師走の朝は寒く、起きるのはつらい
それでも、自分の店に出向かなくてはならない。
薬屋・煌々堂の店主与一は、朝餉の前に一服しようと、さっさと着替えて女中を待った。
二人の女中はいつも通り5時50分にやってきて、おはようございますとだけ口にし、火鉢と煙管(キセル)を置いていった。
与一はのそりと足を崩し、煙管(キセル)には手を付けず、火鉢に手をかざす。
乾いた喉を早く潤したい。
再び女中が来るのを待つ間、与一は炭を見つめていた。
外はしんと寒く、風が吹くため障子を開ける気にもなれない。
ふと、手元の炭が爆ぜた。
パチッ
炭の焼きが甘いのか。
見つめていると、パチッパチッと線香花火のように爆ぜだした。
思わず引こうとした与一の手を包むように、火花が爆ぜる。
それはさながら風に舞うもみじのようであった。
手を引っ込めることもせず、与一はもみじの形をした炎に見惚れた。
店のことも喉の渇きも忘れ、炎に魅入っていると
「失礼します」
と襖が開き女中が白湯を持ってきた。
目が火鉢から離れ、与一は手に痛みを感じた。
「あついっ」
思わず抱いた手は、両方とも色が変わるほど火傷していた。
女中は白湯を取りこぼした。
呻く主人の目の前の火鉢では、炭が白く灰がちになっていた。
その中に、一枚のもみじが落ちていたが、そんなことは気にならない。
急いで廊下を駆けて助けを呼びに行った。
Moi's craft
もい
(いろりもみじとは、もいの編み物作品のもみじの名前です)
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