直列☆ちょこれいつ

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レビュー:崖の上のポニョ

2010年02月15日 | レビュー系


映画、『崖の上のポニョ』を見ました。

崖の上の一軒家で暮らす5歳の男の子が海で拾った謎の生物は、
守り育てようと思ったのに
謎の波にさらわれていなくなりました。
男の子ががっかりしていると、謎の生物は
人型になって海面上昇と共にやってきました。

とりあえずその晩は幼児と幼児の母親と謎生物の女の子で
一緒にごはんを食べますが、そのあと母親は出かけて行き
朝になっても二人だけで残されました。
そこで二人は水没した町へ小さな船で漕ぎ出し、
幼児の母親を探しに行きます。

その途中、女の子は寝くずれて正体をなくします。
でも女の子の両親に拉致されて話した結果、
男の子が女の子を好きでいると誓い、
その誓いを守り続けるのであれば女の子は元に戻り、
水没した町も元に戻るとわかります。
男の子は特になにも考えず、誓いを立てます。
そして世界はいろいろと元に戻ったのでした。


……というようなお話です。

一言であらわすなら、『おとなも見ていられる絵本』。
それだけです。

話は基本的にありません。
 男の子が謎生物を拾う→失う→謎生物が人間の女の子の
 形になってやってくる→一緒に男の子の母親を探しに行く

という、それだけです。
ヒロインに見える謎生物の女の子は、
実はヒロインですらありません。
たとえば『指輪物語』での指輪のような役割、
『ブッシュマン』でのコーラの瓶程度の存在です。

基本的に、物語には葛藤というものがあります。
現在では『葛藤モノ』とも呼べるような、
事件が起こってそれに対して人々が葛藤する様ばかりを
描いた映画すらあります。

中学生くらいの恋があまずっぱくきれいなのは、
葛藤がねじれていないからです。
好きだから好きで、一緒にいたいけれど
告白が恥ずかしいし、その後が怖い。
だから告白できないけれど、やっぱり告白もしたい。
そういう葛藤です。

でもそれが大学や勤め人になると、そうもいきません。
自分が相手を好きで、相手も自分を好きで。
一緒にいたいけれど、相手は親の介護があって
家を出ることができないと言い、
自分も自分のことで手一杯で、相手の親の介護まで
できるような精神的・肉体的・金銭的余裕もなく、
好き合う二人は周りの問題で一緒になることもできず、
結婚することもできない。
……そんな事態も起こってきます。

一方、幼児の恋愛は単純です。
好きという言葉を知っているから、
良い感情を持っているものに好きという。それだけです。
一生愛することの重さも知らず、
将来の可能性もすべて捨て去り……というよりも、
見ることもできずに、現在好きだから
そのまま好きという言葉を発するだけ。
そこには何の葛藤もありません。

この映画では、男の子が謎生物の女の子を
好きであり、好きでいつづけるなら
その女の子は人間でいられるようになるという状況になります。
そこで男の子は簡単に、現在好きだし、
好きでいつづけるというようなことをいいますが、
その言葉はとても軽いです。

「こんどの誕生日に都心に高級アパート一棟買ってくれる?」
「うん、買う買う」
というような、てきとうなお茶の間でのやりとりみたいな
そらぞらしさを感じます。

たぶんこの映画は、現実でないものの中に
生きている幼児に向けたものなのでしょう。
意味を考えながら見るおとなは、
意味がないために楽しめないような気がします。

でも、アニメの本質は、絵が動くこと。
現実世界では動くことがないとわかっている絵が、
手元でぱらぱら漫画になって動き出すのを見たとき、
単純に『すごい』と思った人はいるのではないでしょうか。
この映画は、そこの部分の感覚を呼び覚ましてくれます。
波や魚、車がいきいきと動くさまは、
単純に『すごい』という感心だけが浮かんできます。

絵で魅せてくれ、話も退屈はしません。
主役の母親は脇見運転をしたり、無謀運転をしたり、
主役の子はシートベルトをしろと何度も言われながら
かたくなにシートベルトをしなかったりと
道義的に見ると引っかかりはしますが、見ていられます。

でも終わったあとに残るものがなく、
『あれ? これだけ?』
と呆気にとられる感じです。
思わせぶりな舞台はありますが、『あるだけ』で
一切説明されなくてもやもやします。

全体として映画をまとめるならば、
ものたりなくて、残念な映画でした。
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