YOMIURI ONLINE Biz活 今を読む コーナーに「炭水化物は敵ではない」という記事があることを『新しい創傷治療』のサイトで知る。
http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/columnscience/20130724-OYT8T00579.htm
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「炭水化物は敵ではない」
調査研究本部主任研究員 芝田裕一
炭水化物の摂取を控える糖質制限(低炭水化物)ダイエットが注目されている。
減量にそれなりの効果はあるのかもしれない。しかし、炭水化物を目の敵にし、糖質ゼロを追求する食事療法はやりすぎではないか。
摂取カロリー制限と並ぶ人気の「糖質制限ダイエット」
6月の土曜日、東京・柴又帝釈天の参道を歩いていたとき、1年ほど前に退職した同僚が、饅頭まんじゅう屋の売り場で働いているのを見かけた。事務職が長かった女性だが、立ち仕事に変わったせいか、すっきりと痩せて見えた。「若返ったようですね。どうしたのですか?」と尋ねると、「糖質制限ダイエットで10kgほど減量したの」という答えが返ってきた。
体形に敏感な若い世代をターゲットにした雑誌「ターザン」(マガジンハウス)6月27日号が、「痩せるのはどっちだ!? 糖質制限VSカロリー制限」という特集を掲載していた。摂取カロリー制限がダイエットの王道と言われてきたが、カロリーを気にせず炭水化物だけを控える糖質制限ダイエットの評判が国内でも高まり、利用者数において摂取カロリー制限と覇を争うまでになっているという。
食習慣が異なる欧米のデータに基づく議論
今月上旬には、糖質制限ダイエットを後押しする本が新聞の書評欄で紹介された。一流科学雑誌「サイエンス」に記事を寄稿する米国のサイエンスライターが書いた「ヒトはなぜ太るのか?」(メディカル・トリビューン)だ。
この本によると、摂取カロリーを減らし、運動量を増やしても体重はあまり減らない。痩せるためには炭水化物の摂取を避けるしかない。人類が穀物の栽培を始めたのは1万2000年前にすぎず、それ以前の250万年間は肉食中心の狩猟採集生活だった。それゆえに人類の遺伝子は穀物すなわち炭水化物の代謝に十分に適応できておらず、炭水化物を摂ると体脂肪の蓄積を促すインスリンが分泌されやすくなってしまうという。
炭水化物が悪者のように扱われているが、この本は主に米国や欧州での調査データに基づいて議論している。以前よりアメリカナイズされたとはいえ、日本の食習慣は欧米とは大きく異なっている。
細菌の力で炭水化物から必要な栄養を作ってきた日本人
炭水化物を擁護する話を一つ紹介しよう。人間の腸の中にはいろいろな種類の細菌(腸内細菌)が住んでいて、人間が消化できないものを分解し、代謝する手助けをしている。東京大学の服部正平教授たちが、日本人の腸内細菌と欧米人の腸内細菌を比べたところ、日本人の腸内細菌には、炭水化物を分解する能力を持つタイプが多いことがわかった。欧米人には消化できない海藻の炭水化物(セルロース)さえ、代謝してしまう細菌もいた。炭水化物依存度の高い食生活を続けてきた日本人は、遺伝子に足りない能力を細菌の力で補い、炭水化物から必要な栄養を作り出してきたのだ。もし日本人が炭水化物の摂取を大きく減らしたら、体の調子がおかしくなるのではないか。
糖質を制限すればいくら食べてもいいというメッセージは危険
ターザンの特集には、日本糖尿病学会理事の宇都宮一典・東京慈恵会医科大学教授のインタビューも載っている。日本で糖質制限ダイエットが広まったのは糖尿病の治療食がきっかけとされるが、糖尿病学会は極端な糖質制限ダイエットには批判的であり、宇都宮教授は「糖質を制限すれば、何をいくら食べてもいいというメッセージは危険だ。(健常な人は)エネルギーの50~60%を炭水化物から摂るのが適切」と訴えている。
居酒屋で友人とダイエット談議をしているうちに、お開きの時間がきた。最後に仕上げのそばを頼んでもいいかな? 少しカロリーオーバーになるけど、炭水化物が大好きなんだ。
(2013年7月25日 読売新聞)
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べつに炭水化物を目の敵にしているわけではないが、先ずは『締めのおそば、締めのラーメン』を避けたいものだ。
