大気の大循環
太陽から地球に到達する熱は、赤道付近で強く、極付近では弱い。もし、赤道から極に熱が運ばれないと,赤道付近は生物の住むことができないほど熱くなる。極付近で積雪が多いと、それが融けずに氷河となる。しかし、実際には赤道付近の熱が極方向に運ばれ、地球は動植物の生存に適した気温になる。地球の南北の気温差をほどよく調整するのが風である。風は空気の温度差で生じ、温度差を小さくする役割を果たす。
赤道無風帯
赤道付近は強い日射のために気温が上昇して、水蒸気を含む空気塊が上昇する。上空で冷やされ5,000~10,000mで積乱雲となり、赤道付近で毎日スコールをもたらす。スコールの形で水と熱を失った空気塊は10,000m以上の上空で冷えるが、下からの上昇気流に押されて、北緯・南緯30度付近まで流れて沈降する。沈降した空気塊は乾燥し、地上では乾燥気候をつくり、赤道方向に流れる。これが貿易風である。
赤道無風帯の上昇気流、10,000m上空の北風、北緯30度付近の下降気流、地上の貿易風は、空気塊の大規模な対流を形成する。18世紀に英国人気象学者Hadleyが発見した対流現象であり、ハドレー循環といわれる。ハドレー循環により赤道付近は雨の多い熱帯気候であり、北回帰線~北緯30度では乾燥気候である。
フェレル循環
フェレル循環とは中緯度の平均的な風である。中緯度は温帯低気圧の通り道である。温帯低気圧の平均状態について、北は上昇気流、南が下降気流となる。偏西風は西から東に吹くが、温帯低気圧・温帯高気圧を西から東に移動させ、水平方向のエネルギー交換をしている。フェレル循環は水平方向(横方向)である。ハドレー循環と極循環は垂直方向(縦方向)の対流である。
極東風:極は低温のため、上空の空気が地表に沈降する。この下降気流が極高圧帯である。極高圧帯から低緯度側に吹く風にコリオリの力が働いて北東の風となる。垂直つまり縦方向の対流現象であり、極循環といわれる。極循環とフェレル循環の境界が偏西風帯である。偏西風の波動によって温帯低気圧と高気圧が交互に並んで移動し、極の冷たい空気が温帯に流れ、温帯の暖かい空気が冷帯に流れる。極東風は、温帯と冷帯の熱交換に大きな役割を果たす。
偏西風
ハドレー循環による高温の風と、極循環による低温の風とが不連続線を作る。北極からの冷気が下に、温帯からの暖気が上になる。この不連続線上には低気圧・高気圧が交互に並ぶ。高気圧が寒気を運び、低気圧が暖気を運び、不連続線の温度差を小さくする。
不連続線を西から東に進み、平均的に見れば、西風が地球を1周する。これが偏西風である。偏西風は流れる位置が常に変わるが、変わらない場合には長期間低気圧あるいは高気圧が同じ位置にあり、長雨とか干ばつのうような気象災害が起こる。偏西風の流路の固定化がブロッキング現象である。
偏西風はハドレー循環と極循環の境界にできるが、コリオリの力によって西風になる。季節によって流路が変動したり、ヒマラヤのような大山塊では分流したりする。日本の梅雨の季節には、偏西風はヒマラヤまで南下し、アラビア海のモンスーンを日本上空に運んで、梅雨をもたらす。冬にはオホーツク海上の流路が固定化し、西高東低の冬型気圧配置を長期間にわたって固定化することがある。また、日本に襲来する台風の進路をさえぎったり、進路を大きく変えたりする。
2005年12月、偏西風の南下状態が継続し、北極からの寒気団が日本をおおった。偏西風の流れる位置が固定したブロック状態が続き、日本列島に異常な寒さをもたらした。
偏西風のブロック状態は、季節を問わずに起こり、日本の気候を長期間固定化させて、思わぬ災害をもたらす。
ケッペンの気候区分の地図
地球大気の大循環とケッペンの気候区分とは、ほぼ一致する。気温と降水量のデータは得るのが簡単であり、世界の気候区分に適している。
ケッペンの気候区分の判定式があるが、用いる数値は経験的なものである。
例えば、熱帯気候は最寒月が18℃以上とするが、熱帯の植生分布が18℃だから18℃なのであり、それ以上の根拠はない。
同様に、冷帯気候は最寒月が-3℃以下とするが、針葉樹と落葉広葉樹の境界がこのあたりだから-3℃なのである。-3℃の等温線を境界として、植生が突然入れ替わるのではない。
※ ケッペンの気候区分判定(クリックすると別画面で拡大表示)
仮想大陸によるケッペンの気候区分
ヨーロッパとアフリカを念頭に置いた、仮想大陸の気候区分である。
南半球では南緯60度付近では大陸がほとんどないため、南半球には冷帯(亜寒帯)Dは存在しない。
北半球の北緯30度~60度の西海岸と東海岸を比較すると、次のように対応する。
西岸気候 東岸気候
BS - Cw
Cs - Cfa
Cfb - Df
ユーラシア大陸で考えると、大西洋岸(西岸)は、太平洋岸(東岸)よりも温暖なことを示す。
大西洋岸を流れるメキシコ湾流と、その上を吹く偏西風の影響である。
太平洋岸にも暖流の黒潮が流れるが、偏西風と北西季節風が大陸の冷たい空気を運んで来るからである。