緑の革命とは
大量の肥料を与えて、米・小麦などの増産を可能にすることである。一般に、米・小麦などの農作物に、肥料を大量に与えると、収穫期まで成長せずに生育の途中で枯れて、減産になってしまう。
緑の革命では、肥料を大量に与えて増産を可能にするため、多肥料に耐える多収量新品種の開発、農薬の使用、灌漑設備網による水管理が重要になる。結果的に、農業用水の十分に管理された条件下で、大量の化学肥料投与に耐える品種が、緑の革命における多収量品種ということになる。
多収量だから、従来の人力・畜力依存の農業から、機械化された農業への転換も必要になる。緑の革命は、種子、灌漑、化学肥料、農薬、農業機械などの資金が必要になる。さらに、適正に農業用水をコントロールしたり、化学肥料を適正に散布したり、農薬の使用の可否を判断するためには、十分な知識か、指導員が不可欠である。
緑の革命とは大量の肥料を飲み込んで生育する米・小麦の新品種への転換のことである。それでも肥料の受容量には限度があり、収量はどこまでも増えることはない。
インドの緑の革命と灌漑
インドの緑の革命は、1960年代の食料不足が問題になってから、始まった。本格的には、1966年に首相に就任したインディラ=ガンディーは、英国植民地時代に灌漑網が整備されていたパンジャブ州とハリヤナ州に政府資金を集中投入し、緑の革命を推進した。米・小麦の多収量新品種に大量の化学肥料を与え、増産を実現した。インディラ=ガンディーが政権を掌握していた時期(1966~77、80~84年)には、大きな気候の異変がないいという幸運に恵まれて米・小麦は増産を続け、インド全土が食料不足に陥ることはなかった。
緑の革命は、パンジャブ州とハリヤナ州では限界に達し、施肥量を増やしても米・小麦の多修了品種の増産はできなくなったのである。今後は、灌漑未整備農地に灌漑網を整備しなければ、緑の革命の全国的展開は困難である。つまり、灌漑網の整備が進めば、インドでは緑の革命が進み、世界の食料庫となる可能性がある。
インドの緑の革命と流通網整備
インド人の年間穀物消費量(kg/1人1年)
米消費量 76kg(中国115kg。日本85kg)
小麦消費量 58kg(中国 67kg。日本45kg)
インド人の穀物消費量の少ない理由は、貧困層が最低限の食事量・食事回数で我慢しているからである。潜在的な飢餓状態にある。インドの耕地面積は中国とほぼ同じ160万k㎡であるが、インドの農業生産量は中国よりは3割は少ない。
灌漑網の整備地域には緑の革命が進んで、米・小麦の生産が限界に達した。これからは、灌漑網の整備を全国に拡大するとともに、貯蔵、輸送などの流通の充実整備も急務である。
実際には、インドは中国程度の生産量はあるとの見方もある。鉄道・道路網の未整備、冷蔵保管施設の不足、販売集金体制の不備などのため、インドの農地で30%の農産物が廃棄されている、と推定されている。中国でも放棄される農産物は多いが、インドほど多くはない。近い将来、インドの流通網が整備されると、中国並みの食料消費量になる。
緑の革命が進められて農産物の生産量が増えたとしても、それが農地から食卓まで届くシステムのない場合、増産分は農地で立ち枯れ足り、農村の集荷場で腐敗したりすることになる。インドでは、国民多数が常時空腹であっても、最低限の食料を配給され、それで一応は満足するので、緑の革命の全土への拡大は難しい。
インドの緑の革命と公共配給制度
日本の食糧管理制度によく似た制度である。第2次世界大戦中に戦地に食料を送るため、国内には最低限の食料を配給する戦時法制であった。戦後、政府が農家から米を高く買って農家を保護する一方、都市住民には安価に米を配給した。米作農家と都市住民との米流通を、政府が独占する制度であった。政府与党は米を高く買って農家の支持基盤を固め、一方、都市住民には安値で配給して、都市も選挙の地盤として囲い込むことができた。しかし、農家は高値の米の生産に力を入れたため、政府保管米は膨張した。その処理問題と食糧管理会計の赤字が、大きな問題になった。
インドの公共配給制度は、日本の食糧管理制度と同じものである。
政府は農家から高値で米を買い入れて、米作農民の生産意欲を高めている。一方、インド全土の貧困層に米を安価に公平に配給するため、世帯ごとに配給手帳が発行されている。配給米の価格は、10kg当たり20円である。インドの一般的市場価格は400~500円であり、日本円では4,000~5,000円に相当する。
