です。アーレンシンドロームはその逆で、光の一部に対する感受性が高いことによって起こります」

光の3原色のなかでも、青い光を感じやすい、緑の光を感じやすい、赤い光を感じやすい、あるいはそれらすべてを感じやすいなど人によって違いはあるが、いずれにしても、ある波長の光に対する感受性が高すぎるために、ものが見えにくくなってしまうのだ。

たとえば、通常は見えることがない紫外線が見えたり、蛍光灯の光の揺れが見えたり、空中に舞うほこりに光が反射して見えたりしてしまう。そのため、当たり前の日常生活を送るのに疲れ果ててしまい、体調を崩してしまうこともあるという。

また、アーレンシンドロームと判断される人は、「本を読むときに行や単語を飛ばしてしまう」といった文字の読みにくさを訴えることが多い。

「本を読むときに背景の白地が強く光り、文字が消えていってしまったり、二重に見えたり、動いたり滲んだりして文字がうまく読めないこともあるんです」(熊谷さん・以下同)

蛍光灯からLEDに変わった途端、違和感を感じた

アーレンシンドロームは現在、欧米ではおよそ20〜30%程度、日本では少なくとも6%以上の割合で発症すると言われ、決して珍しい症状ではない。しかし、医学的診断名も症候群の名称もなくほとんど知られていないため、自分がそうであるとは気づかず、生きづらさを感じている人は多いと思われる。

視覚は生まれながらにしてもっている感覚であり、他人と比較することができないため、自分の視覚特性に気づくことができないことも多いんです。見え方がほかの人と違うことになかなか気づけません。病気ではないから、眼科で診断を受けても異常は見つかりません。眼科で『眩しい』と訴えても、『白内障でもないのにそんなわけない』と言われてしまうこともあるそうです」

さらに、視覚が外界から取り込む情報は、感覚全体が取り込む情報の約80%という膨大な量を占める。アーレンシンドロームによる見えにくさがあると当然、必要な情報が得られにくく、日常生活に不都合を感じる場面はたくさんある。

また、文字の読み書きが困難だったり、何かをじっと見て取り組むなどの作業が苦手で集中力もなくなりがちだったりすることから、学習障害(LD)や注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)ではないか、投げられた1つのボールが3つくらいに見えてしまい取れないことから発達性協調運動障害ではないか、などと誤診されることも少なくない。

最近、教育現場などで話題にのぼることの多い「発達障害」だが、それを疑われている子のうち何パーセントかは発達障害ではなく、アーレンシンドロームなのかもしれないのだ。

保育園で薄暗いところを好み、いつもピアノカバーの中で遊んでいた子が、実はアーレンシンドロームだった、ということもありました。その子の場合、小学校に上がって明るい教室に座っていなければならなくなると眩しくて落ち着かず、つい立ち歩いてしまい、周囲から『気になる子』として扱われていました」

あまりの眩しさに頭痛や吐き気などの症状が出たり、疲労から鬱、慢性疲労症候群などを発症してしまったりする例もある。

白熱灯や蛍光灯に比べてエネルギー効率のいいLEDは、地球温暖化の救世主ような存在だが、このLEDによって苦しめられている人もいるという。

「職場の灯りが、蛍光灯からLEDに変わった途端、違和感を感じた、という人もいます。LEDは光の3原色のなかでも青色が強いんです。青い光を敏感に感じてしまう人には、非常に負担になるようです」

カラーレンズによって症状は改善する

病気でも障害でもないとはいえ、本人にとってはつらすぎるアーレンシンドローム。実はこの症状は、感じやすい光をカラーレンズでカットすることで改善される。

そう、紫外線対策のためにサングラスをかけるのと同じ。たとえば、青い光を感じやすい場合は、黄色のカラーレンズ、赤い光を感じやすい場合は水色のレンズなど、補色で光を抑えることができるのだ。

このようなカラーレンズの眼鏡をかけることによって、症状を緩和することができる

熊谷さんが所属する大学の教育相談室では、それぞれの見え方に合わせたカラーレンズをフィッティングしている。レンズ作成費用はおよそ3万円。その後、自分で眼鏡屋に持ち込み、フレーム加工してもらう。

カラーレンズ眼鏡をかけると世界が変わる! こんなにもよく見えるのか、こんなにも目を開けていることが辛くないのか、という喜びの声が多く入る一方で、ひとつ大きな問題がある! 

それは、カラーレンズの色が黄色や水色、ピンクなど、サングラスとしては突飛な色になりがちだということ。不良? 変人?などと偏見の目で見られてしまうとしたらつらい。

「最近、学校では、カラーフィルム、カラーレンズ、カラーノートの使用が認められてきてはいます。一方、企業では、『診断書がないと配慮しない』というところが多いのですが、アーレンシンドロームは医学的診断名ではないことから、アーレンシンドロームを知る眼科医は少なく、診断書を書いてもらうのは難しいんです。我々が書く状況報告書は、診断書ではないために、カラーレンズの装着が認められず、会社を辞めざるをえなくなった人もいます」

熊谷さんの願いは、アーレンシンドロームの存在がもっと世に知られることで、自分がそうであるとは気づかず生きづらさを感じている人が救われること、そして、カラーレンズをつけることがごく自然なかたちで受け入れられる社会になることだ。

「日本人は『みんな同じ』を好むあまり、自分とちょっと違った存在を排除する傾向があります。でも、人それぞれ身長や体重が違うように、実は見え方も感じ方も違うのです。視力矯正用の眼鏡をかけている人があたりまえに受け入れられているのと同じように、カラーレンズをつけることも普通に受け入れてほしい。人の違いに寛容な社会になってほしいですね」

アーレンシンドロームの相談窓口はこちらです→筑波大学心理・発達教育相談室

 
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