「経済学はさまざまな分野で応用が利く」ということをテーマに22人の人が一人6ページずつ書いている。なかなかおもしろい本であった。その中から、印象に残った言葉をいくつか紹介する。
①人々のインセンティブを無視して制度設計しても必ず失敗する。
(なるほど、社会主義はその典型である。人間は最後には本音でしか動かない)。
②解雇規制を強化すれば、不安定雇用や失業者を増やす。
今正社員である人の利益は守られるが、企業は新規採用に慎重になるであろうから、かえって不安定雇用や失業者を増やす可能性がある。
③容姿が良いほど所得が高くなる。
(こんな所にも経済学が応用できるのかとちょっとびっくり)
④早生まれ(1月~3月)の人は損である。
プロ野球選手やサッカー選手は4~6月生の人が多い。これは低学年の頃早生まれの人に比べて体格が有利であり、そのことが「自信」を植え付けたと考えられる。
こうした傾向は、勉強面でも見られる。小学校4年生5000人について調べたところ、4~6月生まれの理科・数学の偏差値が51.2であるのに対して、1~3月の早生まれの偏差値は49.0であった。(なるほど、私が浪人したわけがようやく理解できた??)
⑤豊かになるとなぜ「人口転換」が起きるのか。
長期的な人口が増加傾向から減少傾向に転ずることを「人口転換」と呼ぶ。なぜ人口転換が起きるのか?今まで豊かになれば人口増加率は低下するという一般論で片づけていたが、この本を読んで、そのメカニズムが理解できた。
それによると、義務教育を強制的に導入すると人口転換が起きるのだそうだ。つまり、発展途上国では子どもは貴重な労働力(稼ぎ手)であるが、義務教育によって稼ぎ手ではなく、今度はカネのかかる存在となる。その結果、今までのように多くは育てられず、出生率が低下するというのだ。そして、社会が発展するほど、より高度な知識や技術を持った労働者が求められるようになり、ますます教育費の負担が増加し、この傾向に拍車がかかる。
(なるほど・・・。たったの680円で、いいことを教えてもらった。そのほか、豊かになると、衛生状態が良くなって乳幼児死亡率が低下することや、家族内における女性の地位が高くなることなども関係しているかもしれない。)
⑥談合と大相撲の共通点
千秋楽で7勝7敗の力士が8勝6敗の力士に対して勝つ確率は・・・・
正解は8割近い、ということである。しかも、次の場所で同じ相手と対戦したときの勝率は4割であるという。統計処理をしてみると、大相撲の「からくり」が見えてくる。
実は、これと同じ現象が談合にも見られる。前回、高い入札価格を提示して落札できなかった業者が、次回は落札予定者になる・・・
⑦日本に相続争いが多いわけ
子どもに遺産を残す場合、均等に分けると答えた人がアメリカでは96%いるのに対して日本では49%であるという。反対に、自分の老後の面倒を見てくれた子どもに財産を残すと答えた人は、日本では32%であるのに対して、アメリカではわずか2%である。その結果どうなるか?
結果は目に見えている。親の老後の面倒を見なかった子どもが、親の遺産分割を巡って家庭裁判所に訴え出てくるというわけである。
実におもしろい本であった。今までの日本の学問は、「アメリカの犬がワンと鳴いた。」「そこで日本について調べたらやっぱりワンと鳴いた」という類のものが多かった。しかし、この本を読んで、学問の最先端でもっとも大切なのは発想力であることを改めて思った。私にはとてもそんなユニークなことは思いつかない。学者にならなくてよかった、とつくづく思う。
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