リン酸カルシウム共沈殿法
- リン酸カルシウム共沈殿法は、成分が入手しやすく、安価であるため、1970年代初期に導入されて以来(Graham and van der Eb, 1973)、よく用いられているトランスフェクション法です。さらに、この手法はマスターしやすく、多くのタイプの培養細胞に効果的であり、様々な培養細胞タイプの一過性および安定トランスフェクションに使用可能です。しかしながら、リン酸カルシウム共沈殿法は、pH、温度、およびバッファー塩濃度の微小な変化に対する感受性が高いため変動しやすい傾向があり、また多くのタイプの細胞の培養、特に初代細胞の培養において毒性を持つ可能性があります。加えて、全ての動物に対するin vivo核酸導入が適さず、脂質媒介性トランスフェクションなどの他の化学的トランスフェクション法に比べて比較的低いトランスフェクション効率を示します。
リン酸カルシウム共沈殿法の原理は、リン酸緩衝生理食塩水中でDNAを塩化カルシウム溶液と混合すると、リン酸カルシウム-DNA共沈殿物が生じ、この沈殿の懸濁液を培養細胞の上に乗せることでDNAが取り込まれるというものです。リン酸カルシウムは共沈殿物中に濃縮されたDNAの細胞表面への結合を促進し、DNAはエンドサイトーシスにより細胞に侵入します。DNA-塩化カルシウム溶液をリン酸バッファーに添加している間、バッファーに通気を供給することは、できるだけ微細な沈殿を確実に形成させるために重要です。なぜなら、DNAは凝集すると細胞に付着することも効率良く細胞に侵入することも困難となるからです。