インド人の日雇い労働者の日給平均は200円、配給米は10kg20円だから、日給の1割程度の安さである。インドでは配給制度により、制度的には餓死者を出すような事態は起こらないはずである。
政府の公共配給制度による赤字は年8,000億~1兆円であり、インドの国家予算10兆円の1割近くを占める。インド政府にとって、配給制度による財政負担は大きい。インド政府は農家からの米の購入価格を下げ、貧民以外への配給価格を引き上げ、財政負担の軽減を進めている。
インドの米作適地、特に従来からのサトウキビ栽培農家では、政府の米価格支持政策の恩恵を利用することが経済的に利益が大きいので、米作への転換を進めた。インドの緑の革命は、政府の計画を上回る速度で進行した。米はインドの在庫調整の枠を超え、輸出商品作物としての地位を確立した。
米の貿易
インドの米の輸出は、従来の国内の在庫調整的輸出から、輸出をめざした米栽培に転換した大規模農家が多い。米・小麦においては、遺伝子組換による品種改良が困難であり、在来種を主体とした伝統的な品種改良が進められて、多収量品種ができたのである。米は世界的生産過剰にあり、国際価格が低迷している。これはインドの緑の革命、ベトナムのドイモイ政策と緑の革命による国家的増産運動の結果である。
なお、米の輸出量合計は約3,000万トンであり、この貿易量は小麦の輸出量合計の4分の1である。アジアからアジアへの輸出が大部分であり、巨視的にはアジアの自給作物ということになる。
参考 -------------------------
インドの米事情3 公的配給制度
日本の農林水産省の解説==
インドでは、消費者、特に貧困層の食料へのアクセスを確保するための公的配給制度があります。
制度の概略
この制度は、政府が定める最低支持価格で農家から穀物(主として米と小麦)を買付け、市場価格より安い価格でその穀物等を消費者に提供するというものです。そして、この公的配給制度の中心にあるのがインド食料公社(FCI)です。
穀物の買付け
まず、この制度での穀物の買付けですが、そのインド食料公社が穀物を直接農家から買うわけではなく、州や地域の食料公社が各地にある米買入事務所で農家から購入し、それを両機関がインド食料公社に売るという仕組みになっています。
買い上げる米は、一般米である非バスマティ米で、買付価格は、政府が定める最低支持価格ですが、州や地域の食料公社が独自に上乗せをすることができます。
ウッタープラディシュ州の米買入事務所の例では、非バスマティ米を1kgにつき9.5ルピー、品質の良い米は、1kgにつき9.8ルピーで買上を行っていました。
州や地域の食料公社による穀物の買い付けは、インド食料公社の指示のもと行っていた時代がありましたが、現在は、それぞれの独自の判断で穀物の買付けを行い、州独自でも備蓄を実施しているとのことでした。
配給の対象
次に配給の対象ですが、当初この制度の配給対象は、全ての消費者であり、共通の配給価格が設定されていましたが、その後貧困層がより安い価格で購入できる制度が開始されました。
この新たな制度では、一般の店では1kgあたり11ルピーかかるところ、貧困層は全国各地にある公定価格の店で、米を1kg当たり3ルピー(約6円/kg)という低価格で購入できるようになりました。
購入できる穀物の量ですが、ウッタープラディシュ州の公定価格の店での聞き取りによると、貧困層は、基本的には毎月米を20Kgと小麦15Kgの合計35Kgの穀物を購入できますが、米だけを35Kg購入することもできるとのことでした。
貧困層の認定
このように、政府配給品を貧困層向け価格で購入するには、その世帯が一定水準以下で生活していることが認定されなければなりません。その認定が村議会等によりなされるとその証明としてカードが渡され、そのカードの提示により貧困層向け価格で穀物を購入できるようになります。
外務省在インド日本大使館 http://www.in.emb-japan.go.jp/index-j.html
