見出し画像

南英世の 「くろねこ日記」

インセンティブの経済学

インセンティブ(incentive)とは、人々の意思決定や行動を変化させるような要因のことをいう。企業では報奨金を出したり、表彰や人事評価へ反映させたりすることによって、やる気を引き出すための「動機付け」という意味でつかわれることが多い。

最近では、マラソンで日本新記録を出したら1億円もらえるというのがあった。インセンティブには金銭的なもの以外に、楽しさ、快・不快、名誉、優越感、社会的地位、友情恋愛といったものもある。実社会ではさまざまな場面でインセンティブが働いている。

 マクロ的に言えば、近代市民社会では利潤動機がインセンティブとなって発明や起業を促し、資本主義が発達した。ただし、公共財についてはこのようなインセンティブは機能しない。むしろ人々にフリーライダーになろうとするインセンティブを与える。そのため公共財は税金を徴収し供給する。

20世紀に登場した社会主義国家は利潤動機に基づく生産活動を否定して所得分配の平等を追求した。そのため生産活動に対する人々のインセンティブが失われ、経済活動は停滞した。一般に、市場における競争は企業の効率性を高めるインセンティブとなる。効率性を高めるため、日本では21世紀になって公営企業の民営化が推進された。

一方、ミクロの分野では、たとえば、夕方デパートの刺身売りコーナーに行けば値下げが行われている。この場合「値下げ」が購入意欲を引き起こすインセンティブとなっている。かつては携帯電話やスマートフォンの販売において、NTTドコモなどの携帯電話事業者が販売代理店にたいして、契約実績に応じて報奨金を出すことが盛んにおこなわれた。
これとは反対に、社員にノルマを課しノルマを達成できなかった場合には罰を与えことによって社員のやる気を引き出す「負のインセンティブ」もある。この手法は今なお多くの企業で採用されている。

ガソリン価格が高騰すれば、自家用車を低燃費の自動車に買い換えを促すインセンティブとなる。それだけではなく、行楽などの不要な外出を控えることを促すインセンティブにもなる。さらに、ガソリンの価格上昇を受けて政府が低燃費の自動車に対して税制上の優遇措置をとれば、その税制優遇措置が車の買い換えを促すインセンティブとなる。また、日本がバブル経済で沸いた1980年代の後半、土地や株の値上がりは企業の投機のインセンティブとなった。

 こうしたインセンティブを応用して、社会を一定の方向に誘導しようとする試みも盛んにおこなわれている。たとえば、1970年から日本では減反政策が展開されたが、減反に協力してくれる農家へのインセンティブとして補助金が交付された。

また、公害のような外部不経済がある場合、市場メカニズムだけでは最適な状態を達成できなくなる(市場の失敗)。そのため公害を発生させた企業対して課税をしたり、PPP(汚染者負担の原則)を徹底させたりすることによって、負のインセンティブを与えている。

最近では、地球温暖化を防止するために炭素税(環境税)を導入したり、太陽光発電の開発・導入に政府が補助金を出したりして、供給曲線や需要曲線に影響を与える試みも行われている。地球温暖化を防止するために、電気自動車の購入者に対して補助金を交付することもインセンティブを用いた例である。
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日常の風景」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事