民主主義って何となくいいものだとみんな思っている。しかし、はたしてそうか。独裁よりはましだが、欠点もいっぱいあるのが民主主義である。では、民主主義の欠点とは何か。
第一に、根本的な問題として、今の社会の仕組みが複雑になりすぎて国民の理解を超えていることがあげられる。
第二に、社会全体が見えにくいために、有権者も政治家も自分の利益しか考えないようになっている。日本全体のことを考えたうえで投票あるいは政策立案をすべきなのに、みんな徒党を組んで自分の属するグループの利益の最大化を図ることばかり考えている。実際、さまざまな圧力団体が存在し、政党も一部の業界・団体の利益代表になっている。
政治家は国全体のことを考えてまともな仕事をしようと思ったら票が減る。票を得るために有権者の直観に訴えるのが効果的である。だから、やれ景気対策だ、コロナ対策だとか言って札束を並べる。政治家が馬鹿なのではない。水が高いところから低いところに流れるように、自然現象なのである。
第三に、近視眼的なことしか考えない。遠い将来のことなど考えない。例えば、財政赤字、地球温暖化問題、原子力発電などの事例にみられるように、「今さえよければいい」と多くの有権者は考えている。政治家も、100年も200年も先のことを言っていても当選できないので、有権者のニーズに合わせる。その結果、問題の先送りが常態化する。
日本で男子の普通選挙が始まったのは1925年である。女子が投票権を持つようになったのは第二次世界大戦後である。すなわち、20世紀になって初めて「国民主権」の名の下、世界中で一般大衆が政治の表舞台に登場するようになったのである。その結果が民主主義の劣化とでもいうべき現象である。
そんな危機感を抱いていたら、偶然面白い本に出合った。今注目されている成田悠輔氏の『22世紀の民主主義』という著作である。
成田によれば、資本主義とは勝者を徹底的に勝たせるシステムであり、それゆえに格差と敗者を生む。一方、民主主義は生まれてしまった弱者に声を与える仕組みであるという。
ところが、その民主主義が劣化している。たとえば、民主主義的な国ほど経済成長率が低迷しているし、アラブの春は失敗してしまった。現在世界では、独裁・専制国が増えている。
では、民主主義をよみがえらせるにはどうすればいいか。それが「22世紀の民主主義」だという。彼は、今必要なのは「無意識民主主義」であると主張する。具体的には選挙なしの民主主義を実現することである。
そもそも選挙とは民意を吸い上げるためのデータ処理である。しかし、現在の選挙は多数派のお祭りであり、しかも極めて粗いデータしか集められない。22世紀の民主主義を確立するためには、どんな背景を持つ有権者が、どんな政治家や政党を求めているのかを高解度でデータ収集する必要がある。 すなわち投票の「質」を上げる必要がある。
そこで彼が提案するのは、それらのデータ収集をアルゴリズムを使って自動で行い、さらに政策立案まで自動でやるという案である。政治家は必要ない。アルゴリズムで民主主義を自動化するのである。そんなぶっ飛んだ民主主義が可能かどうかはともかく、考えるヒントにはなる。