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大量の肥料を与えて、米・小麦などの増産を可能にすることである。一般に、米・小麦などの農作物に、肥料を大量に与えると、収穫期まで成長せずに生育の途中で枯れて、減産になってしまう。
緑の革命では、肥料を大量に与えて増産を可能にするため、多肥料に耐える多収量新品種の開発、農薬の使用、灌漑設備網による水管理が重要になる。結果的に、農業用水の十分に管理された条件下で、大量の化学肥料投与に耐える品種が、緑の革命における多収量品種ということになる。
多収量だから、従来の人力・畜力依存の農業から、機械化された農業への転換も必要になる。緑の革命は、種子、灌漑、化学肥料、農薬、農業機械などの資金が必要になる。さらに、適正に農業用水をコントロールしたり、化学肥料を適正に散布したり、農薬の使用の可否を判断するためには、十分な知識か、指導員が不可欠である。
緑の革命とは大量の肥料を飲み込んで生育する米・小麦の新品種への転換のことである。それでも肥料の受容量には限度があり、収量はどこまでも増えることはない。
インドの緑の革命と灌漑
インドの緑の革命は、1960年代の食料不足が問題になってから、始まった。本格的には、1966年に首相に就任したインディラ=ガンディーは、英国植民地時代に灌漑網が整備されていたパンジャブ州とハリヤナ州に政府資金を集中投入し、緑の革命を推進した。米・小麦の多収量新品種に大量の化学肥料を与え、増産を実現した。インディラ=ガンディーが政権を掌握していた時期(1966~77、80~84年)には、大きな気候の異変がないいという幸運に恵まれて米・小麦は増産を続け、インド全土が食料不足に陥ることはなかった。
緑の革命は、パンジャブ州とハリヤナ州では限界に達し、施肥量を増やしても米・小麦の多修了品種の増産はできなくなったのである。今後は、灌漑未整備農地に灌漑網を整備しなければ、緑の革命の全国的展開は困難である。つまり、灌漑網の整備が進めば、インドでは緑の革命が進み、世界の食料庫となる可能性がある。
インドの緑の革命と流通網整備
インド人の年間穀物消費量(kg/1人1年)
米消費量 76kg(中国115kg。日本85kg)
小麦消費量 58kg(中国 67kg。日本45kg)
インド人の穀物消費量の少ない理由は、貧困層が最低限の食事量・食事回数で我慢しているからである。潜在的な飢餓状態にある。インドの耕地面積は中国とほぼ同じ160万k㎡であるが、インドの農業生産量は中国よりは3割は少ない。
灌漑網の整備地域には緑の革命が進んで、米・小麦の生産が限界に達した。これからは、灌漑網の整備を全国に拡大するとともに、貯蔵、輸送などの流通の充実整備も急務である。
実際には、インドは中国程度の生産量はあるとの見方もある。鉄道・道路網の未整備、冷蔵保管施設の不足、販売集金体制の不備などのため、インドの農地で30%の農産物が廃棄されている、と推定されている。中国でも放棄される農産物は多いが、インドほど多くはない。近い将来、インドの流通網が整備されると、中国並みの食料消費量になる。
緑の革命が進められて農産物の生産量が増えたとしても、それが農地から食卓まで届くシステムのない場合、増産分は農地で立ち枯れ足り、農村の集荷場で腐敗したりすることになる。インドでは、国民多数が常時空腹であっても、最低限の食料を配給され、それで一応は満足するので、緑の革命の全土への拡大は難しい。
インドの緑の革命と公共配給制度
日本の食糧管理制度によく似た制度である。第2次世界大戦中に戦地に食料を送るため、国内には最低限の食料を配給する戦時法制であった。戦後、政府が農家から米を高く買って農家を保護する一方、都市住民には安価に米を配給した。米作農家と都市住民との米流通を、政府が独占する制度であった。政府与党は米を高く買って農家の支持基盤を固め、一方、都市住民には安値で配給して、都市も選挙の地盤として囲い込むことができた。しかし、農家は高値の米の生産に力を入れたため、政府保管米は膨張した。その処理問題と食糧管理会計の赤字が、大きな問題になった。
インドの公共配給制度は、日本の食糧管理制度と同じものである。
政府は農家から高値で米を買い入れて、米作農民の生産意欲を高めている。一方、インド全土の貧困層に米を安価に公平に配給するため、世帯ごとに配給手帳が発行されている。配給米の価格は、10kg当たり20円である。インドの一般的市場価格は400~500円であり、日本円では4,000~5,000円に相当する。
