本を読んでいると、いくつになっても「うーん、なるほど」という新しい気付きがある。去年、木村草太さんの本を読んでいて憲法の教え方が飛躍的に変わった。 今回、『格差と分断のアメリカ』(西山隆行)を読んでいて、アメリカの貧困問題がなぜ解消の方向に向かわないのかがよく分かった。
第一の理由は、アメリカがイギリスから独立するとき13の植民地が ”State" となったことに関連する。”State"は現在では「州」と訳されるが、本来は主権を擁する「国家」を意味する。すなわちアメリカ合衆国とは元来主権国家の集まりなのである。だから、外交と防衛以外は基本的に各州の権限が今でも大きい。
もちろん福祉政策も基本的に州の仕事である。その結果どういうことが起きるのか?もし、ある州が貧困対策を充実させれば、全米から貧困者が流れ込んでくることは容易に想像できる。各州の独立性が強いとはいっても、人の移動は自由だからだ。そのため、各州は福祉政策には及び腰にならざるを得ない。
第二に、アメリカでは税の多くを中高所得者が負担しており、国民の47%は連邦所得税を支払っていないという現実がある。そのため福祉政策を実施しようとすると税の負担増加を心配する中高所得者が猛反発する。ちなみにアメリカでは「減税」は中高所得者の利益にはなっても貧困層の利益にはならない。貧困層を救済するためには、直接給付を行うしかない。
さらに第三の理由として公的保険制度の問題がある。アメリカでは民間医療保険が発達しており、公的医療保険制度を導入しようとすると、すでに民間医療保険に入っている人々が無保険者(約5000万人)を助けるためにさらに多くの税金を取られることになるとして反発が強いのだ。
アメリカは建国以来「自由」というものに最大の価値を置いてきた。だから裕福になる自由もあれば貧困になる自由もある。貧困は自己責任だ。それがアメリカ人の考え方だ。アメリカの社会保障について説明するときは、これまでそんな説明をしてきた。しかし、それだけでは不十分なことがこの本を読んで理解できた。とくに第一の理由は衝撃的だった。同時に、トランプ大統領を支持する一定のコアな層がアメリカに存在する理由と、左派の主張が容易には実現しないことがよくわかった。
今回、この本を読み終え「メルカリ」に出品しています。
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