http://www.yomiuri.co.jp/job/biz/columnscience/20130724-OYT8T00579.htm
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「炭水化物は敵ではない」
調査研究本部主任研究員 芝田裕一
炭水化物の摂取を控える糖質制限(低炭水化物)ダイエットが注目されている。
減量にそれなりの効果はあるのかもしれない。しかし、炭水化物を目の敵にし、糖質ゼロを追求する食事療法はやりすぎではないか。
摂取カロリー制限と並ぶ人気の「糖質制限ダイエット」
6月の土曜日、東京・柴又帝釈天の参道を歩いていたとき、1年ほど前に退職した同僚が、饅頭まんじゅう屋の売り場で働いているのを見かけた。事務職が長かった女性だが、立ち仕事に変わったせいか、すっきりと痩せて見えた。「若返ったようですね。どうしたのですか?」と尋ねると、「糖質制限ダイエットで10kgほど減量したの」という答えが返ってきた。
体形に敏感な若い世代をターゲットにした雑誌「ターザン」(マガジンハウス)6月27日号が、「痩せるのはどっちだ!? 糖質制限VSカロリー制限」という特集を掲載していた。摂取カロリー制限がダイエットの王道と言われてきたが、カロリーを気にせず炭水化物だけを控える糖質制限ダイエットの評判が国内でも高まり、利用者数において摂取カロリー制限と覇を争うまでになっているという。
食習慣が異なる欧米のデータに基づく議論
今月上旬には、糖質制限ダイエットを後押しする本が新聞の書評欄で紹介された。一流科学雑誌「サイエンス」に記事を寄稿する米国のサイエンスライターが書いた「ヒトはなぜ太るのか?」(メディカル・トリビューン)だ。
この本によると、摂取カロリーを減らし、運動量を増やしても体重はあまり減らない。痩せるためには炭水化物の摂取を避けるしかない。人類が穀物の栽培を始めたのは1万2000年前にすぎず、それ以前の250万年間は肉食中心の狩猟採集生活だった。それゆえに人類の遺伝子は穀物すなわち炭水化物の代謝に十分に適応できておらず、炭水化物を摂ると体脂肪の蓄積を促すインスリンが分泌されやすくなってしまうという。
炭水化物が悪者のように扱われているが、この本は主に米国や欧州での調査データに基づいて議論している。以前よりアメリカナイズされたとはいえ、日本の食習慣は欧米とは大きく異なっている。
細菌の力で炭水化物から必要な栄養を作ってきた日本人
炭水化物を擁護する話を一つ紹介しよう。人間の腸の中にはいろいろな種類の細菌(腸内細菌)が住んでいて、人間が消化できないものを分解し、代謝する手助けをしている。東京大学の服部正平教授たちが、日本人の腸内細菌と欧米人の腸内細菌を比べたところ、日本人の腸内細菌には、炭水化物を分解する能力を持つタイプが多いことがわかった。欧米人には消化できない海藻の炭水化物(セルロース)さえ、代謝してしまう細菌もいた。炭水化物依存度の高い食生活を続けてきた日本人は、遺伝子に足りない能力を細菌の力で補い、炭水化物から必要な栄養を作り出してきたのだ。もし日本人が炭水化物の摂取を大きく減らしたら、体の調子がおかしくなるのではないか。
糖質を制限すればいくら食べてもいいというメッセージは危険
ターザンの特集には、日本糖尿病学会理事の宇都宮一典・東京慈恵会医科大学教授のインタビューも載っている。日本で糖質制限ダイエットが広まったのは糖尿病の治療食がきっかけとされるが、糖尿病学会は極端な糖質制限ダイエットには批判的であり、宇都宮教授は「糖質を制限すれば、何をいくら食べてもいいというメッセージは危険だ。(健常な人は)エネルギーの50~60%を炭水化物から摂るのが適切」と訴えている。
居酒屋で友人とダイエット談議をしているうちに、お開きの時間がきた。最後に仕上げのそばを頼んでもいいかな? 少しカロリーオーバーになるけど、炭水化物が大好きなんだ。
(2013年7月25日 読売新聞)
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べつに炭水化物を目の敵にしているわけではないが、先ずは『締めのおそば、締めのラーメン』を避けたいものだ。