インド人の日雇い労働者の日給平均は200円、配給米は10kg20円だから、日給の1割程度の安さである。インドでは配給制度により、制度的には餓死者を出すような事態は起こらないはずである。
政府の公共配給制度による赤字は年8,000億~1兆円であり、インドの国家予算10兆円の1割近くを占める。インド政府にとって、配給制度による財政負担は大きい。インド政府は農家からの米の購入価格を下げ、貧民以外への配給価格を引き上げ、財政負担の軽減を進めている。
インドの米作適地、特に従来からのサトウキビ栽培農家では、政府の米価格支持政策の恩恵を利用することが経済的に利益が大きいので、米作への転換を進めた。インドの緑の革命は、政府の計画を上回る速度で進行した。米はインドの在庫調整の枠を超え、輸出商品作物としての地位を確立した。
米の貿易
インドの米の輸出は、従来の国内の在庫調整的輸出から、輸出をめざした米栽培に転換した大規模農家が多い。米・小麦においては、遺伝子組換による品種改良が困難であり、在来種を主体とした伝統的な品種改良が進められて、多収量品種ができたのである。米は世界的生産過剰にあり、国際価格が低迷している。これはインドの緑の革命、ベトナムのドイモイ政策と緑の革命による国家的増産運動の結果である。
なお、米の輸出量合計は約3,000万トンであり、この貿易量は小麦の輸出量合計の4分の1である。アジアからアジアへの輸出が大部分であり、巨視的にはアジアの自給作物ということになる。
参考 -------------------------
インドの米事情3 公的配給制度
日本の農林水産省の解説==
インドでは、消費者、特に貧困層の食料へのアクセスを確保するための公的配給制度があります。
制度の概略
この制度は、政府が定める最低支持価格で農家から穀物(主として米と小麦)を買付け、市場価格より安い価格でその穀物等を消費者に提供するというものです。そして、この公的配給制度の中心にあるのがインド食料公社(FCI)です。
穀物の買付け
まず、この制度での穀物の買付けですが、そのインド食料公社が穀物を直接農家から買うわけではなく、州や地域の食料公社が各地にある米買入事務所で農家から購入し、それを両機関がインド食料公社に売るという仕組みになっています。
買い上げる米は、一般米である非バスマティ米で、買付価格は、政府が定める最低支持価格ですが、州や地域の食料公社が独自に上乗せをすることができます。
ウッタープラディシュ州の米買入事務所の例では、非バスマティ米を1kgにつき9.5ルピー、品質の良い米は、1kgにつき9.8ルピーで買上を行っていました。
州や地域の食料公社による穀物の買い付けは、インド食料公社の指示のもと行っていた時代がありましたが、現在は、それぞれの独自の判断で穀物の買付けを行い、州独自でも備蓄を実施しているとのことでした。
配給の対象
次に配給の対象ですが、当初この制度の配給対象は、全ての消費者であり、共通の配給価格が設定されていましたが、その後貧困層がより安い価格で購入できる制度が開始されました。
この新たな制度では、一般の店では1kgあたり11ルピーかかるところ、貧困層は全国各地にある公定価格の店で、米を1kg当たり3ルピー(約6円/kg)という低価格で購入できるようになりました。
購入できる穀物の量ですが、ウッタープラディシュ州の公定価格の店での聞き取りによると、貧困層は、基本的には毎月米を20Kgと小麦15Kgの合計35Kgの穀物を購入できますが、米だけを35Kg購入することもできるとのことでした。
貧困層の認定
このように、政府配給品を貧困層向け価格で購入するには、その世帯が一定水準以下で生活していることが認定されなければなりません。その認定が村議会等によりなされるとその証明としてカードが渡され、そのカードの提示により貧困層向け価格で穀物を購入できるようになります。
外務省在インド日本大使館 http://www.in.emb-japan.go.jp/index-j.html
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