日日之爺日

やほおが無くなったので、こちらで少し息抜きを

ブリトラさんの1日:その11

2020-12-10 13:23:39 | 夫庵多爺
「面倒なことでなければ良いが」と思いながら、ブリトラさんは、会長さんの後を無言で歩く。
会長さんの家に着き、居間に案内され、少し色褪せたソファに腰を下ろしながら、ブリトラさんは、
「何のお話でしょう?」と切り出す。
「お茶かコーヒーでも飲みますか?」と会長さん真面目な面持ちで、ゆっくりと質問をする。
「いいえ、夕飯を作らないといけないので、早めに帰りたいので。」ブリトラさんが答える。
ずっと僕を待ってたんだろうか、声には出さずに、ブリトラさんは会長の口元を見つめる。
少し間を置いて、「言い難いことなんだが」と会長さんが言い出すと、ブリトラさんはドキッとした。
何か非常に悪いことを知らなければいけないような、嫌な気持ちが湧きあがってきた。
ブリトラさんは目を逸らした。木製のテーブルの模様が見るともなくブリトラさんの目に映った。

ブリトラさんの1日:その10

2020-12-10 13:00:08 | 夫庵多爺
声の方向を向いたブリトラさんに、「町内会の会長の下田加ですが」と、男の声が続いた。
少し構えながら、暗がりの中の顔を見極めようと、ブリトラさんは見つめた。
「お話があるんですが、」会長さんは、顔を近付け小声にしながら言った。
「えっ」と、少し驚いて、ブリトラさんは「役員改選の時期でも無いのに、なんだろう」と思った。
「何のお話でしょうか?」丁寧に答える。
「私のところで、少し時間をいただけませんでしょうか?」会長さんは言った。
ちょっと不思議に思いながらも、ブリトラさんは門扉を開けながら「はい」と言った、「車を入れてから。」
会長さんは邪魔にならない様に、道の隅に避けた。
ブリトラさんは車を車庫に入れ、荷物を持って玄関の戸を開け、「ただいま」と2階に居るはずの息子に声を掛ける。
いつもの様に返事は無い。「ちょっと町内会の会長さんのとこに行ってくるから、夕飯待ってて。」
叫ぶ様に言っても、やっぱり返事は無い。玄関の扉の鍵を掛け、門扉を閉め、ブリトラさんは会長さんと共に歩き出す。

ブリトラさんの1日:その9

2020-12-10 12:48:16 | 夫庵多爺
ある冬の夕方、と言ってももう空からの光は無く、少し離れた場所の街灯の光だけが庭先を照らす頃、
ブリトラさんは一日の仕事を終えて、いつもと同じ様に家に着いた。
庭先の駐車場の門扉を開けるために、車を生垣の前の路肩に止め、エンジンを切った。
ドアを開けて降りると、黒い人影が少し遠くに見えた。
その影は、ブリトラさんを見ている様に見えた。少し身構えるブリトラさん。
少し胸をドキドキさせながら、門扉に手を掛ける。意識はその影の方に向いている。
足音がした気がした。冷たい風が頬を撫でた気がした。
「ブリトラさん。」影は聞き覚えのない声を発した。