日日之爺日

やほおが無くなったので、こちらで少し息抜きを

ブリトラさんの1日:その8

2020-12-04 21:33:51 | 夫庵多爺
「ブリトラさん、」温厚そうな若い、丸い眼鏡を掛けた学級担任の先生は、低いが優しい声で話し掛けた。
「ある程度、お分かりかとは思いますが、」少し間が開く。「息子さんの進路が難しい状況です。」
ブリトラさんは、思わず「ウッ」と声を出し、泣きそうな表情になる。高校三年生になった息子は卒業は出来る見込みだが、
大学も専門学校も希望していない。就職希望だが、それが難しいということなのだ。
予想はしていた、というか、避けられないとも思っていた。しかし、あからさまに言われると悔しい。
いわゆる社会的協調性が大きく掛けていることは知っていた。だからと言ってこんなに簡単に社会から弾き出されるとは、知らなかった。
ブリトラさんは悔しい、悔しくて泣きたくなるのだ。こんなに簡単に。

ブリトラさんの1日:その7

2020-12-04 19:18:35 | 夫庵多爺
息子は、高校生になっていた。ある日、会社からの帰り道、ブリトラさんは、家の近くの藪に自転車が投げ捨てられるのを見た。
最初は気にも留めなかったが、半月ほど経って、また、違う自転車が捨てられてるのを見た。
夕食の時、「今日も藪に自転車が捨ててあったなぁ。きっと駅から人の自転車を乗ってきちゃう人が居るんだよ」と
独り言の様に言った。息子はいつもの様に黙ってご飯を食べていた。
また暫くして、3度目の放置自転車を見た時、ブリトラさんは変だと思った。周辺の家はまばらで、空き地は沢山あるのに、
何でブリトラさんの家のそばに捨てられてるんだろうか、と思った。駅まで歩きで通勤、通学している人は、近所では見掛けない。
「もしかしたら、息子が駅から人の自転車に乗って帰ってきて、捨ててるのかも知れない...」とも考えたが、
強く頭を振って、その悪い考えを頭の中から追い払った。ブリトラさんは、息子が他の子供達と違いがあることを知っていた。
妙に無感動で、言葉が少ないのだ。自分の考えを話すことが上手ではない、全くのところ。